黒酢。

今日は部活のあとに、比呂と俺と浅井と麦の四人で、
小沢の誕生日の鍋について、ファミレスで話し合った。
昨日会ったばっかなのに、まーた顔合わせてる俺ら。

『暇人』
『・・・・おまえもじゃん。』
『他に友達いねえのか』
『ねーもーめんどくさいんだけどこいつ。』

なんていって、麦と比呂が互いを罵り合っている。
サニーヒルズのウェイトレスさんは、制服がかわいい。 ミニでフリルで、胸がバーーン。
俺、比呂に出会うまでは、ここの店員さんの制服姿で抜いてたからね(にっこり)。

で、そんな懐かしい記憶を辿りつつメニューを決めていたら、
麦が比呂に『なあ、あの人、ギリじゃね?』という。
ギリ?なにが?
麦の視線を追ってみたら、すげえスタイルのいい店員がいた。
せ・・セーラー戦士?!

つか、そういう話題を、比呂にふるな。


俺は、その直後に、ギギギギ・・・っと、刺さるような視線を比呂に送った。
比呂は、その店員の方を興味なさそうに見てたんだけど、
俺の視線に気がついて、ギョっとした。

そんで、俺の顔を見て『なに?』みたいな顔で、首傾げたから、
思いっきり口の動きで『浮気反対』といってやった。

そしたら比呂、その言葉が意外だったらしく、 ちょっとだけビックリした顔をして、
そのあと満面の笑みで、あははって笑ってくれた
なんで、そんなに嬉しそうな顔してんのー。俺は怒ってるのに!
浮気は、厳禁なんです。絶対やだからね!!

・・っていうことで、滞りなくメニューを頼んだんだけど、
そしたら比呂が“から揚げの黒酢あんかけ”ってのを頼んだのね。
『何で普通のから揚げにしないの?』 って、浅井が不思議がって聞いたんだけど、
比呂は得意げな顔をして 『最近黒酢にこってるんだー』 とかいって笑うの。

『紺野ちゃん、すっぱいの好きだっけ?』
『うーん・・まあ、普通程度に好きだったんだけど、
最近黒酢にはまってさー。これかければ何でも食えるかも。』
『へえー。でもいいんじゃね?体にいいみたいだし。』
『やったー。そろそろ健康のことも考えなきゃいけないからねー。』
『50過ぎたら話すようなアレだよな。お前らどんだけ老けてんだよ・・・。』

会話内容はさりげなく横道にそれていきつつ、それでも何とか奇跡的に本線に戻る。

『で、小沢の鍋だけど、どうする?』
『あの子は何でも食べるからね。』
『俺、あいつが何かを不味いとかいったの聞いたことない。』
『ぽてちを異様に好きだよね。』
『ああ。好きだよねー。毎日食ってるじゃん。』
『じゃあ、ジャガイモ自体が好きなのかな。』
『いやあ〜・・それはわかんないよ?』
『トマジュー好きのトマト嫌いって、多いしな。』
『え、俺、逆の方が多いイメージ・・・。』

ほらほら話がそれちゃうよ。

『じゃあどうするー。何鍋?』
『カルシウムたっぷり牛乳鍋とかは?』
『なにそれ。それ罰ゲーム?』
『違うよ、すげえうまいんだから。』
『幸村家では、定番なんだな。異文化コミュニケーション的な。』

『人んち家庭を異文化呼ばわりしないでね。』


『いやでも牛乳鍋かー。とか、ネーミングがやけにピンポイントすぎじゃね?』
『・・・・知ってた?小沢ってカルシウムはトクホしか認めてないからね。』
『なにそれ。』
『わかった。じゃあ原点にかえって、おでんとか。』

『おでん?もうふりだしに戻んの?』


『じゃあすき焼き。』
『あー、いいね。豪華。』
『あ、ごめん。俺、すき焼き苦手。』
『えー、なんでーー?!』
『春菊が・・・・。』
『比呂って春菊も苦手なのー?』
『苦手。あのわけのわからない風味が。』
『そうか?うまいじゃん。』
『や、うまいかもしれないけど味基準が把握できない。苦みが混ざると難しい。』
『つか、春菊カルシウム豊富なんじゃね?』
『幸村はどうしてもカルシウムなのな。』

『つか味基準て何よ。』
『苦いかうまいかどっちかだったらいいんだけど・・・』
『つまりは美味いとおもってんじゃんか。』

な・・なんか・・全然きまんねーんですけど。


そうこうしてたら、飯が運ばれてきた。
比呂のから揚げにはブロッコリーと、にんじんのグラッセが添えられていた。
比呂はブロッコリーを得意げに食うと、麦に向かって得意そうに笑う。
すると麦がむっとした顔をして
『そのにんじん食ったら、お前のことを認めてやる。』
とかいうの。 そしたら比呂が麦に向かって、
『これは鑑賞物。きれいでしょ?そういうことだよ。』
とかいうんだよ。もう・・。しかも浅井が、よせばいいのに、
『紺野ちゃん、黒酢かけたら、だいじょうぶかも。』
とかいって、比呂ににんじんをすすめるじゃん・・・。

で、結局そっち方面に話題がそれて、もう戻れない。
比呂のにんじんネタは、もういいよー。
小沢がいないと駄目なんだ。止める人が一人もいないから。

結局俺等は飯が終わるまで、絶望的なまでに、どうでもいいようなことで、語り合ってしまい、
肝心の小沢のなべについて、全く決めることが出来なかった。

そんなノリで会計済ませて外の駐輪場にいき、それぞれ自分のちゃりの鍵を開け、 自転車にまたがる。

その時比呂が、麦と浅井に 『お前ら、プレゼント班、未経験だろ?俺ら今回鍋担当するよ。』
といった。・・・え?俺と比呂で鍋つくるの? 麦も浅井も快諾してくれて、俺は比呂と鍋係になった。
何鍋にするかはこれから考えていくんだって。

夜。寝る前に、比呂の声聴きたくて電話したら、 半分寝ぼけたような声で比呂が電話に出てくれた。
そのときに、比呂が言ってくれたんだ。 あいつがなんで、鍋を俺と2人でやるって言ったのか。

それは、小沢へのお礼の気持ちをこめて、 2人で鍋つくりたかったからなんだって。

わー・・・。

俺もう骨抜きで、くらげになりそう。 そんな風に幸せに包まれてたら。
電話のきり際に寝ぼけた比呂が 『ユッキーエプロンたのしみだなー』といった。
・・・本音はそっちなのかい・・。


まあ死ぬほどうれしいですけどね!!
NEXT