2008/2/20 (Wed.) 23:52:01

18日の夕方、心配になって比呂に電話した。
朝から何気に調子悪そうだったし、部活も休んだから。
最初バイト先に寄ったんだけど、風邪で休みだって言うからさ。
だから電話したんだけど、なーんかボケたようなことばっかいってるから、結局家にいったんだ。

そしたらちょうどあいつ、家を出るとこで。『どこ行くんだ?』ってきくと、『病院』っていう。
デコ触ったら熱くて、顔をよくみたら、歯をガチガチ言わせてる。
自転車のケツにのせようと思ったんだけど、ふらふらしてて危ないから
一緒に歩いて、近くの内科にいった。

結局ただの風邪だったんだけど、病院で熱を測ったら40度近くあって
朝からものあんまくってないのを、俺が先生に言ったら、先生が小さい点滴をしてくれたんだ。
点滴に時間がかかって、7時過ぎに病院を出た。
少しは熱が下がったらしい比呂は、『わりい・・なんか・・』と俺に謝る

あほ。謝るな。
お前が熱でふらついてるおかげで、俺はお前の体を支えられる。

病院を出て少し歩いたところで、比呂が携帯の電源を入れると着メロが鳴った。メールらしい。
ぼんやりした目で比呂がその文面を追う。
顔つきが変わったのをみて俺が『どうした?』というと
『なんでもない。』といって、返事を打って電源を切った。

家に帰るだけなのに、電源切るのもおかしいなって、不思議に思いながら歩いていく。
そしたら比呂の家の前に、幸村が立ってたんだ。

泣きそうな顔でこっちを見てるから、俺はとっさに比呂を支えていた自分の手を離す。
『・・ありがと・・。またあとでメールする。』
比呂がそういうから、俺は笑顔で頷いた。
幸村のほうに歩く比呂をみてぼんやりしてたら、比呂が幸村に言ったんだ。

『俺、返事したよね。今日は無理だから。帰れよ。』

そんなとげとげしい事を言う比呂に思わず俺は目を丸くする。
幸村が半泣きで『許してくれない・・よね・・。』とかいってる。は?
比呂は、溜息ついたあと、幸村を軽く突き飛ばして
『帰って。』とだけいって、家に入っていってしまった。

********

放っておくわけにも行かず、泣く幸村を連れて近くの公園に行く。
幸村の話聞いて、なんか俺・・スゲエ混乱して、しばらく何もいえなかった。

バレンタインにチョコくれた女が塾にいて、
その子に、『俺には付き合ってる人がいるから』って、
断ろうと思って塾の授業前に近くの公園に誘ったらしいんだ。
そしたらその子が、幸村の話を聞きながら、何も言わずにシクシク泣くんだって。

そういうのが、前に比呂に片想いしてた自分とダブって見えたらしく・・
慰めようと思って手を握ったら、その手がすごく冷たくて、小さくて柔らかくて
震える体を見たら、反射的に抱きしめてしまって、気がついたら、キスしてて・・
暗くて人目につかないベンチだったらしく・・そのまま・・服を着たままで触れる範囲で
さわりまくって、ヤってしまったらしい。・・っていうか、挿れる寸前で我に返って・・まあ・・うん。

挿れなかったっていうのが、ほんとか嘘かはわかんねー・・けど・・さ。

悔しかったよ。・・・殴ってやろうかと思った。
比呂が・・熱でうなされながら眠ってた時・・お前の名前を呼んだんだぞ。
点滴打ちながら、苦しそうな呼吸で・・
小さな声だったけど・・お前の名前を呼んだんだぞ。

だけど、目の前で落ち込んでる幸村みたら・・
殴るどころか、文句の一つも言えなかった・・・。

*****

翌日、学校に行くと、比呂はそれなりに元気になっていて
幸村は元気がなかったけど、比呂自身は幸村に普通に接しているように見えた。
別れたかどうかはわからないから、俺も極力普通に接した。
元気のない幸村を『妊娠でもしたの〜?』と、成り行きを知らない坂口が茶化していた。

********

今日。2時間目の休み時間に、比呂に呼ばれて廊下にいった。

『幸村と別れたから。』そういう比呂の顔は、あいかわらず両方一重だ。
『・・・・うん。』俺は頷いた。

・・・・とりあえず、そうするより他に、俺に出来ることはなかった気がする。
そしたら比呂が、笑ってくれた。
・・お前のそういうとこ、イチイチ俺の涙腺を刺激するんだよ。

外でギャーギャー声がするから、窓の外を見ると
ヒノエとおぎやんが、実習服で追いかけっこをしていた。
なんか、悲しくなっちゃってさ・・・、マジ慰めの言葉の一つも出ない。

そしたら比呂が外を見たまま俺に言うんだ。

『誰にも言うなよ。』

俺が黙って比呂のほうをみたら、比呂が俺の方をみた。

『これ以上波風立てたくないんだ。俺のためにも、あいつのためにも。』
『お前は・・納得してんのか?』
『・・・・。』
『浮気されたんだぞ。どうなんだよ。』
『・・・・・。』

比呂は溜息をつく。そして窓の外に、また視線を移す。

『許すとか・・そういう問題じゃねえよ。
大事なのには変わらない。それはまじで。
ただ、友達に戻っただけだ。そんな単純じゃねえけど、
でも、言葉で言ったら、ほんと、そういうことなんだ。
とにかく俺は、俺の思ってることを、全部あいつにはいったし・・。』
『・・・。』

比呂がまた俺を見る。

『考えたくないの。思い出したくもない。
付き合ってたこととか、全部すっきり忘れたい。
今はそういう頃の事と、全部無関係でいたいんだ。』
『・・・。』
『思い出のものはとりあえずしまった。
捨てる勇気はまだないけど、見たくねえのね。
ほんと嫌なんだ。嫌でたまんないんだ。
だから、そういうことで、他のやつに、色々言われたくねえの。』
『・・・・。』
『勝手言ってごめんな。』
『・・・いいよ。お前はどうせもともと自分勝手だし。』
『・・・・・そうだな。』

*********

バカ比呂が・・晴れて独身になったのは
ずっとあいつを好きでいた俺にとってチャンスなのかもしれない。
一瞬そう思ったが、すぐにそれは幻想だと気がついた。
今の比呂は、恋愛そのものに対して、嫌悪感を抱いてしまっている。

幸村と過ごすあたりまえの日々が、イコール比呂にとっての恋愛なんだ。

思い出に触れるのも嫌なくらい・・それくらいショックを受けるほど
好きだったってことだよ、お前。

もっと怒れよ。ユキムラ殴って蹴り飛ばせ。
それくらいしたって、誰もお前をとがめないよ。

でもできないんだろうな。こいつ。


『捨てる勇気がない』んだもんな。
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