2008/2/23 (Sat.) 23:10:41

今日、祖母の見舞いに病院に行ったら
紺野が診察室に入っていく姿を見た。
実は以前にも、同じ診察室に入っていく紺野をみたことがあり
そのとき俺は、診察室から出てくるあいつを待って、話をしたんだ。

月に一度、検査を受けているという比呂。その時、少しだけ話をした。

『おぎやん、なにやってんの。』
『俺?俺はばあちゃんが入院してるから見舞い。』
『まじで?大丈夫かよ、ばーちゃん。』
『いやー。ちょっと長引く病気なんだけど、生死には関わらないから。』
『そうか。それでも大変だな。』
『ああ。』

比呂が自販機まで歩いて、コーヒーを二本買ってくる。
『見舞い。』といって、俺に一本投げてきた。
病気してんのは、ばーちゃんなんだけどな。

会計に診察券を出した比呂は、支払いの順番待ちで、
ロビーのソファーに腰掛けた。俺も隣に腰掛けて、コーヒーを飲む。

『・・比呂はなに?病気?性病?』
『・・・・・・いきなりそこか。』
『冗談だよ。マジでなんなの?』
『検査。普通に健康診断だよ。』
『へー・・。』

健康診断?

『俺、父親が突然死だったんだ。とーさんが29の時。』
『ああ。』
『母親も、もう死んだし、その2人の子供だからさー
いつ死ぬかわかんないとかいって俺の今の親?
親代わり?みたいな人たちが検査受けろってうるさいからー。』
『・・・・』
『毎月かよって、健康かどうか、調べてもらってんの。』
『そうかー。』
『ちなみに、今日も元気だったよ。』
『それはよかった。乾杯しよう。』

コーヒーで乾杯。

『なあ。』
『は?』
『いつからお前、そんな検査してんの?』
『あー・・そうだな・・。たしか高1の・・2月?』
『ふーん。』
『言われてたのは、もっと前からだったんだけど面倒だし、
なんか嫌じゃん?だから断ってたの、ずっと。』
『うん。』
『でも、色々思うところがあってさ・・その頃から行き始めた。』
『ふーん・・。』

高1の2月かー・・。なんかあったのかな。

『今んとこ、全然異常ねえしー、いい加減、飽きてきたんだけどー。』
『おう。』
『・・でもやっぱ・・・ほら俺、自分で健康管理できない人間じゃん。』
『そうだなっ。ははっ。』
『だから、病院におまかせー。』
『プロに任せたら安心だな。』
『だな。』

会計の順番が比呂に回ってきて、比呂は金を払いにいった。
俺のほうに近づくと『飲んだ?』といって、手を差し出してくる。
俺は缶に少しだけ残ったコーヒーをグイっと飲み干し
比呂に空き缶を手渡した。

二つの缶を、空き缶入れに捨てる比呂。

『帰るの?』と聞かれたから
『や、もうすぐじいちゃん来るらしいから、それまで待ってるつもり。』
『そうかー。』
病院の入り口まで一緒に歩く。
すると自動ドアの前で比呂が振り向き、俺に言う。
『幸村には黙ってて。』
『・・・・は?』

どういうこと?

『なんで?・・つか、ユッキーしらねえの?』
『しらない。いってないし。』
『なんだそれ。』
『だからさー・・。』

言いたくなさそうな比呂。俺はじっと比呂を見る。
すると比呂はしぶしぶ口を開く。

『あいつ、心配性じゃん?』
『ああ・・うん。』
『俺が病院で毎月検査してるなんて知ったらさ、うろたえると思うの。』
『ははっ。いえてるな。』
『だろ?』
『でも説明すれば、すぐ納得するんじゃねーの。』
『・・・』
『ただの検査だからって。』

そしたら比呂がいった。
『多分あいつは納得しないよ。』
『・・・・』
『毎月毎月、心配される。俺が死ぬんじゃないかって。』
『・・・・・。』

たしかに・・比呂が検査に通っている理由は
親と同じように早死にしないようにするための、健康チェックなんだよな。
それにしても、過保護すぎるだろ。一言いってやろうとおもった。
でも俺がそれを言う前に、比呂が言うんだ・・。

『あいつに・・自分が死ぬことばっか心配されんのは嫌なんだ。
毎月毎月、不安にさせて、そのたびに2人で暗い気持ちになったりとか
・・・嫌じゃん、もったいねーじゃんね。
俺等はそれじゃなくても男同士で、障害が多いわけ。
だから、余計な荷物は持ちたくねえの。両手使ったってまだ足りないくらい
どーしようもなく手がかかるんだよー。あ・い・つ・は!』

すごく納得した。たしかにユッキーはそういうやつだ。

何もないとこでも、不安材料を作り上げるような子で、
比呂がへとへとになりながら、そういう物を押しのけて、
そんでなんとか付き合ってきてる。
はたから見てて、紺野はよくあんなに手がかかるユッキーと
付き合ってるなーと・・半ばあきれてしまうほどだった・・。

でもさっきの比呂の言葉を聞いたら2人の関係がうらやましく思える。
恋人の健康診断云々で、大騒ぎして不安になっちゃうようなユッキーと
そんなユッキーに心配かけないように、
黙って一人で毎月検査受けてる比呂・・・

あ・・・・もしかして・・・高1の2月っていったら・・
比呂がユッキーと付き合い始めたあとくらいじゃねえか?
それがきっかけで健康診断とか、毎月通うようになったのかな、こいつ。


うわー・・。キャラじゃねえし。

でも実際比呂は毎月通ってる。今日もあの診察室に入っていった。
俺はこの病院で2〜3度比呂にあっているけど大体月末のこの時期だもんな。

今日も検査だったんだな。

こういう比呂の姿を知らないユッキーは
相変わらず、比呂の心の負担になることばっかいっている。
比呂のこと、好きなくせに、比呂をバカにするようなことをいったり
それでも比呂は、ユッキーを好きなんだよな。

よくやるなーとおもうよ。俺じゃ無理。

最近、ユッキーが元気ないけど、比呂は相変わらず声かけてやったり
机に伏せて寝ているユッキーのすぐそばの窓が
少しあいてたら、黙ってそれをしめてやってた。

手のかかる恋人に振り回されて
ストレスで胃潰瘍にでもならなきゃいいけどな。
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