Date 2006 ・ 08 ・ 02

紺野の恋愛

昨日は部活からバイトまで、ずっと比呂と一緒で、笑顔とか、いたずらとか、
逆切れとかそういうのを心行くまで堪能できた。

で、ほんとは22時までのバイトだったんだけど、途中休憩取れなかったから、
早めに切り上げさせてもらえて、20時半に店を出れたんだ。
腹減ったから一緒に飯を食うことにした。やったー!

サニーバーガーであれこれ買って、近くの公園に向かう。前に比呂と、ぶん殴りあって喧嘩したあの公園。
あの時は誰もいなかったけど、昨日は沢山の人がいた。ほとんどが、カップルだったけど。

ベンチに座って飯を食いながら、俺はため息をついた。
比呂がそんな俺を見て『なんかあった?』ときいてくれた。

『あのさー。』
『おう。』
『俺、今、片思いをしてるんだー。』
『・・・え?うそ・・まじで?』

ああ・・。まじだよ。しかも相手はお前。
俺は片思いの相手である比呂に恋の相談をすることにした。

『うん・・・。でも多分、思い実らずってとこだと思う。』
『・・・なんで?』
『だって・・その人、最初から俺のことなんか、恋愛対象に入れてくれてねえもん。』
『なにそれ。相手、大人の女の人とか?』
『・・ちがうけど。』
『ふーん・・。お前も大変だね。』

お互いジュースをずずっと吸う。んで、大きなため息ついてうなだれる。

『・・比呂は最近どうなの?不倫とかしてんの?』
『えー・!!いきなりそれ?』

そういうと比呂は、ほんとにつらそうな顔をした。

『どしたの?・・だんなさんにばれたとか?』
『んなわけねーじゃん・・。人妻は女優だよ。大丈夫。そっちのほうは。』
『じゃ・・まさか子供ができたとか?!』
『・・・できねーよ。だって俺、そういうのちゃんとしてるもん。』

・・・ああ・・。避妊方面のことか。

『えらい・・ね。』
『えらかねーよ。自分がそういうのでできた子供だから、人生から学んでるだけ。』
『・・・・は?』
『・・や、なんでもない。』
『・・・・・。』

ジュースを一口飲むと比呂は、俺の脚を蹴っ飛ばした。

『俺さー・・・、最近年上に嵌りそうでさー・・。』
『・・・は?』
『すげえ優しい人でさあ・・でも・・どうもなんか・・あれでさあ・・。』
『え?それって前に言ってたかお・・り?』

比呂は頷く。

『なにお前、まだその人とつきあってんの?』
『いや、つきあっちゃいないけど・・。でも・・。』
『で・・も?』
『・・俺・・なんか・・好きになった・・っぽい。』


『は?』


『俺らもともと逆ナン始まりなの。その人に俺が声かけられてー、会うようになったんだけど・・』
『・・・。』
『どこかいつも子ども扱いでさ・・・。とにかくすっげえいい人なんだけど・・なんか・・』
『・・・なんか・・なに?』
『俺にはもったいない人のような気がして・・・。』

・・・・やバイ・・・こりゃマジ恋愛だ。いやだ。

『もったいないって・・だって相手が声かけてきたんだろ?』
『うん。』
『じゃあ・・向こうだって・・お前のこと・・。』
『・・や・・だってさ・・』
『・・・・は?』
『・・・だってさー・・なんかさー・・・・・・。』
『・・・・?』
『前にその人が酔っ払ってさ、身の上話をしてたんだけど、弟さんを事故で亡くしてるんだって。何年か前に。』
『・・・・・。』
『もしかしたらさ、弟みたいに見えて俺に声かけてきたのかもしれないじゃん。』
『うん・・。』
『なのに俺・・ヤっちゃったんだよね・・・。』
『・・・・・。』
『それに俺のわがままとか、たいてい聞いてくれるし・・・。』
『わがまま?』
『うん・・。何食いたいとか、これは入れるなとか・・。』
ああ・・にんじんか・・。

比呂はそこまでいうと、はあっとため息ついて黙ってしまった。

俺は・・・俺は・・・心でかおりにごめんと言う。ごめん。きっとかおりさんは、比呂の事、本気で好きなんだ。
でも俺も比呂が好きだから・・だからごめん・・・。俺、あんたのフォローはしない。

俺は比呂に言った。
『年上はむずかしいよね。確かに比呂は、弟代わりなのかもしれない。』
『・・やっぱ?』
『うん・・。かおりって人は大人だし、お前を放っておけないのかもね。』
『・・だよなー・・だってさ。』
『?』
『俺、こないだ、バカやって入院したじゃん。』
『ああ。』
『その後さ、かおりさんに会ったんだけどさ、なんかさ・・先生のような親のような?
・・って、俺には親はいねえけど・・でもそんな感じの口調でさ、しかられたんだよね。俺。』
『・・・・。』
『いい加減にしなさい!・・・みたいなかんじでさ・・・。』
『・・・うん。』
『それ聞いたらさ・・・目がさめたっつかさ・・ああこれって・・姉弟愛?みたいな・・。』

いつも前向きな考え方の比呂なのに、なんで肝心なとこでそんな風に、ものをとらえちゃったんだ・・
でも俺にとっては・・ごめん・・・。ラッキーだ。

『どーすんの?お前・・好きになっちゃったんだろ?』
『・・ああ・・。うん・・・。でもいいや。』
『は?』
『慣れてるし。』
『なにが。』
『・・・俺・・今まで不倫ばっかしててさ・・・みんな最後には、だんなのとこに帰ってくじゃん。』
『・・・・。』
『その時になって、初めてその人のことを好きになるんだ。』
『・・・は?』
『・・やっぱいい人だったんだなあってさ・・・。』
『・・・・。』


終わった時が恋の始まりってこと?・・・何もかも終わった後に・・片思いを始めるってこと?


『俺、恋愛運ってないのかなあ・・・。』
そういって、比呂は遠くのベンチに座るカップルを見ていたけど
そのあと両手を顔で覆って、肩をがっくりと落とした。。

『・・・きっつい。』

大きなため息をつく比呂。俺は・・俺は・・・・
それならかおりと付き合いなよって・・・きっとお前の事が好きだよって・・

言えなかった。結局。俺は自分勝手な男だから。


別れ際、比呂が『明日かおりさんと、ちゃんと別れてくる。』って言った。
『だからその後一緒に川でも行こうよ。バイト夕方からだしさ。部活ねえし』
といって、俺に笑いかけてくれた。

俺・・返事もまともにできやしねえよ。

『お前はうまくいくといいな。大丈夫だよ。ユッキー、かわいいしさ、頭いいし、いいやつだし。』
そういって自転車にまたがると『んじゃね。またあした。』といって、暗闇に消えていってしまった。


・・そして今日、比呂と川にいって遊んだ。『ちゃんと別れた。』といわれた。
『お前に相談してよかったよ。さんきゅー。』といって、比呂は、屈託なく沢山笑った。

俺は、自分で比呂の恋を壊したくせに、自分の意思でそうしたくせに
悲しくて苦しい気分に浸っていた。俺にはそんな資格ないのに。


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