甘えっこさん

今日も半日。2月だねー・・。なんかあっという間。比呂と付き合い始めてから、
毎日そわそわどきどきしてて、秒単位で心の動きを実感して、毎日毎日比呂が大好きだ。

授業終わって、さあ帰るかーとかいってたら比呂が、俺の後頭部をパシンっとはたく。

『いて!なに?!』
『暇?』
『暇だけど何?あ、でも夜は塾。』
『俺も夜はバイト。5時くらいまでなら平気?』
『・・・へいき・・・だけど?』

王子様に連れ去られた俺。いった先はラブホ。いきなり?!と思って戸惑ってたら、
比呂が部屋のテレビつけて適当なDVD(非エロ)つけてくれて、飯頼んでくれて

で、ベッドに寝ちゃった。

『・・・比呂?』『・・・・・・。』
『・・どうしたの?』『・・・・・・。』
『・・・・頭いたいの?』
『・・・・・・。』『・・・・・・・。』
『・・・・・・・。』『・・・・。』

どうしたのかなって、頭を撫でて、頬を撫でてキスをしたら、
比呂が目を開けて俺を見た。あれ?・・泣きそうな顔・・・。

は〜っと大きなため息ついて、比呂が枕に顔を埋めた。
『もう駄目なんだ、疲れちゃったんだ、へとへとなんだ。ちょっと寝かせて。』
『・・・・・・。』

なに?なんだと?
俺を誘っておいて、なんだその言い草は。かちーんときた俺は、比呂に文句を言う。

『比呂がつれてきたんじゃんか!なんだよ!馬鹿にして!眠いなら家に帰ってひとりで・・』

ふてくされた顔で文句言ったら、途中で比呂がおきあがった。

『お前にいてほしいのっ。家でじゃなくて・・お前がいるとこで寝たいのっ。』
『・・・・・。』
『・・・・お前がいてくれたら寝れるから・・・だからいて。ほんとたのむから。』
『・・・・・比呂・・・。』

俺にそばにいろといいながら、比呂は俺に背中を向けて眠る。
・・・・どうしたのかな・・。何かあったのかな・・・・。
俺はずっと比呂の髪を撫でていた。そのうち寝息が聞こえてくる。

比呂がつけてくれたDVDを消した。飯は冷めちゃうけど放っておいた。
比呂の隣にもぐりこんで、背中を抱きしめながら、俺も眠った。

30分位して目が覚める。比呂はまだ寝ていた。
寝返りを打ったのか、俺の方に顔を向けて、すごくあどけない顔で寝ている。
頬を触ったらゆっくり目が開いた。・・・寝起きの比呂の目に、俺の顔がうつりこむ。

『どうしたの・・・?』俺がきくと、比呂はいよいよ泣いてしまった。
目から大粒の涙がこぼれて、はあっ・・・って熱いため息をついた。
比呂の手を握る。ぎゅ。

握った手に、キスをして、手のひらに頬を摺り寄せた。
まだあざになってる比呂の手。どうしたんですかー?比呂ちゃーん・・・。

『おととい・・・・。』
『・・・・おととい?』
俺の目から視線を外して、比呂が話し始める。

『・・那央んちから帰ったら・・おばちゃんがヘコんでたんだー・・』
『・・・うん。』
『乳が出なくなったとかいって、くよくよしてんの。』
『・・・そうなんだー・・。』
『うん。』
『・・・・。』
『・・それみたらさ・・・すっげー母親って感じだなって思って・・』
『・・・・・うん。』
『おばちゃんに、おかーさんっていっちゃったんだ。俺。』
『・・・・・・・・うそっ・・・。』

びっくりした。うそだらー・・。だってそんな・・・いきなり・・えー?!!!
驚く俺を見たら、比呂が余計に涙をぼろぼろ流すもんで、
なんか悪いことでもしたかとおもって、うろたえた俺。

比呂が俺に言う。
『だろっ・・・嘘みたいだろ?俺も、いまだに信じられねーの・・。
おじちゃんの事も、おとーさんっていっちゃったんだ。』
『・・・・・・・・(ことばにならない)』
『ずっと呼んでみたかった・・。おとうさんとか・・おかあさん・・とか・・。
呼んでみたいなって・・・思ってたんだ・・・。』
『うん。』
『実際・・・2人とも、喜んでくれて・・・俺も・・俺も・・なんか・・うれしかったんだけど・・。』
『・・・・・・うん・・。』

比呂が俺の胸に顔を埋める。腰に両手を回して、ギュッと抱きつく。

『今朝・・目が覚めたら・・俺・・・すごい後悔して・・・。』
『え?』
『・・・なんか・・やっぱ・・・おっくん裏切っちゃったみたいな気分になって・・・。』
『・・・・・・・。』
『・・やっぱ・・俺だけ幸せでいいのかとか・・・おもっちゃうの。やっぱどうしても。
なんか・・俺は・・・どうしたらいいのかわかんなくなって・・・・』
『・・・・・・・。』
『でも・・・俺は・・今までも・・なんだかんだいって幸せだったんだ・・よ。』
『・・・・・・うん。』
『・・・とっくに、俺一人いい思いしてたんじゃんってさ・・。』
『・・・・・・。』
『生きてたことすら後悔しかけた。最悪だ・・自分っておもった。
でも・・・俺は・・おっくんの子供として生まれてきたことは誇りで、
おじちゃんたちの事を親だと思いたくて、サヤを兄弟だって自慢したくて
お前と一緒にずっといたくて、友達も、関わったきた人みんな大事で・・
やりたいことが沢山ある。大事な人がもう・・沢山いる・・・。
おっくんがいない世界で、俺はもう俺の道を進んでる・・・
だけど・・いつかは必ずおっ君に会いたいんだ。』
『・・・・・。』
『幸せボケしたら・・おっくんを・・見失いそうで怖いのね?
でも、不幸だったら確実におっくんのとこにいけるのか?いけねえじゃん。
天国なんか地図に載ってない。あたりまえじゃんね。そういうことじゃん。
俺は俺の理想郷を勝手にアタマでつくりあげて、現実逃避してただけなんだ。』
『・・・・・・。』

・・・・・・比呂・・・。


『・・・・・。』
『・・・・・・・うん。』
『・・・疲れたよ・・・もう。』
『うん。』
『頑張れないよ・・・もう・・。』
『うん。いいよ。』
『・・・・疲れちゃって・・眠りたかった・・・。起きた時に・・誰かがそばにいるところで・・』
『・・・・。』
『・・・那央にいてほしかった・・・。』
『・・・・・比呂・・・。』
『・・・・・。』
『・・・・・・。』

気絶するように・・比呂は眠ってしまった。
心の鎖を全部取り払ったような・・・そんなかわいい寝顔だ。


比呂は・・・大変だね。

心の傷がいっぱいあって・・・その上にバンソコを全部貼ればいいのに
枚数が追いつかなくて・・全部の傷口を防げないような・・・
だから薬でマヒさせて、大丈夫だって言い聞かせて・・
でもそれじゃいつまでも傷は治らないから

傷があることをちゃんと認めて、それをなおそうと頑張るのに
一つの傷を治そうとしたら、他の全部の傷まで痛み出して
大きな痛みの塊になって、比呂をどん底に突き落とすんだ・・・。

でも、俺は比呂の前進を見逃さない。

比呂は今まで、自分の傷の痛みを全部、自己犠牲という名の薬で
押さえつけて、平穏を保ってきた。
望みを一切絶つことで、失ったものへの執着を表面に出さないできた。
でも、今日の比呂は、違う。
自己犠牲だけじゃなくて・・・そばに俺を置いて、俺を頼りながら
傷の痛みを正面から丸ごと受けて、ちゃんと治そうとしてる。

希望を比呂が口にした。『やりたいことが沢山ある』

それはきっと、俺が今まで聞いてきた、ささやかな夢とかの話とは
少し違う・・・きっともっと大きな意味を持った言葉なんだろう。
比呂はとてもぐっすりと眠った。
4時半になっても目を覚まさなかったから俺が比呂を起こした。

ラブホにきて、話をして、眠って、冷めた飯を食って・・それだけ。
でも心がすごく満たされた。満たされたし・・・安心をした・・。

前に比呂に・・お父さんの亡くなった時の話を聞いて・・・
あのときから・・不安だった。

今日、比呂がしぬんじゃないか・・
明日、比呂がどこかにいなくなるんじゃないかって・・・
不安で怖くて口に出せなかった・・・。

でも、まっさかさまに落ちて落ちて・・
どん底にいったとき比呂の口から出た言葉は希望だった。
那央にいてほしかったって・・・。
目が覚めた時に那央にいてほしかったって。


那央っていうのは、俺の名前。
生まれたときから、ずっと俺の名前。

俺、那央に生まれてよかったなあ・・・。
多少つらいこともあったけど・・・比呂に呼んでもらえるために
この名前を持つ人生を捨てないできたんだなあ・・・。


幸村那央って名前で乙女座でA型。
星占いより 相性占いより 姓名判断より
今ある幸せを俺は信じる。


おやすみ!


2008/02/01(金) 23:20:44
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