2007/1/30 (Tue.) 16:54:26

部活前。放課後の教室。飼育係の当番でウサギ小屋の掃除をした後、
荷物をとりに教室に戻ると、比呂が一人で窓際にいた。
今日は午後から暖かくなって、半袖シャツの下に長袖シャツを着ていた比呂は、
半袖一枚になっていて・・すらりとのびた二の腕が窓の外にだらんと投げ出されてる。

『比呂?』

声をかける俺。比呂は力無く俺を見ると、返事もなく窓の外に視線を戻し、
それでそのまま黙ってしまう。・・・何かあったのかな。

小沢の机の上に座って、ぼんやり駐輪場をみている比呂。
駐輪場のむこうにはウサギ小屋。俺の事・・・見ていてくれたのかな。

俺は空いたスペースに腰をかけると、比呂をゆっくり抱きしめた。
人が来るかな・・。だけど・・・。こういうときの比呂は、口で何か言うだけじゃあ駄目だ。

ぎゅっと抱きしめて、おなかを擦ると比呂が俺に、ちゅっとした。
そのあと携帯をだして、時間を見て、また戻す。
部活まで20分あることがわかったからか、こんどは窓枠に突っ伏してしまった。

あーあ・・。この子のこういうとこ・・たまらない。

俺には絶対できないような、深い・・深い・・悲しみの表情。
泣いているわけでもないし、顔をしかめているわけでもない。
だけど目が・・・比呂の目が・・なんだかいつも、さみしそうなんだよ。

『どうしたの?』

声をかけた。無駄かもしれないけど・・だけど・・
今は俺は比呂の恋人だから、少しは彼を励ませるかもしれない。
比呂は、黙っている。だけど・・・目を・・合わせてくれた。

『どうしたの?なにかあった?』・・・比呂は黙って首を横に振る。
『おなかでもすいちゃったの?』・・・そう言ったら、少しだけ笑ってくれた。

・・ああ・・。俺って駄目だな。
俺が落ち込んでいる時、比呂は俺を引っ張りあげるまで、
話をしてくれて、抱きしめてくれるのに、俺はもう会話が続かない。
持ってる引き出しの絶対数が違うんだろうな・・きっと・・。

でもね、それなら他にも手がある。俺は比呂の頬に、自分からちゅっとした。

『比呂、好き。』
『・・・。』
『好き。』
『・・・・・うん。』

好きだといったら、比呂が返事をしてくれた。
そんで俺にまたキスしてくれて、俺の手を握って、話してくれたんだ。

比呂の家のおばちゃんが、妊娠したんだって。辛い不妊治療の結果の妊娠だったらしい。
『わあ!よかったね!おめでとう!』
俺は比呂の手を握り返して笑った。比呂は、俺に笑い返してくれたけど、すぐにうつむいてしまったんだ。

『・・比呂?』
『・・・。』
『うれしくないの?』
『・・・嬉しいよ。』
『だけど・・なんか・・表情暗いよ?』
『・・嬉しいんだけど・・だけど・・俺も一緒に喜んでいいのかなって・・思って。』
『なにいってんのー、いいにきまってんじゃん。』
『・・・・。』
『そんな、細かいことをガタガタいうような人らじゃないじゃん。おじちゃんたちは。』

比呂が、ごくんとのどを鳴らしたのがわかった。

『・・・そうだけど・・・。』
『・・・』
『だけど・・・俺にはさ・・そういう細かいことが・・重たいんだよ。』

・・しまった。

細かいことって、なんだよ俺。
何を指して俺は『細かいこと』って言葉でくくって口走ってしまったんだ。
おじさんたちと比呂と血がつながってないことか?
比呂が生まれたせいで、2人の結婚が10年以上遅れてしまったことをいってんのか?

バタバタバターっと足音がして、俺は急いで比呂から体を離す。
ガラっと勢いよくドアが開いて、ゲラゲラ笑いながら浅井と麦がはいってきた。

あきらかにいつもと違う俺らの空気を察した麦が、比呂のとこに駆け寄る。
それで何にもいわないで、比呂の頭をガシガシと乱暴に撫でた。
浅井が俺のとこに来て、『なんかあったの?』ときいてくる。
俺はもう・・自分の失言にショック受けすぎで、なんも喋れなくなっていた。

そしたら比呂が、麦に金けりして
『なーーんもねえよっ。俺がちょっと寝こけてて、幸村が起こしてくれただけだよ。』
と言う。すると浅井がゲラゲラ笑って、
『びびるじゃんか!この〜、紺野ちゃ〜ん★』
といって、俺らにウィンクをしてきた。

そのウィンクが、めっちゃくちゃへたっぴで、片目を閉じると片目が半開きの白目なんだ。
比呂はウィンクが得意だから、浅井はそのあと必死に、比呂にウィンクを教えてもらっていた。

ヒノエと浅井が同じクラスなんだけど・・クラスで流行ってるんだって。ウィンクするのが・・。
浅井はヒノエに勝るウィンクを、明日、やつに食らわせたいらしい。

わけわかんねえよ。

比呂はニコニコ笑ってる。さっきまであんなに落ち込んでたのに。
俺じゃあ比呂を・・励ませないのかな。俺がそばにいるだけじゃあ、比呂を元気にできないのかなあ。

10分前になったから、部室にいこうと麦がいって、荷物をもって教室をでたら、比呂が俺の腕をぐいっとつかんだ。

麦と浅井が、少し先を歩いてて、俺は静かに立ち止まる。
『あとで・・2人で話がしたい。』比呂にそういわれた。


今度は俺の喉がゴクリと音を立てる。


・・・・別れ話だったらどうしよう。
※絵板マンガです。(別窓)
『反省』
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