ありがとう。

比呂とイヴを過ごそうって思ったんだけど、
姉ちゃんが子供連れて、夕飯がてらうちに来るって言うから
夕飯までに帰らないといけなくて、俺、すっごい朝からへこんだ。

比呂にクリスマス、一緒に過ごそうって言われたから
『夜、一緒にいたいから!』って、俺、全力で頼んでさ。
そしたら比呂が、バイトの時間をわざわざずらしてもらってくれたの。
夕方5時から入る予定だったのを、朝の9時から午後3時までに。

なのに、こんなことになっちゃって・・俺・・すっごい悲しくて。

3時にバイト先にいったら、比呂はすごくいそがしそうで
でもね、ハルカさんが気づかってくれて、
俺を見たらすぐに比呂をあがらせてくれたんだ。

・・俺さ・・6時までには家に帰らないといけなくて・・・
それをなかなか言い出せなくて・・4時半ごろまでいい出せなくて
そしたら比呂が気がついたのね。

『どしたー?』って言われて、その声聞いたら、ボロっときちゃって・・
事情をさ・・比呂に話したら、『じゃあ、急いでいこうか。』っていうんだ。

泣きながら手をひかれて、俺が連れて行かれたのは、
ラブホでも比呂の家でもなくて、駅前ロータリーのとこのイルミネーション。

『・・・・。』

ここのイルミネーションは・・イヴにしか点灯しないの。
準備はかなり前からやってるんだけどさ・・・点灯するのはイヴだけなんだ。
周りの街路樹とか、そういうのは11月の半ばくらいからクリスマスっぽくライトアップされるんだけど
でもね、駅前ロータリーにある大きな木とさ周りの飾りは、イヴにしかつかないんだ・・・。

俺、ここを通るたびにね、黙ってその様子を眺めてたの。
職人みたいなひとんちが、色々作業してるとこ。
だけどイヴの夜なんか、家にいるかさあ・・
万が一比呂と会うとしても、夜に会うならラブホか家だろうなって諦めてたんだよね。
だから、比呂がここに俺を連れてきてくれるなんて全然思ってなかったんだ。

こないだ小沢とWデートしたときにさ・・隣街のイルミネーションみてきたからさ・・

だけどね。全然違った。
二人で見たイルミネーションは、すっごい綺麗でなんていうか・・
・・・すっごいうれしくってさ・・・・。
ちょうど夕暮れの頃について、見ているうちに日が完全に暮れて
比呂が携帯の時計を見て、『・・いこうか?』っていうのね。

まだ帰るには早いよって・・いいたかったけど言えなかった。
でもね、比呂はそういう意味で『行こうか。』って言ったんじゃなかったんだ。

俺たちが次に行ったところは、駅の時刻表の前だった。

『・・・・・・。』
意味もわからず、比呂の隣にたつ俺。
比呂は時刻表を眺めながら、俺も見ずに話し始めた。

『・・・俺、ごめんな?間際まで何も言わなくて。』
『・・・・。』
『・・クリスマスっていったら、お前と過ごすのがあたりまえと思ってて・・
だからわざわざ前もって約束とかしなかったんだ。ごめんな。』
『・・・・・・。』

比呂が時刻表から目を離して、俺を見る。

『来て。渡したいものがある。』

嬉しいことばかりで、なんかぼんやり気が抜けちゃってる俺の手をひいて、駐輪場につれていく。
それで、俺をチャリのケツにのせると、全力ではしってさ・・海の見える公園につれていってくれた。
ここには今まで何度もきた。大事な思い出が沢山ある。

公園のはずれの大きな岩のあるとこまでいって、自転車をとめる比呂。
そんでね、俺を岩に座らせてね。上着のポケットからなんか出すの。

『・・・え?』

ドキっとする。すっごい綺麗なラッピングで・・・なんか・・これって・・・え・・・・?

黙ってリボンをほどくと、俺は慎重に包装紙をはがした。
そして、箱をあけたらさ・・指輪の箱がでてきたの。

思わず比呂の顔を見る。比呂が、ひひって、照れ笑いをする。

うそ・・指輪?え?うそ・・・。震える手で、そっとそのケースをあけたらさ・・・


ペアリングがはいってたんだ。


俺・・もう、何もいえない。何も考えられない。
どうしていいかわかんないっていうか、嬉しいんだけど・・
だけどなんか・・・混乱しちゃってっていうか・・・
嬉しいのと幸せなのが、あまりに大きすぎて受け止められなくて
ぼろぼろ涙はでてくるし・・だから比呂をじっと見たんだ。

泣く俺の顔をみて、比呂はすっごい優しい顔で笑ってくれた。
そんで俺の手からケースをとると、『こっちは、俺のー。はめてー。』っていうの。
差し出す手は、左手。・・・本気なの?
俺、ひっくひっくいいながら、比呂の左手の薬指に指輪をはめた。

そしたら比呂が、『指だしな。』っていうから・・
なんか・・・左を出したかったんだけど、ずうずうしいかなって思って
右手を出したら、パシってはたかれた。
『違うだろっ。』っていわれて、思わず笑う。少し、気持ちほぐれた。

左手を出すと比呂は、迷わず俺の左の薬指に指輪をはめてくれたんだよ・・・。

サイズがね、ぴったりなのね。俺の指輪にだけ、ダイヤがはいってんの。
男っぽいデザインなんだけど、だけど・・すっごい綺麗なんだよね。
俺、比呂に指輪をはめてもらった左手を、じっとみてさ・・泣けるというより・・・なんだろう・・・・。

気持ちに見合う言葉がねえや。

『ありがとう・・』『・・ふふっ・・・。』
『なんで・・サイズしってたの?』『・・実はまえに、勝手に測った。』
『え?・・・・いつ?』『こないだ、お前が寝てる時。ひも使って測った。』
『えー?!!』『嘘みたいにぴったりだら?』

比呂が、笑いながら俺の頭を撫でる。俺は涙をふいて、そんで、比呂を見て笑う。

『店のちかくにさ、ゲイバー、あんじゃん。』
『うん。』
『あそこのノリちゃんってひとが、ハルカさんの友達なんだけどさ。』
『うん。』
『ノリちゃんがさ、前にジュエリー関係の仕事しててさ、詳しいのね、サイズとか。』
『うん。』
『で、紐で測った長さ言って、教えたもらった。何号買えばいいとかって。』
『えーーー!!!』

そのときのエピソードはなしながら、俺の手を引っ張って、
そんで俺を立たせると、自転車にのせて、比呂は走り出した。
途中とおりすぎた公園の、時計が5時50分をさしていて・・

ちゃんと考えてくれてるんだもん。比呂は・・・。そういうのも全部さ。

そしたら急に比呂がさ『あ。』っていって、ちゃりをとめるの。
なんかセンス良さげな子供服の店の前で。
で、俺の姉ちゃんの子にあげてって、かわいいワンピース買ってくれたんだ。

程なく自転車は俺の家の前について、そこで俺は比呂に
前に買っておいたプレゼントを渡す。
比呂は目の前であけてくれて、すっごいすっごい喜んでくれた。


ほんの少しの時間しか、一緒にいられなかったけど・・
なんか・・飽和状態以上の幸せ濃度を比呂と2人

うん。すっごい幸せなイヴだった・・。サイコーだった・・・。


さっきメールが来て、結局あのあと比呂は店に戻り、10時まで仕事してたんだって。

<だから明日は休んでいいって。
<お前、用事なかったら、遊ぼうぜー。


俺、そっこうでレス打ったよ。

<会いたいよー。
<遊ぼう!!遊ぼう!!

ってね。

2007/12/25(火) 00:24:00
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