ただいま。送辞はちゃんと暗記して読めた。

比呂はずっと泣いていた。あの子は、人との別れが苦手だ。
浅井が引っ越していったときのことをおもいだした。
あの時も、比呂は何度も泣いては、ぐずぐずと寂しがっていた。

比呂は色々な先輩にかわいがってもらっていたから
沢山の先輩が、比呂の頭を撫でて励ます。
卒業生よりも、ずっとずっと比呂の方が泣いてるから
父兄の人らがもらい泣きして、なんだかでも・・いい式だった。

ピカ女とかも今日卒業式で、校門にはピカ女の女がいっぱいきてた。
比呂に会いにきた人も沢山いた。
比呂は、もう俺とは付き合っていないのに、そういう人らに会おうとしなかった。
だけど、泣きながら名前を呼ばれたら、さすがに断りきれなくて、
一緒に写真をとらせてあげてた。沢山のひとに、握手をされてた。

比呂は・・もてるんだよ・・なー・・。早く仲直りしないと、すぐに誰かにとられちゃうよ・・・。
そしたらもう、奪い返せない・・・。だって比呂は・・・・


一人を好きになったら、一切余所見をしない人だもん。


帰り、まだベソかいてる比呂に声をかけた。
『大丈夫?』
『・・・・・ほっといて・・・』
『ねえ・・俺、ちゃんといえてた?』
『・・・・いえてたよ。立派な送辞だった。』
『・・ありがとう。』
『・・・・・。』
『・・・・・。』
『・・・・。』
『・・・今日、ごはん食べに行かない?』
『・・・・・わり。俺、バイトだから。』
『何時でもいいよ。待つし。』
『・・・遅くなるから。ごめん。他の人といって。』
『・・・・・。』
『・・・・じゃ。』

自転車にのろうとする比呂の腕を掴む。
『・・・・。』
『待って。』
『・・・・・。』
『話聞いてよ』
『・・・話なんかねえよ。』
『俺にはある。俺、ほんとにお前が好きなんだよ。』
『・・・・・・。』
『話がしたいよ。』
『・・・・。』
『・・・・・・頼む。何時だって待つ。だから、会いたい。』
『・・・・。』
『・・・・・・。』


比呂は溜息をついた。
『・・・俺にはないよ・・。そういうことなら話もないし・・
お前の話を聞くつもりもないし・・それは前にもいったと思う。
幸村が俺を好きとかいって・・・そういう気持ちで会いたいって言うなら
悪いけど・・俺は会えないよ・・・・。また今度・・みんなで飯食ったりしよう。』

・・・・そんな・・・

『そんなの意味ないよ・・・。俺は、時間がどんどんたって・・
関係が薄くなってくのが嫌なんだ・・。もう戻れないなんて思いたくないよ・・・。
俺が悪いんだけど・・でも・・比呂が大好きだよ。』
『・・・・・そんなこといわれても困る。』
『・・・・・。』
『じゃあな。帰るから。』
『待って!!』

俺は比呂の自転車のハンドル握って、絶対離さない。
『・・・・なに?』
『・・・話を聞いてよ。』
『・・・・じゃあ、今話せよ。』
『・・・・結婚して。』
『・・・なにいってんの?』
『俺、性転換でもなんでもするから、結婚して。』
『・・・そんな・・軽々しくそんな話すんなよ。』
『軽い気持ちで言ってるわけじゃない。比呂を繋ぎ止めたいだけだよ。』
『なんで。』
『好きだから・・・好きだから・・・。』

比呂は、ついに困り果ててしまって、泣きながらハンドルに臥せってしまった。

『・・・もー・・やだ。何でそんなこといえるのか理解できない。』
『・・・・。』
『そんなの全部、お前の気持ちだろ。いっぺんに言われたって困るよ・・・。』
『・・・・。』
『俺は、お前がした事を全部受け止め切れてない。
現実起きた事だろうけど、とにかくもう何も考えたくねえの。』
『・・・・ひろ・・・。』

比呂は顔を上げた。すっごい泣いてた。・・・・悔しそうに俺を見て泣く。

『お前がっ・・・。・・・お前が・・他の女とそんなことを、したなんて思いたくないし
そんなことをしたお前がっ・・・まだロクに日もたってないのに、こんなに
俺に好き好きいうのが信じられないよ。』
『・・・・・。』
『・・俺はまだ・・・なんも受け入れられてない・・・。多分ずっとムリ。
あんなメールで一方的に、いきなり報告されて・・
お前のいないとこで・・しかも携帯で・・・あんな話を打ち明けられて・・・・
嘘か本当かわかんないまま、家まで歩いていったら
グズグズないてるお前がいて・・・』
『・・・・』
『そういう過程で事実だって知って・・頭の中まっしろになったし・・
ふざけんなって・・ほんと腹たった・・・。そんな・・おまえ・・・。』
『・・・・。』

俺はじっと比呂を見て聞く。

『お前とずっと一緒に歩いていけたらいいと思ってた。
将来の事も考えて・・・お前と一緒の生活を考えてた。
ばあちゃんを・・悲しませるかもしれないけど・・
それでもやっぱり捨てられない・・そう思ってちゃんと覚悟もした。』

・・・ばあちゃん?

『そんなときに、お前は女とヤった。その現実だけで、もうたくさんだ。』
『・・・・・・・。』
『これ以上、話をして・・何かを聞かされるのは嫌だし・・とにかく
恋も愛も、俺はいらない。もうそんな気持ち、俺は信じない。
お前が俺に対して好き好きいってたそういう気持ちを恋だの愛だのっていうなら
俺が一方的に抱えてた気持ちは・・・きっと恋でも愛でもない。』
『・・・・・。』
『・・・頼むから・・そういう言葉で・・二度と俺を振り回さないでくれよ・・。』
『・・・・・ひろ・・・。』
『・・・お前がいない分・・・どこにどう寄りかかっていいのかわかんねー俺に・・
今のこういう状況は・・・すっごいきついし・・・ほんと・・つらいから。
ごめん。もうほんとにやめて。ほんっとにもう駄目だし無理だから。』


俺は、比呂の自転車のハンドルから手を離した。
比呂はだまって、自転車をこいで、俺の前からいなくなった。

気がついたら俺は家にいた。
どこをどうやって帰ってきたのか・・いつ帰ってきたのかもわからない・・・。

わからない。俺も・・・。
比呂がいないとき、どうやって悲しみを乗り越えたらいいのか・・
引っ張りあげてくれる人がいなかったら、どうやって自分で立ち上がればいいのか・・・




わかんないよ。もう。

2008/03/01(土) 16:29:16
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