焼肉ー。

『あー、腹減った。石焼ビビンバくいいかね?』

保健委員のプリント印刷してたら、比呂がいきなりそんなこという。
昼飯前だから、腹減ってんの当たり前だけど石焼ビビンバって・・・

購買には無いメニューよ、それは。

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。』

比呂の石焼ビビンバ発言が、マジなのかギャグなのか、てんで見当つかないから
無言で比呂をじ・・・・・とみたら、『ガンをとばすな。』と、デコをチョップされた。
・・今日、コンタクトすんの忘れたから、視力ほぼゼロでよく見えねえの!
俺は制服の胸ポケから、めがね取り出して、かけて比呂を見る。

しばし見つめあう俺たち。『一点凝視ヤメロ。』と、またチョップされる。

『いてえな〜。ビビンバなんか、どこにあるんだよ。』
『巷の焼肉屋にあるだろ。な、食いにいこうぜ、どうせ暇だろ。』
『俺は暇だけど、比呂、バイトだろ?』
『さっき休みとった。だから暇。じゃ、学校終わったら一旦着替えて、遊ぼうな。』
『まじで?!!!』

俺、満面の笑み。やったー!!なんで?朝、俺、『今日は塾が急に休みになったんだー。』って
比呂に話したんだけど、そのときは何もいってなかったのに。

わ・・・・・・わざわざ休みとってくれたのかな。

今、学校の帰り道。3分も待つ交差点の信号に引っかかり中。くっそ寒いぜ。
さてとそろそろ信号も変わる。何着てこうかな〜。とりあえずコンタクトは真っ先に装着だ!


**********

ただいまー。うーわー。まだドキドキする。
別になんかしたわけじゃねえんだけど・・・2人焼肉すげえ楽しかった。

駅北の焼肉屋に行って、個室に入ってなんかときめいて
俺にメニュー見せるとすげえ迷うってわかってる比呂が
先発メンバーを適当に選んで、店員さんに注文してくれる。
店員さんがメニュー確認した後に部屋を出ていってそしたら比呂が、俺にメニュー渡す。

『好きなの選びな。なんでもいいよ。』

どうもありがとう・・。俺、ゆっくり選べる。

注文品が一気に運ばれて、とりあえずウーロンで乾杯。
『ファンタじゃないんだね。』って俺が言うと
『ファンタじゃないんだよ。』って比呂が笑った。

割り箸割って、比呂が肉を焼き始める。豚バラから油がでて火力強いから、目を細める比呂。
俺が手伝おうとしたら『熱いからやめときな。』っていう。
俺が、しょぼんとして、比呂をみるとにこっと笑った比呂が『焼肉久しぶりだね。』っていった。

焼けたのから、俺の皿に置いていく。『比呂は?くわねえの?』って俺が聞くと
『お前は猫舌なんだから、皿の上でちょっと冷ますんでしょー。』だって。
ああ、そうか・・って思って、タレをかけようと思って比呂をみると
『俺は辛いのでいい。』っていうから、比呂の皿に辛口のタレをいれた。

一口食ったらうまくって、比呂から受け取ったメニューを見る。

『比呂ー・・。』
『あー?』
『生野菜食べたい。』
『・・・サラダあったろ?選びな。』
『・・・チョレギがいい。』
『・・いいよ。うん。』
『あと、アイスも頼んでいい?』
『いいよ。でも、肉とか飯を食った後にしろよ。』
『うん・・。そうだ、あのさ。』
『んー?』
肉焼きながら、少し煙たそうな顔で、俺の顔を見る比呂。
『さっき、ビビンバ頼むの忘れてたよ?』
比呂は、あ・・・って顔をして
『一番重要じゃんなーそこ!那央、えらい!』
っていって、すっごいケラケラ楽しそうに笑ってくれた。やったー!

比呂が店員さん呼んで、メニュー追加。
念願の石焼ビビンバは、俺がスープちょっといれてぐるぐるかき混ぜてあげる。
『お前も食いな?』っていうから、一つのビビンバを二人で食った。

『ねえ、比呂。』
『なに?』

焼肉のタレに、秘伝のトッピングを色々混ぜて独自の味を
開発することに集中しかけてた比呂は、俺に目を向けた。
その目つきが、俺の胸を射抜く。

『・・ここんとこ・・・なんか俺・・、色々悪かったね・・。なんか。』
申し訳なさげに話す俺を見て、比呂は、あはって笑って言う。
『悪かねえだろ・・つか、なんのことだぁ?謝られることなんか、なんにもないよ。』
言いながら比呂は、また肉を焼き始める。
ネギ塩牛タンはすぐ焼けた。比呂は俺のレモン汁の皿にそれをのせてくれた。

『・・・あのさー、ユッキー。』
『え?』
『あと少しで終わりだねー。今年も。』
『うん。』
『初詣・・とか行きたいねー。』
『・・うん。行きたいね。』
『・・行こうねー。一緒に。 』
『・・・うん。』


・・行きたいねって俺が言ったら、比呂が行こうねっていってくれた。
心の奥底がくすぐったい。
その後も比呂は、友達の話や、音楽の話で俺を笑わせてくれた。


焼肉屋からの帰り道、『お前、アイス食い忘れただろ?!』って比呂が言い出して、
駅前のアイス屋でアイスをかってくれた。外は寒いから店内で食べる。
比呂は、コーヒー味のアイスで、俺は苺アイスに生クリームかかったキュートなやつ。
外を見ながら、アイス食って、比呂がちょっと黙ったから
昨日まで話してた色々なことを、また話題に取り上げて話すのかな〜と思ったけど
比呂が次に話しだしたのは、『今度、また遠出したいね。』ってことだった。

行き先考えないで、電車にのって、どこか行ってみたいね・・だって。

・・・比呂は、・・優しいなあ・・・。
うまく言えないけど、今日の焼肉だってきっと・・・昨日までの俺を心配して
誘ってくれたんだと思うんだ。
バイトまで休んでくれて・・・さ。相変わらず俺には恩着せがましいこと言わないし。

だけどお礼をどうしても言いたかったから
アイス屋を出た後、帰り道の途中、俺から比呂に言ったんだ。
『今日はありがとう・・バイトまで休んでくれて・・・。』って。
そしたら比呂、俺のほうをみて、ただ、にこっとしてくれた。あの優しい笑顔で。

いつもの別れ道、比呂は俺の家のほうに歩いてくれる。
『夜は危険だからね。家まで送る。』だって。・・もう・・・。
『いいよ。遠回りじゃん。俺は大丈夫だよ。』って俺、思ってもいないくせに比呂に言う。
比呂は無言で俺を蹴飛ばして、次の話題にはいりはじめた。

『坂口のさー・・数学の教科書に、こないだ意味もなく文字と数字をバーッとかいたの。』
『うん。』
『そしたらあいつ、それを暗号だと思ったみたくて、勝手に解読してさー、俺にメールで回答を求めてきたよ。』
『あはは!答えなんてあるの?』

俺は比呂の指にそっと触れる。

『ねえよ、意味なく適当にかいたんだから。』
比呂が指を絡めて俺の手を握る。
俺が、真っ赤になったら、比呂は俺のホッペにちゅっとした。


俺の家の前に着いたら、比呂が自転車にのって、
『寝る前に電話する。』って言ってくれて
『何時がいい?』って言われたから、『日付変わる頃ー。』って答えた。

『いいよ。』って比呂は言ったけど、今思えば俺、空気もっと読めばよかったと思う。
早い時間にしとけば、比呂もさっさと電話して早く寝れたのに。

でも、今日の終わりと明日の始まりを、比呂と共有できたら幸せだと思ったの。
困っちゃうねー俺。完全に重病だ。恋は、マジで病だよね。


2007/11/27(火) 17:28:16
NEXT