Date 2006 ・ 05 ・ 27

***

最悪だ。比呂に向かって吐いてしまった。
保健室のベッドの上で、何一つ汚れていない自分の
シャツや体を見ながら俺は、世界の終わりをぼんやりと願った。

ここ数日、比呂が女とばっか遊んでて、メールや電話にはでてくれるけど
俺のことは誘ってくんないし、バイトのときは忙しいし・・・
それが悔しくて悲しくて、つらくって不眠症になって、もう嫌になって
そういうのを全部思い出しながら、しくしくとベッドで泣いていた。

すると、保健室のドアががらっとあき、『しつれいしま・・す。』という小沢の声。
カーテンのスキマから俺を覗くと『ユッキー大丈夫?』と心配そうにいってくれた。

『うん。』
何とか声を振り絞り、涙を拭いて小沢に笑いかける。
すると小沢が安心したように、カーテン開けて、ベッドに腰をかけた。

『どう?すっきりした?』
『・・うん・・。だけど・・。』
『あ、比呂、今来るよ。宿直室の風呂に入ってさ、綺麗にしたから大丈夫。』
『・・・。』
『バスケ部の先生がちょうどいたからさ、事情説明したら今日は帰れって。』
『・・・うん。』
『・・・帰れる?送ろうか?』
『・・ありがとう・・でもいい・・・。大丈夫。』

すくわれる。小沢は優しい。気遣ってくれてるのがすごくうれしかった。

小沢と話をしていたら、廊下をぺたぺた走る音がする。
保健室のドアを盛大に開けて、入ってきたのは紺野だった。

『大丈夫かよー。ユッキー。』

屈託の無い声でそういうと、俺のそばに近づいて来る比呂。
俺は恥ずかしくて涙が出た。小沢がそんな俺を見てオタオタしながら背中をさする。

『お前、最近飯あんまくってなかったよね・・風邪でもひいてた?』
『ううん・・そうじゃない・・。』
『・・・。』
『ユッキー今日部活休むって。』
『ああ、さっき先生に会った。ユッキー、歩ける?俺がチャリで送る。落ち着いたんなら帰ろうか。』
実習用の作業服を着た紺野。
俺、お前に思い切り吐いちゃったって・・服とか汚しちゃったし・・迷惑すげえかけちゃったのに・・

俺は比呂の顔を見た。

『ごめん・・。汚いことして・・。』
『?』
『だっておれ・・。』
『・・・お前は悪くないよ。バイトも休みいれてもらったから、週末ゆっくり家で休んで。』
『そうだよ。ユッキー、ちゃんと休めよ。体は大切だよ。』

比呂も小沢も優しくて、余計に俺は自分が惨めに思えた。

『荷物持ってきてやるよ。どうする?下駄箱いく?』
『あー・・そうだね。じゃあユッキー下駄箱いこうか。』
『荷物いつものバッグだけだよね。じゃあ下駄箱集合ね!』

小沢が走って部屋から出て行く。俺は比呂と二人きりになった。
比呂は俺の腕をつかむと、ベッドからゆっくり起き上がらせた。
いきなり吐いたせいか、とてつもなく頭が痛い。ふらつく俺を、比呂が反射的に支える。

『病院いったほうがいいかな・・家の人いる?』

その比呂の声が、すげえあたたかくって、たまらない。
こんなにあたたかいのに、恋の気持ちはカケラも混じってないんだよ。
下駄箱で小沢と落ち合って、俺は比呂に家まで送ってもらった。

部屋にひとり。不毛だ・・・。今日もやっぱり眠れそうにない。
帰り道の途中で比呂が買ってくれたバニラアイスを冷蔵庫からだしてきて、ベッドの上で口にした。

すげえうまかった。
そして死ぬほど泣けた。


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