車まで走って、とりあえず比呂に電話。そしたら、また寝ぼけたような声してる。 家にずっといることなんかないから、どうしようか考えてて、そのまま寝ちゃったとかいうから、 早く帰ってあげたいなって、心の底から思ったよ。 買い物をして、家に着くと、玄関の鍵は開いていた。 あけたとたんにものすごくいいにおいがする。 靴を脱いであがったら、部屋にバラの花が飾ってあった。 |
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比呂は、また床に寝ていて、俺はそっと名前を呼んで揺り起こす。 王子様は、おきたけど寝ぼけ顔。 『バラ、どうしたの?』ってきいたら、『去年の今日のお礼。』って言って、笑った。 家から出るなといわれたから、クロールに電話して、届けてもらったんだって。 何本あるんだろうこれ。いろんな色。30本はある。 花瓶だけじゃ足りなくて、ウィルキンソンや、スコールの瓶にまで生けてあってかわいかった。 そうか、今日は5月14日か。思い出が日付と共に、さらに濃く心に刻まれる。 去年の俺。今よりもずっと幼稚で、思いつく限りの方法で比呂に想いを伝えようと必死だった。 そんな俺の思いつきの一つ。押し付けのほかの何物でもなかったのではないかと 時々思い返しては、心の中にモヤをつくっていたこと。 それを比呂は、今でも大切に覚えていてくれて、一年後の今日、お礼だといって 去年の俺がしたように・・・、『押し付けのほかの何物でもなかった』はずの やり方で、疲れて帰ってきた俺を、迎えてくれたんだ。 ・・もう俺、去年の俺がしたことを、何度思い返しても、心にモヤなんかできない。 こういうことをしてもらえたら、どれだけうれしくて心が震えるか、 ちゃんと教えてもらえたから。いとしくて大切で大好きな比呂に。 『ごはんつくるね。』というと、比呂、頑張って起き上がって、手伝ってくれた。 『ゆっくりしてていいよ。』って言おうと思ったけど、もうゆっくり飽きちゃったよねー。 きっと。 『学校どうだった?』野菜切りながら比呂が聞いてくれるから、俺は今日一日の話をした。 疲れて家に帰ったときに、自分の話を聞いてくれる人がいる。 相槌を打ってもらうだけで、こんなに心が楽になるんだもんね。 ひとりより・・やっぱ二人だなあ・・・。二人で暮らしたいなあ・・・比呂と。 具沢山の味噌汁と、しょうが焼きに、あとは子持ちししゃもの南蛮漬けを作った。 どうも比呂は、南蛮漬け、好きみたいだから。 今日は仕事をしなきゃいけないから、酒は飲めないんだ。俺。 でも、比呂には気持ちよく酔って貰いたいから、『少し飲んだら?』と勧めたら、 『すぐ眠くなっちゃってもったいないから、今日はやめる。』って言われた。 お茶を淹れて、ゆっくりと話しながら飯をくってたら、 比呂が『静岡のお茶はうまいなあ〜。』とか言うから吹いた! 『なにそれ!』って、爆笑してたら、比呂もつられ笑いしながら 『だって俺、むこうでほとんどお茶のまないから。』って言った。 朝は、バナナジュースかコーヒー。仕事中は炭酸水か麦茶かハト麦茶。 夜は酒。なるほど。静岡茶が食い込む隙はなかったか! 『健康にいいんだから。飲まなきゃ駄目だよ。比呂は静岡育ちだから、静岡のものが健康の素だよ。』 『うん。まあ、バリ勝男は最近よく食べるけど。』 『つまみ程度でしょー!お茶も積極的に!』 『わかった。帰りに買ってく。』 『うん。』 素直でいい子だね。お茶、もっと飲んで!俺は、比呂のゆのみに、茶を注ぐ。 そしたら比呂が、ちょっとまってーとかいう。『腹ん中がプールになる。』だって。なんだそれ! 今日一日の俺の動向は、ほとんど話しちゃったから、 今度は比呂に今日はなにしてた?ってきいてみた。 『ほとんど寝てて、DSやって・・・弁当食って、風呂洗って、また寝た。』 ・・・・・。 『・・・ごめんね、比呂・・俺・・。』 『?』 『外出禁止令、出さなきゃ良かったね・・。』 『なんで。ゆっくり休めたし、よかったよ。』 でも、外出禁止令出したせいで、友達に電話もしなかったんだろ。 誘われても、出れないし、出れないとなれば、理由いわないといけないから。 俺が無言で考えてたら、比呂がDSのスイッチ入れて、俺に見せてくれた。 金のバラがすげぇいっぱい咲いてる。 『なにこれ、すごいじゃん。』 『でも俺、金バラよりも、青いの咲かせたいんだよねー。青いの。』 最新のじゃないどうぶつの森、いまだにやりこんでるんだよね。 部屋とか住人の写真いっぱいなんだよ。 比呂のお気に入りはフォアグラ。 変な性格でかわいいんだって。 |
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