恋人

帰り際、小沢が俺に寄ってきて『彼女とカラオケいくんだけど、ユッキー一緒にどう?』っていうんだ。
誘ってもらってうれしかったし、比呂はバイトで無理だろうけど・・・カラオケか〜って思って、『いいよ。』って返事した。

小沢の彼女さんはかわいくって、どんどん小沢を好きになってくかんじ。2人の寄り添い方からね、
ぎこちなさが消えてたのがわかった。小沢はあんまり歌わないんだー。彼女さんの歌ききながら、にこにこしててね。
俺の隣に比呂がいないのがすっごく悲しくなってきて、イジケモードに入りそうな自分を、必至に押しつぶして笑顔作った。

・・そしたら部屋のドアが開いて『おーまーたーせー』って比呂が入ってきた。
俺ビックリして立ち上がってしまったー。かっこわり〜、なにこの条件反射!

『どうしたの?!バイトは?!』
『休憩。夕飯休憩。ね、飲み物頼んでいい?』
『いいよ。飯も頼みなよ。』

小沢が言うと、彼女さんがメニューを渡しした。そしたら比呂は1ページ目を見てすぐに、
注文用の電話でビビンバとファンタ頼んで、俺の肩を抱いた。ソファーにどっかーんと座る。
なんじゃその態度。小沢も彼女も、ケラケラ笑う。

『紺野くん、どうしたの?』
『や、見せつけに来ました。』
『休憩何分あるんだ?』
『夕飯休憩と一服休憩分、一気にもらったから1時間。』

小沢の彼女さんが俺を見て言った。『よかったねー。幸村君。』

ビビンバがあっという間に届いたから、比呂がすごく不審がって
『これ、ほんとに今作ったの?早すぎだろ。食えるのかコレ。シェフよんでこい。シェフ。』
とかいって、店員さんを困らせていた。どうやら顔見知りらしい。
『俺がつくったに決まってるだろバカ比呂。』
とかいわれてた。・・・んもー・・。しょーもない!

ビビンバ食べながら話をする比呂。小沢カップルが、けらっけら笑う。俺は比呂に注意した。
『みんなカラオケにきてるんだから、喋ってばっかじゃなくて歌わせてあげて。』って。
そしたら比呂が、口に入れてた飯ごくんと飲み干すというの。
『どーせお前らまだまだここにいるんだろっ。俺が帰ってから歌やーいーじゃん。っていうか、俺に歌わせろ。』

・・・・

これだからO型はっ!




ガー食べて、ガー飲むと、比呂は曲選んで、さっさとリモコンで予約した。そしたらすぐに曲が始まる。Salyuの『Tower』だ。
比呂はね。すっごく屈託なく歌を歌う。この曲うたう比呂見るのは初めて。っていうか、この曲自体・・ちゃんと聴くの初めて。
アルバムは持ってたんだけど・・この曲ちゃんと聴いたことなかった。
静かな曲ってわけじゃないのに・・すっごいじーんときちゃって・・きゅんときたし・・・うん・・。
その曲だけ歌って、金俺に渡して『割り勘お前の分と俺の分』っていって走っていっちゃった比呂。

ありがとね。

小沢の彼女が『比呂君優しいね。』って俺に言ったら小沢が『あいつは、ただ勝手なだけだって。』ってわらった。
『自分がユッキーに会いたいから、来ただけなんだよ。きっと。』って。
俺は比呂が残した痕跡を眺めながら、ふふっと笑った。一気食いしたビビンバ、一気飲みしたファンタ。
時間がないからたった一曲だけ歌ったのがあの歌。俺の気持ちに、ぬくもりが寄り添う。

人の優しさにはちょっとだけ自己犠牲が潜んでる気がするの。そこに対する罪悪感が大きいのね。俺は。
優しくしてくれてありがとう、でもごめんねって・・そんな風な勝手なマイナス思考。
でも、今日の比呂の歌声は、俺を救ってくれたな〜。

かわいい顔で、屈託なく、気持ちよさそうに大きな声で、大きな口ですごくうれしそうに、たまに俺の事を見て
目が合うと照れて目をそらして・・そんな風に歌う比呂は、ほんとに心の底から幸せそうだった。

俺といることが幸せ。そう思ってくれてるって伝わるのね。カラオケ屋に来るのに一生懸命急いでくれたこととか
後半の休憩も費やして、俺のとこに来てくれたこととか・・自己犠牲させてごめん・・・じゃなくて

俺はいっぱい『ありがとう』って言うのが正解なんだと思った。

『ごめん。』っていったらきっと比呂は『そんなつもりじゃなかったよ。』っていう。
『ありがとう。』っていったら比呂は、『・・・・うん。』って笑ってくれるだろう。素直になるってそういうことだ。
会えない事情があったって、会いたいって伝えるのが大事で、お互いそれを受け入れあえる心が恋心なんだと思うんだ。

みんなに内緒でこっそり俺の耳元でね、『このビビンバ辛い』っていった比呂がかわいくって
目の前にハートが乱れ飛んでるよ。幸せモノだね☆俺!


2008/05/28(水) 23:03:45
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