今日は午前授業だった。部活もなし。比呂と話をすることにした。

学校を出る頃には雨が降ってて・・寒くって・・
ゆっくり話ができるとこ・・とか考えたんだけど・・思いつかなくて・・・。

『ラブホにする?』ってきいたら、『や。今日は。・・・別のとこにしよう。』って即断られた。
俺が(拒絶されたんじゃないか・・)と不安になるまえに比呂が俺の背中を、ぽんとたたいた。
『俺、すぐに体にながされちゃうし。』・・・・不安、消えた。

飯屋だと、他の客とかいて、ちゃんと話せないし、俺んちは今日は、央人が熱出して家にいるし
そしたら比呂が『俺の部屋は?』という。
『飯買って、俺んちに行こう。家族はいるけど、別にいいだろ?』

家族って・・今いった。比呂。わ・・。そうだよな。うん。比呂の家に比呂の家族がいるのは当然だ。
『いい。さやくんにも会いたいし。』
『じゃあ、俺の家ね。でもキタねえよ。家がじゃなくて、俺の部屋が。』
『いつもじゃん。』
『いつもじゃねえよ。昨夜、ナルト読み散らかしちゃったから、すげえんだ。今日は特に。』

美味しいパンと、美味しいおかず。美味しいスープに、美味しいケーキ。
おばちゃんの分もちゃんと買って、比呂の家にいった。

『あらー。ゆっきーくん。いらっしゃい。』さやくんを抱いておばちゃんが登場。

『ただいま。おばちゃん飯食った?』
『だってさやが泣くから。』
『なんだよー。食えよー。さやは多少泣かせておいても大丈夫なんだって。 』
『でも〜・・・・。』
『ほら。買ってきたから。好きだろこれ。さやは俺が見てるから。ゆっくりくいな。』
『比呂〜・・ありがとう・・・。』
『泣かない!!!!』

片手でさや君を抱いて、比呂が階段をあがる。

『比呂〜・・・コーヒーはー。』
『俺がいれるからー。自分は飯くいなー。すぐにいくからー。』
『サヤどーすんのよー。』
『ユッキーに抱っこしてもらうから。他人の事よりまず自分だろ。まかせろって。』
『でも〜・・。』


部屋に入ると比呂が、暖房をぱちりと入れた。俺にさや君を差し出す。わ。やわらかい。
さや君をぎこちなく抱く俺をみて、比呂がふふってわらった。

階段を下りていく比呂。
『ほらー。すわれよ。何見るんだ?愛憎ドラマか?のど自慢か?たもさんか?みのさんか?』
『のど自慢は今日はやってないわよ。たもさんなんかとっくに終わったわよ。』
『じゃあ、あんたの好きなラルクでも見ろよ。DVDあるだろ?!』
『せっかく封印してるのに!』
『こないだ夜中にみてたじゃねーかよ。』
『何で知ってるのよ!』

腕の中のさや君は、そんな2人の会話をどう聞いているのかなあ。
ちょっとしたら、比呂がコーヒーとミルクを持ってあがってきた。

『ありがとう。抱くよ。』
比呂が差し出す両腕に、さや君をそっと託す。大切な命だ。俺にとっても愛しい。
比呂が、優しい顔でミルクを飲ませてあげてる。

『子育て・・慣れたねー・・。』
『子育てなんてあれじゃねえよ。たまに遊ばせてもらってるだけだもん。』
『・・・・。』
『産んだ直後はさー・・まだ最初の勢いで頑張れるけどー』
『うん。』
『それが何ヶ月たっても、続くんだもんな』
『・・・・・。』
『すごいと思うよ。こんな小さい子をかかえてさー、洗濯も買い物もするんだから。』
『・・・・・・。』
『・・・一人じゃ育てないんだもんなー。あかんぼは。』
『うん。』
『・・・こんなに手がかかったんだなー。俺も。』
『・・・・ふふっ。』


さやくんはミルクを、ごくごくと飲む。体も大きくなったなあ。
いつもかわいい服を着てるんだ。今日のは完全に比呂の趣味だろ。
ミルク飲ませたらすぐにゲップ。背中をとんとんして、げぷって聞こえたら
ほっぺすりすりしてるから、『俺も! 』っていったら
比呂が俺のほっぺにすりすりしてくれた。わ!!!

比呂のベッドに寝かせる。比呂はクローゼットからあんぱんまんの毛布を出してさやくんにかけた。
そのチョイスが意外だとおもったから、『あんぱんまん・・意外・・』って口に出した。
比呂は、しばらく黙ったあと『似てるだろ。さやとあんぱんまん。』って言って笑った。

やっぱ、子供は子供らしくなきゃーって。
俺らが見て、いいなっておもうようなシンプルなやつじゃつまんないじゃんって。
ぷりっきゅあでも、でんおーでも、げきれんじゃでも、なんでもかんでも
そういうのをちゃんと、通過していかないと、つまんないしもったいないじゃんって。

今はおしゃれな子供番組も多いけど、俺らが小さい頃にわくわくしてみてたのは
やっぱああいう番組だったじゃんって。
夢を育む場所に大人の趣味を押し込んじゃいけないって思うって、比呂が言う。
好きなものや好きな行動は、悪いこと以外は、
とりあえず認めてやるべきなんじゃないかと思うんだって。

・・なんかお父さんみたいだね。どんだけ深く考えてんだよ。17歳高校2年生!

さやくんが、幼稚園に入ったら、一緒にヒーローショーにいくのが
比呂のゆめなんだってさ。俺も一緒に行くよ。ビデオとカメラもってさ。

キュートな天使の寝顔を見ながら飯を食った。
食いながら、話をする。

『・・昨日、ごめんな。』
『・・え?』
『・・なんかさ・・。うん・・。』
『・・・。』
俺は、スープのはいったカップを両手で持った状態で比呂を見つめる。

『秋山さんがさー・・彼女とまたモメたらしいの。で、その代わりで俺、呼ばれたんだ。』
『・・・・・・彼女ともめた?』
『うん。・・ま、秋山さんのとこは、いつもそんな感じなんだけど、そろそろ結婚考えてるみたくて。』
『うん。』
『そういう過程の話で色々もめるから、おおごとになっちゃうのね。』
『・・・・。』
『両家入り乱れて、大騒ぎになって大変みたい。だから、断らなかったの。俺。』
『・・・・・。』
『でー・・。』

比呂が俺の手からスープをとる。で、俺の前に正座する。なに?

『お前から言え。お前の言い分を。』
『え?なんで?』
『だって、俺がくっちゃべったあとだと、いいにくいだろ?自分の気持ち。』
『・・・・。』
『自分が一番悪かったっていってたじゃん。なんか理由あったんだろ?』
『・・・・。』
『食い物もあるし、俺の部屋だし、さやも寝てるし、ゆっくり考えていいから。』

比呂はそういうと、俺の手にまたスープを持たせて、自分はパンを食べ始める。

俺はスープを、一口飲んで、目を閉じた。あったかいなあ。
言お。直感で。思ったまま素直に比呂に言おう。
時間をかけるとズルい俺が、言い訳ばかりを構築してしまう。

『バイトに入る時間があるなら、なんでデートに誘ってくれないのって思ったの。』
・・・いきなり早口でそんなこといわれて、パンを持ったまま比呂がぎょっとした。
『俺なんか仕事以下なのかって思っちゃったんだ。バイトに負けたって。』
『・・・・・。』
『仕事と俺とどっちが大事なのっていいたかったんだ。でもいえないでしょ?
だから、頭にきて、殴っちゃったんだ。でも家に帰ってすぐ後悔した。』
『・・・。』
『ごめんねー・・・・。』

涙のエンドロール・・・・みたいなのりで、一人盛り上がってわあわあ泣いた俺。
きょとんとした比呂は、かじったままのパンを咀嚼して飲み込んだ。
そんでむせて、コーヒーのんで、溜息ついて、俺を見た。

『大事なのはお前。何よりもお前。俺が選べるものの全ての中でお前が一番大切。』

・・・・。

『さやも大事、でもこの子にとっては、今は俺なんかより、まずは親だ。
友達も大事だけど、あいつらにはあいつらそれぞれに大事な人間がいるし。
仕事だって大事だけど、働くのはやっぱ生活のためじゃん。
俺はたまたま場所に恵まれてるから、金だけのために働いてるって意識はないけど、
でも、やっぱ健康で気持ちが安定してるから、働ける。仕事はお前の比にならない。』

『・・・なんで断言できるの?』
『は?』
『選べるものの全ての中で・・俺を一番だって・・断言できるの?』
『・・・・・。』
『俺を喜ばせようとして・・・いってくれてるんじゃないの・・・?』
『・・・・・。』
『・・・・。』
『・・・・。』

『・・・できるよ。』
『・・・・え?』
『俺はできるよ。断言できる。』
『・・・・・・。』
『・・・・・。』
『・・・・・。』
『何度も選んできた。付き合ったときからずっと。俺もそれなりに悩んだ。やっぱ男同士だし。
でも、それでも今一緒にいるのは、・・俺が選んできたからだ。
今、こうやって一緒にいるのが、その証明にならねえの?
番号つけるのはなんかおかしいけど、でもどうせ番号つけるなら俺はお前に一番をあげたい。
大事だからこんなに必死じゃん、俺。お前が一番わかってんだろ?』

『・・・・・・・ひろ・・。』

『断言するよ。俺はお前が一番大事。ずっとかわんない。』



俺・・


俺・・・・・


仕事と俺とどっちが大事?って比呂に聞いたら、
絶対に『比較対象にならない』とかって、はぐらかされると思ってた・・
それか、男にとってどれだけ仕事が大事かってことを・・
仕事と恋愛を比べるなってことを・・・説教まじりにいわれると思ってた。

俺はね。いつも言ってるけど、比呂が大好きなの。暇さえあれば比呂を思ってんの。
だから、どんな時だって俺は、頭で勝手にシュミレーションしちゃってんの。
最近、俺のシュミレーションは、現実と全く一致しない・・・。
比呂が俺の想像以上の、言葉をくれるんだもん・・・。


さやくんは、いつの間にか起きていた。ご機嫌なのか、自分の手をくわえて遊んでる。
比呂と2人で、さやくんの小さな指先をみながら・・俺はおもった。
ごめんね。お兄ちゃんにとっての一番を、俺がもらっちゃって・・って。



家に帰ったら、現実の世界で、央人が駄目人間ぶりを発揮していた


『那央〜・・・体温計〜・・』
『那央〜・・アイスー・・・』
『那央〜・・俺の代わりに便所いってきて〜・・・。』


こいつっ・・・・




むかついたけど、あまりにうるさいんで、とりあえず部屋にアイスもっていってやった。
そしたら央人の枕元に、彼女の写真が置いてあった。


愛って不思議だ。大したもんじゃないのに。赤い糸が見えるわけでもなければ、
二人の頭上にハートマークが飛び交っているわけでもないじゃん。
だけど、お互いの心の中で、確実にソレは育って、秘密の通路が勝手に出来て
そこでつながってる・・・そんなかんじ。
比呂にとっての一番になれたこと。その重みをちゃんと実感しよう。
・・なんてえらそうなこといいつつも、実際は、ただ単純に最高ハッピーだ。

今なら飛べる比呂あいしてるぞ〜!!!


2008/01/29(火) 17:46:36
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