2006/5/9 (Tue.) 17:56:06

放課後、部活前ってことで校内を散歩していたら中庭の木の根元で、紺野がボーっと単品で座っていた。
今日も完膚なきまでに、ゆるみきったぼけっぷりだ。うん。俺はそんなお前が好きだぞっ☆

周囲を見回したところ、ピンクのあの子はどこにもいない。
だから俺は紺野めがけて全力疾走。そして華麗に飛び膝蹴りを食らわした。

『いてえな!なんだよ!はげ!』俺ははげじゃないから全然へっちゃら。
『なにしてんの?おばかさん。』紺野はおばかさんだから、ダメージ100。ざまみなさい。

『まってるの!ピンクのあの子を!』ユッキーは生徒ホールにある自販にジュースを買いにいったらしい。

『お前はなんでいかなかったんだよ。』『待ってろっていわれたの。』

あ・・そ。

俺は、紺野の横に座った。そして、なんとなく話をする。

『お前ユッキーと仲いいよな。あいつってどうなの?』
『どうなのって・・・。』
『・・・・・。』
『普通じゃないけど普通?天然?』
『天然かーー?』
『じゃねえのー。知らん。』

・・・・知らんていうなよ。会話終わるだろ。

『いやさー。なんかさー、超クールな印象じゃん?』
『は?どこが?ずーっと喋りっぱなしじゃん。いつも。』
『そりゃお前の前じゃそうだけど、俺らの前じゃ無言だよ。目が合っても露骨にそらされるしさ。』
『・・それ・・お前が普通に嫌われてるってだけなんじゃない?』
『なっ・・。』
『残念でしたー。』
『なんだとーーー!!!』

しばらくプロレス技かけあって、じゃれた。
・・・じゃれたという印象は、どうやら俺だけのものだったようで
紺野はそれどころじゃなかったらしく、そのうち本気で怒り出す。

『タップしたらやめろよっ!!!いてえだろ!』
『はいはい。ごめんなさいよ。』
『謝るお前に誠意はねえし、ユッキー全然きやしねえしっ!どこまでジュース買いに行ってんだよっ!』
『怒るなよ。ぼんにょ。』
『・・・なにそれマジやめて。』
『お前俺に厳しすぎない?』


紺野は大きく伸びをした。そんで、さっき俺が蹴りいれたとこを
『ねえ、ほんとに痛かった。』とかいってさすっている。
そんな紺野を見て俺は思った。やっべーなーって。大好きだなーって。

『なあ・・』
『なに』
『・・・ユッキーってさ・・お前にだけ懐いてんの?』
『・・・どういうこと?。』
『・・他のやつなんか眼中なしじゃん。』
『・・・・。』
『お前とだけ仲良ければそれでいいっていう感じでさ。』

紺野は少し考える。

『そんなことないと思うよ。・・っていうか、そんな子じゃないよ。』
『・・・・・。』
『何でそんな風に言う?友達じゃん。』
『・・・いやさ・・こないださ・・あいつ、中学の時いじめられてたって噂聞いてさ。』


俺がそういうと、紺野の顔つきがかわる。

『・・・誰に?』
『・・え?』
『誰にきいた?』
『・・誰にって・・みんなだよ。先週くらいから、そういう噂広がって・・知らなかったのかよ。』
『・・・・・・。』
『・・・・・紺野?』
『・・・・なにそれすげーむかつくんだけど。』

感情がすぐ顔に出る紺野。おこってる。
そんなに幸村が大事なのかよ。どうしてそんなに大事なんだよ。

『お前、どういう風に聞いてるの?』
『は?』
『ユッキーが悪いみたいな感じで聞いてんの?』
『・・ああ。そうだけどね。』
『そんでまるっきり信じてんの?』
『・・・・・・・・。』
『お前がそういう話を信じてるような目でユッキーの事を見てるから、あいつが打ち解けられないんだろっ』
『・・・・・』
『何でもっと早く言わねえんだよ。俺に。』
『・・・。』
『友達だったら否定してやれよ。お前で止めてたら広がんなかっただろっ。噂っ。』

もっともらしいこといわれて、思わず俺は黙る。そんなこといわれてもなー・・。
お前は俺らが見てないような幸村のことまで知ってるかもしれないけど
俺らはお前から見えないとこでの幸村のことを知ってんだよ。
俺らのことを友達扱いしてないのは、むしろ幸村の方だよ。

考え込んでたら紺野が俺の背中をぱしぱし叩いた。
『ごめん。今の。言い過ぎた。』
いきなり謝るから俺はハトに豆鉄砲状態だ。

『お前が謝ることねえよ。』
『や、今のは本当に悪かった。お前は悪くないのに。ごめん。』
『いいよ。』
『・・・・・実際さ・・。』
『うん。』

しょぼんとして話す紺野を俺は見る。

『実際・・ユッキーって・・そういう風に見られても仕方ないとこある。
俺と仲良きゃそれでいいみたいな・・のでしょ。・・わかる。』
『・・・ああ。』
『でも違うんだよ。そうじゃねえの。俺とだけ仲良くしたいわけじゃないんだよ。』
『・・・。』
『自分から打ち解けてくのが苦手だから、友達ひとりつくるだけで精一杯だったんだと思うよ。』
『・・・・・。』

紺野はため息をつく。
『いじめの話はほんと。でもユッキーが悪いんじゃないよ?受験のときに色々あったみたくてさ。』
『・・・・・・受験のとき?』
『俺もよくは知らないし、あいつ側の話しか聞いてないから、実際のとこはわかんないけど
でもあいつ、ほんとーにいいやつなんだよ。ちょっと変わってるけど、でもいいやつなんだよ。』
『・・・・・。』
『だからさ、順序が逆って言うかさ、あいつが今、ああいう態度だから、
いじめられても仕方ないとか、そういう風に思うのは違うと思うんだよ。
いじめられたことがあるから、今、あんなふうにしかできないって言うかさ。』
『・・・・。』

『頭いい子だし、よーく人を見てんだよ。で、人の言動にすげえ敏感じゃん。
俺、しょっちゅうあいつを怒らせてるもん。』
『まじか?』
『まじだ。・・まじだけど、でも、あいつに悪気はないんだよ』
『・・・・。』

『無自覚にそういう風にしてるわけでもなくって、だから・・・悪気はないけど自覚はあるって言うか
いちいち試さないと安心できないタイプなのかな。わかる?お前だってそういうのあるだろ?』
『俺がか?』
『そう。俺だってあるよ。自分に自信がないあまりの・・そういうあれ。わかる?』
『いわんとしていることはわかる。』
『・・だから・・頼むからお前、こっち側についてくれよ。』
『こっち側?』
『幸村の味方になってやってよ。お前、いいやつそうだし。』
『いいやつそう・・じゃなくて、実際いいひとなの!俺は!』

ぽこん・・と紺野の頭を小突く。は?って顔しながら小突かれた頭をなでる紺野。

『じゃあ頼んだからね。高校でまでいじめられるようになったら、あいつ死んじゃうよ、絶対。』
『・・・・そんなに深刻だったわけ?いじめ。』
『だから俺は・・そこまでわかんない。でも、ユッキー本人にとっては深刻なんだって、ほんとに』
『・・だよな・・・』
『・・・うん。』


そんな話をしてたら、ユッキーがジュースを三つ抱えて走ってきた。
『佐伯がいたのが見えたから』って、俺の分まで・・。

『え・・?俺も?いいの?』
『うん。飲んで。はい。』
『さんきゅー、金払うよ。』
『なんで!いいよいいよ。っていうか、勝手に選んじゃった。ごめん。』

あれ?

幸村って・・こういうキャラ?
照れくさそうに幸村が笑うから、俺はデコをバシっとはたいていった。
『んじゃ、次は俺のおごりね!』って言った。

幸村は、すげえにっこり笑って、大げさなくらい首を大きくたてに振った。
『うんっ!!!』でこ擦りながらニコニコしてる。


・・・・印象が、変わった。


俺・・・今まで、紺野の隣をちょろちょろしてるユッキーが疎ましくて仕方なかった。
イジメのうわさを聞いたときも、『あれじゃあ仕方ねえかな・・』なんておもった。

俺はバカだ。何も知らないからって。
ユッキーという人間を知る前に、噂に翻弄されるとは最低最悪。

そのあとも紺野と俺のくだらない口げんかを、ニコニコしながらきいてるユッキー。



次の『光が丘★鍋奉行の会』には、ユッキーも呼んでやろうと思う。
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