『水族館』
江ノ島にある水族館に行った。(突然)


テスト期間中にありえないことだと思ったけど、朝イチの電車で行って、
夕方までに帰り、夜の強化授業に出ればいいか・・と思って。

浅井とね・・行きたいねって、前に比呂がみんなを誘って
本当はテスト明けに〜とか言ってたんだけど。
でも、引っ越し前にはできるだけ、地元での思い出つくりたいって
比呂と坂口が話しててさ。
だからみんな、冬休み明け以降は、普段から一生懸命勉強して、
テスト対策も早めにやって、テスト期間中に行くことにしたんだ。

俺、ずっと迷ってて・・・本気で最低だとおもうけど・・
でもやっぱ・・今日は朝から塾はやってたから
夜だけの授業じゃ不安だな・・・って・・。
朝から勉強したかったし・・。

でも、やっぱね・・・その空間にいたいっておもったの。
比呂と浅井がいて、小沢とかもいるその空間で思い出の輪に入りたかった。
だから明け方に比呂に電話したんだ。

比呂は半分寝ぼけてたけど、それでも喜んでくれて
集合時間に駅にいったら、俺を見てにっこ〜〜〜って笑ってくれたよ。

『夢か現実か区別つかなかった。』だって。あはは。

電車に揺られて数時間。乗り継いでやっと江ノ島の水族館に到着。
比呂と俺と坂口と小沢とヒノエと麦と浅井。
すげえ目立つ面子だったけど、みんなでイルカショーとかも見ちゃったよ。
後ろで見ていた家族連れの子に『兄ちゃん達の頭で見えない』
といわれ、みんなで後ろの通路に移動して、最初は地味に見てたけど
イルカのスプラッシュショーだかでテンションあがった坂口と麦と比呂が、
はしゃいでもりあがっちゃって、浅井がそれ見てゲラゲラ笑って・・、すっごい楽しかったなー。

そのあと一回出口を出て、腕に押してもらったスタンプ見せて再入場した。何この無駄行動。
なんかね、坂口がね、再入場用のスタンプがブラックライトだかでしかみれないスタンプだとか言ってさ
それを体感したかったんだって。出口で押してもらった透明スタンプが、入り口のライトで
ぼわ〜んと浮き上がった途端、『おおおおお!!!』ってみんなで感嘆の声上げちゃってさ、
周りの人に笑われちゃったよ。でも恥ずかしくなかった。一緒に笑われてるのが誇らしいくらいだった。

で、再入場してからは、普通の順路で最初から水槽見てまわったんだけど、
すげえでかい水槽があってさ、そこに鰯の大群が・・・・。


鰯・・・・・・俺の大好物!!


比呂が俺のほうを見て
『那央、よだれ。』『あれは、食べちゃダメな魚だから。』
『おまえが魚全部食っちゃったら、良い子のみんなが嘆くから』
とか言ってくるから、恥ずかしかったよ〜もー!!!

そんな風に、きゃっきゃ言いながら、すすんでいくと、
くらげのね・・コーナーがあったんだ。

比呂はくらげ大スキなんだよね。

なくなったお父さんが店長やってた店にいたんだって。くらげが。
たまに店に遊びにいくと、比呂はずっとそれを眺めてたらしいんだけど・・。

くらげコーナーで、押し黙ってぼんやりと、くらげを眺める比呂に
しばらく誰も声をかけられなかった。
大きな水槽に、みずくらげがゆらゆら泳いでて、比呂がそこから動かなくなっちゃって、
そしたらね、浅井がね、比呂に近づいていって、肩をぽんっとたたいたんだ。
そしたら比呂がビクッとして、浅井の顔を見て『あ、わりい・・』っていったあと、
俺らの方を振り向いて『わり・・ごめん。』って・・・言った比呂の頬に涙の筋がついていた。

みんな気づかない振りしてたけど、俺は胸が死ぬほど苦しかったよ。
小沢が俺のケツをバシっと叩いてくれたから、なんとか正気でいられたけど。

そのあとは、また色々な魚を見てまわってー、土産コーナーでわけわかんない菓子だのなんだのを買って盛り上がった。

せっかく湘南にきたからっつって、海でちょっとだけ、軽くあそんで
俺の塾のせいで、早めに向こうをたつことになった。

・・悪かったかな・・やっぱ俺・・来ないほうがよかったかな・・とも思ったけど、
浅井がね『ユッキーこれないと思ってたから、すげえうれしかったよー。』って言ってくれたんだ。

優しい・・・。俺のほうが嬉しいよ。

浅井には今回の水族館、浅井のために来たっていうのは、内緒にしてあるんだけどね、
本人はきっと気がついてたと思うんだ。
土産屋で、それぞれ浅井とお揃いのグッズを買い捲ってたから。

俺はミニタオルをお揃いにした。小沢は指人形みたいなやつ。
他のやつらは何買ったかちゃんとみなかったけど、
とにかくそれぞれが浅井とお揃いの土産を買ったんだ。

浅井がいるのがあたりまえなのに、4月には浅井はいないんだよな・・・。

地元について、駅の駐輪場で俺は先に別れることになったんだけど、
なんか悲しくなっちゃって、みんなと別れたら涙がでちゃったんだ。
自分でもビックリした。俺、比呂たちに比べたら浅井とそこまで仲良くないし、
転校の事も・・・そこまでは・・・ショックじゃなかったから。

でもすげえ悲しくなっちゃったの。引っ越しまでまだまだ一ヶ月近くあるのに・・
この世の終わりくらい悲しくなっちゃって、あほみたいに泣いてしまった。

塾の前について、授業まであと20分くらいあったから
比呂に電話した。あいつらは、あの後カラオケに行ったらしい。
比呂が電話に出たとき、『青春アミーゴ』の音楽が流れてて
どうやら比呂と坂口が歌ってたみたいなんだけど、
麦か誰かにかわってもらってくれたらしく、
電話の向こうはすぐに静かになった。廊下に出てくれたんだ。

『ごめんな。どうした?』
『・・・比呂・・・。』
俺は、駅でみんなと別れたあとのことを、比呂に話す。
そんなの・・別に比呂に言うほどのことでもなかったのに、
でも・・・なんか・・・きいてほしかった。

比呂は俺の話を聞いたあと、少しだけ黙って、
そのあとゆっくり話してくれた。
『俺もすげえ悲しい。やっぱ浅井がいないと悲しいよ。でも・・・。』
『・・・』
『答えになってないかもしれないけど、那央がきてくれてほんとよかったよ。今日。』
『・・・でも・・そのせいで、ゆっくりできなかったよね・・むこうで。』
『・・そんなの大したことじゃないよ。浅井すごく喜んでるよ。・・・おまえにも言ってたけど、
さっきもカラオケついてからさ、「今日はユッキーもこれてよかったね。」って』
『・・・ほんと?』
『ほんとだよ。ほら俺ら・・・、俺は家があんな感じじゃん。で、麦んちは母子家庭でさ、
浅井の家は両親忙しくて、家族で水族館とかさ、あんま行ったことがなかったんだよ。』
『・・・・。』
『だから常々三人でさ、いつか行きたいなあっていってたの。』
『・・うん。』
『それがさ、口約束だけで終わらなかっただけでも嬉しいのにさ、
ヒノエや坂口や潤也や那央も一緒に行けてさ。』
『・・・・うん。』
『おまえは絶対無理と思ってたんだよ、テスト中だし。』
『うん・・。』
『みんなそれで仕方ないと思ってた。思ってたのに、お前は、こっちを優先してくれたわけじゃん。』
『・・・うん。』
『どんだけそれが、すげえことかってのは、いつもおまえが勉強頑張ってるのを知ってる俺らには、
めちゃくちゃわかってるからさ、マジ嬉しいと思ったし・・。』
『・・・。』
『ちょっと誇りに思った。わが恋人を。』
『・・・比呂・・。』

へへって電話の向こうで笑う比呂。
俺・・とんでもないくらい、恵まれた環境にいるんだなあ・・・。
友達は俺のことを、ちゃんとわかってくれてるんだ・・・。

21時半で塾の授業が終わって、そのあと携帯の電源入れたら
カラオケで盛り上がってる比呂とヒノエの写メが小沢から届いてた。

<ジャニーズメドレー二周目なり。

あはは。
大きな口あけて、何歌ってるんだか。俺はカバンから紙袋を出す。
そこには浅井とお揃いにしたミニタオルと、
比呂とこっそりとったプリクラがはいっていて
それをみて、顔がにやけて、見上げた夜空には月が綺麗に輝いていたよ。


2007/03/03(土) 22:54:30
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