Date 2006 ・ 05 ・ 17

今日のクラブ

今日は将棋クラブが先生休みで、だから紺野のとこにいったんだけど、
そういう日記をかこうと思ったんだけど、
にいちゃんが風呂に入れってうるさいから、入ってから書く。
あほ央人・・・はげろ。

*****

兄ちゃんに『そろそろシャンプーハット卒業したらどうだ?』っていわれた。
だから『余計なお世話だ。』と俺は言った。
そしたら鼻をつままれて、『反抗期か?』と言われたから
『そんなんじゃねえよ。』って俺が笑うと、兄ちゃんもあははっと笑った。

兄ちゃんのことは大好きだし、尊敬してないこともない・・
でもシャンプーハットだけは譲れねえの。

さて。
将棋クラブは中止になって、自由行動ということになった。
だから、隣の観察クラブに行ったら、紺野がスッゲー楽しそうに
地味な観察部の先輩たちと、なんかの菌の培養をしていた。

正直言ってこのクラブでは、紺野はのけぞるほど浮いている。
でもみんな仲よさそうに、菌の培養の作業をしていた。
『こんにちわー。』って教室に入ると、みんなで『こんにちわー。』っていってくれた。わあ。

『ユッキー、こっちこっち!!』紺野がそういう風に俺を呼ぶ。
紺野に『ユッキー』って呼ばれることなんかあんまないから、何気にうれしい。えへー。
『何やってるんですか?』俺は勇気出して、紺野のそばにいた人に聞いた。

そしたらその人がニコっと笑って、『カビ菌の培養だよ。』って教えてくれた。

なんか面白そうだなって思って、その後ずっとその先輩と俺は話をした。
その人は化学科の人らしくて、すごくわかりやすく説明をしてくれた。

比呂はガラスシャーレに入ったゼラチンに菌を塗っていき
作業を終えると『来週楽しみですねー。』って言って、周りの先輩と嬉しそうに笑った。
鐘が鳴って、それぞれの荷物を持ち、俺らは体育館に向かった。
クラブの日は帰りのHRはなくて、そのまま放課後になるんだ。

着替えてボールの用意をしながら、来週のカビ菌に想いを馳せる。
比呂も楽しみでしょうがないみたいで、『俺、化学科に入ればよかったなー。』っていっていた。

『なんで機械科を選んだの?』『就職率がいいから。』
『まじで?』『うん。俺、早く就職したいんだ。』
『そっかー。』『それに、工具とか使うのがもともと好きだったし。』
『へえ〜。』『修理工に憧れて・・だから。』

俺はとても納得してしまった。だからこいつは授業とか、すごくまじめに受けてるんだなーって。
5教科はてんでダメだけど、専門教科のテストはいつも比呂が学年でトップだもん。
将来を見据えてこの学校を選んだ比呂。

俺はちょっとだけ胸がズキリと痛んだ。

いじめにうんざりした俺が、この学校を選んだのは、ただの現実逃避だった。
ここでもダメだったら、さっさと辞めるつもりだったし。
本来そういうものじゃないんだよな。逃げ前提で進路決めるなんて・・・。
でもそれを比呂に言ったら、あいつは俺に言ったんだ。

『きっかけが現実逃避でも、なんか思うとこがあったからココに来たんだろ?』

・・・うん。確かにそうかもしれない。
夏休みに高校見学があって、何校か見てまわった中で、ピカ工がダントツに居心地がよかったんだ。
俺がピカ工を選んだのって、現実逃避なんかじゃなくってきっと・・・
ここにもう一度来たいって、心のどこかで感じたからなんだろう。

・・・うん・・そうだよな。だって、ここに進むことは俺が決めた。
ちゃんと自分で決めたから、自分が欲しかった友達を手に入れることが出来たのかもしれない。
そういう意味で、自分の行くべき道を自分で選ぶということが、どれ程大切なことなのか
改めて実感して、その重みを噛み締める。

比呂が入った観察クラブ、オタクの集まりみたいな地味クラブだけど、そこには優しい人がいっぱいいた。
比呂の行く先々には、いつでも優しい人たちが沢山いる。
比呂は何でも自分でしっかり決めて、そっちに行く人間が自分ひとりだったとしても
物怖じせず、迷いもせず、しっかり歩いて花を咲かせる。

類は友を呼ぶ・・ってホントにそうだよ。
自分で何でも選んでいけば、おのずとそこには考え方の似通った人間がいてくれるわけだ。
そういう場所なら背伸びもせず、無理もせずやっていけるということなんだろう。

俺は比呂の背中にボールをぶつけた。『にゃろ』と言って、比呂が俺を睨む。
睨み返したら比呂は露骨にビビって、『怖いだろっ!睨むな!』って自分を棚に上げる。

んふふ。

俺は笑う。

いつまでも、いじめられてた過去に、甘やかされてちゃ俺はダメなんだ。

不幸を武器にしたら負けだ。言い逃れの理由にしたら負けだ。
悲しい過去を逃げ場にしている以上、俺はそこから永遠に抜け出せないんだ。

がんばろう。俺って人。



比呂がクシュンと短く、くしゃみをした。



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