どうしよう



午前中、兄ちゃんの洗車を手伝った後、勉強を見てもらって、12時半に家をでて
比呂のバイト先に走っていった。自転車は使わず。

この自転車は使わず・・・という部分がポイントで俺が徒歩で出かけたなら、
比呂は家まで自転車で送ってくれるのだ。(過去の実績的に間違いない)

あいつのバイト先のサボテン屋は、地元じゃちょっと有名で
今日も女の客が数人いて、その店の奥で比呂がラッピングをしていた。

13時までにまだ時間があるけど、とりあえず比呂のとこにいった。
そしたら比呂が、にこっと笑って『もうちょっとだから待ってて。』といった。
待ってますとも。待ってますともよ。(渾身の笑み)

俺は、比呂のそばにストーカーのようにくっつきながら、比呂の仕事ぶりをガンミしていた。

そしたら背後から、『君』と言う声がする。そんなの無視して比呂を見てたら
『ごら。そこのピンク。』と言う声。 振り返るとそこには、馬鹿でかくて化粧の濃い女が立っていた。

『なんすか。』というと、その女は『なんすか・・じゃねえわよ。邪魔あんた。こっちきなさい』という。
比呂に目配せしたら、『オーナーさんだよ。』といって笑ってる。
オーナーならば、しょうがない。俺はその人の後についていった。

でけえし香水くせえし、なんだこの女。俺は露骨に嫌そうな顔をする。
そしたらその女が俺を見て、『あんた、紺野ちゃんとどういう関係?』といった。

・・・・さてはこの女も紺野狙い!!!こんちきしょう。
俺は、本人がいないのをいいことに、すっぱりそいつに言い切ってやった。

『親友です。それがなにか?』



そしたらそいつはげらげら笑って、『言い切ったわね。今本人に確認とってくるわ。』とほざいた。

俺はもう大慌て。
『まってまって!うそうそ!ただの友達!友達だから!』
『ばかね。そんなこと聞きたいわけじゃないのよあんた。紺野ちゃんに害がなきゃ、それでいいのよ。』
『は?』

その人は紺野のいう通り、オーナーの人だった。紺野のことを、中学時代から雇ってあげてるんだって。
雇ってる以上、悪い虫がつかないように監視してるそうだ。
若い紺野を雇ってる以上、最低限店の中では、紺野の保護者のかわりとして、
色々しつけようと思って世話を焼いてるらしい。

『なるほど。それはおせっかいな。』といったら、思い切りどつかれた。
そんなことしてばたばたやってたら、比呂が俺の元に走ってきた。
『あはは。なにやってんですか?』
比呂がいうと『余計なおせっかい焼いただけ!』という。おのれデカ女め・・。

『なに拗ねてんの?この人。』と俺が言うと、またその大女にドツカれそうになった。
でもそこは、比呂が間に入ってくれてとりあえずセーフだったけど。

店を出て、俺は予定どうり比呂のチャリのケツに、乗せてもらった。
人通りの少ない坂道を、蛇行しながら進む自転車。

『今日はサンキュー。危うく寝過ごすとこだった』
『ううん。ちゃんと間に合ったの?あのあと。』
『とりあえず、着替えと歯磨きして、そっこうでかけたらギリで間に合った。』
『ふーん。』
俺らの頬を通り過ぎる風のせいで声があまり聞こえない。
だから俺たちは大声張り上げて、そんなたわいもない会話を続ける。
『でも怒られちゃったよー。ハルカさんに。』
『ハルカさん?・・ああ、さっきの。』
『そう。急いでくるなら、連絡して遅刻しろって。』
『えー?なんで?』
『事故にでもあったら、どーすんだってさ。』
『・・・。』
『もう寝坊しないようにしよ・・・。俺。』

・・あのガサツそうな大女が、そんなキュートなことを言うなんて・・・。
俺が大女を見直してたとき、自転車が坂道を下り切って、喫茶店の前にとまった。

『飯食べよう。おごる。』

喫茶店は人もまばらで、俺らは窓辺の席に座れた。
『今日は俺にメニュー決めさせてね!』といって、比呂がへへっと俺に笑いかける。
『えー?なになに?』と俺が聞いても、けらけら笑って教えてくれない。
店員が注文をとりにくる。そしたら比呂は俺にメニューを見せないように、店員に何かを指差して、
メニューを店員に渡すと『楽しみだね。ユッキー君!』ていって笑った。

なんだー?もー!笑顔がキュートだなあ。
それからは俺の『なに頼んだの?』攻撃をかわすために、比呂は一生懸命渡部篤郎の物まねをしていた。
渡部の声でなにを言うのかと思ったら、佐伯がバスケ部で自己紹介したときの挨拶のパクリだった。しんど!

ひーひーいいながら腹を擦って笑ってたら、シーフードカレーと馬鹿でかいプリンが運ばれてきた。
思ってもいないものの登場に驚きのあまり声が出なかった。
『うれしい?ねえ、うれしい?!』
俺をのぞき込んで笑う比呂。 すっげえうれしいよ!なにこれエビとかもめちゃでかいじゃん!
『高いんじゃねえのこれ!つかさ、プリンの大きさ、なにこれ!』
比呂は、ふふんという顔でいう。
『僕は昨日、臨時収入があったんですー。』

簡単に言うと先月のバイト代で、ハルカって人が計算ミスしたらしく1万比呂に払い忘れてたんだって。
それを昨日になってもらったから、俺に豪華ランチをおごろうと思ったんだって。

『でもこれ、そんなに高くないんだよ?ここは安くて美味いので有名みたい。』
バカか!こいつもう、ほんと困っちゃう。俺を喜ばそうとしてくれたってこと?
『ありがとうー!味わって食うよ。』
俺はスプーンとフォークを手にする。 比呂はシーフードカレーだけ。だから、俺はプリンを一口比呂にあげた。
比呂は、一口プリンをくったら、俺を見て、うはは・・と笑う。 そして俺に言ったんだ。
『ハルカさん・・・、あのひと男だからね。』


『えーーーーー!!』



喫茶店から帰るとき、比呂の自転車のケツに乗って 満腹の腹を擦っていたら、
『幸村、ちゃんとつかまれよ。』と比呂が言う。

だから俺は比呂の腰にしがみついた。なんか少しだけ、どきどきとした。
比呂は鼻歌とか歌ってる。だから調子に乗って、ぎゅっと抱きついた。
そしたら俺、胸がぎゅーっと痛んで、息が苦しくなっちゃって、比呂に抱きついた手が震えそう。
自転車は坂道を登り始める。『さすがにきつい』といって比呂は立ちこぎをし始める。

『降りようか。』と俺は言ったけど、『平気だよ。』と比呂は言った。
長い上り坂を比呂は俺を乗せて、立ちこぎで全部のぼりきった。
『なかなかだった・・。』そういって比呂が振り返る。でも俺は返事なんかできない。
そしたら比呂は自転車を降りて俺を見た。
『なにお前・・。顔赤い。熱あるんじゃね?』

や・・。 そんなことはないとおもうけど・・。

や・・・・。 そんなことは絶対・・。



Post at 21:28 //Date 2006 ・ 04 ・ 30






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