明日の授業で班作業をさせてみようかなーと、ちょっと思って、 少し難し目で、色んなルートをたどりながら答えを探せるような問題をつくりたいんだけど、 むずかしいなあ・・岸先生は、そういうのがめちゃ上手なんだけど、経験の差だけではないんだろうなー。 持って生まれたセンスは人それぞれだから、ないもの強請りしても意味ない。 俺はまだ、自分の何が個性で、どれが長所かわからないから、生徒達と一緒に、努力してみつけていかないと。 そもそも班作業させてみたいと思ったのは、俺のトコに、個人で勉強教わりに来る一年生が多いから。 中学まで、おそらくそいつらって、学校で10位以内にはいってたようなやつらばっかなのね。 友達に勉強おしえることはあったかもしれないけど、 自分がわからないことを、友達に教わるってことを、してこなかったんじゃないかなーって。 俺の時は、幸い工業高校で、一般的な教科に関してはみんなに教える立場だったけど、 工業関係の専門教科に関しては、比呂が一番だったし、製図・設計・美術系だったら坂口、 保健体育は西やんみたいに、分野ごとに一番が違ったから、教わる立場も経験できた。 高校に入ったら、みんな大体同じレベルのやつらが集まるわけだし、 自分だけが、えらいって言う世界では、もうないんだよね。 プライドを持つことは大事だけど、もっと柔軟にならないと、社会に出て役立たずになる。 大学にいったとしても、挫折してしまうかもしれない。 馴れ合えっていいたいんじゃないよ。 周りとかかわり合うことを、『あたりまえ』にしていかないと、きっとやつらは、この先つらい。 だから、誰かがすぐにわかっちゃうような、問題じゃあだめなのね。三人寄れば文殊の知恵っていうかさ。 それに、そういう作業って、けっこうさ、わくわくするじゃん。 ただ、今の俺にはとてもじゃないけど、優秀な問題を作れる技量がないんだよなー。 でも、早い段階で、生徒達には、心の中のハードルひとつ飛び越えさせたい。 一部の生徒は、友達同士で、わいわい問題といていたりする。 そういうのを横目に見ながら、何を考えているんだろう・・ わからないでもないその気持ち。放って置けるわけがない。 ぼんやりと、考えていたら、俺のわき腹を比呂がつつく。 マギってマンガの一巻読んでて、その中に、なんか、アラビアンな感じの子供みたいのが出てくるんだけど、 その子の表情がおもしろいらくて、時々俺に見せて笑ってる。 さやくんとかを、思い出すのかなあ。 比呂が、ほんとにあはあは笑うから、俺もツボってしばらく笑ってしまった。 自分で自分を追い詰めてたりしても、こうやって、ふっと救い上げてくれるのは自分以外の人。 これなんだよ。こういう存在を知ってほしいんだよ。そうなんだよ。 ・・っていうか、比呂笑いすぎ。 あんまりにも比呂が笑うから、ほっぺを引っ張ってじゃれてたら、 グイっと手を引かれて、そのままぎゅーっと抱きしめられた。 体がジンっとあたたかくなる。 『ちょっと外歩こうよー。』と誘われたから、俺はうなずいた。 一応近所の目とか考えてくれてるみたいで、人通りの少なくなるのを見計らって 誘ってくれたんだなー。きっと。 行き先は、24時までやってる本屋。なんだ、続きが読みたかったのか。 でも、二人で並んで歩けるのはうれしい。周りから見たら俺らはきっと、友達同士に見えるんだろうなあ。 男と女二人で歩いてたら、友達同士でも、恋人に見られるのに。 急に腹たったから、比呂の背中にチョップした。 『いてえ。』振り返る比呂。『やんのか?』といわれたから、 『やらない。』とこたえると、『じゃあ、勘弁してやらあ。』だって。 だから、また無言でチョップしたら、『やんのか?』といわれたから、『やらない。』といった。 本屋で俺は教育関係の棚の方に向かった。 比呂はマンガコーナーに直行。 比呂にとってははじめての本屋だから、場所探すの大変だろうなあ。 授業の参考になるような本あるかなあ・・と思ったけど、 結局どれもピンとこなくて、比呂を探しにいこうと移動しかけた時、 趣味の本のコーナーがあって、消しゴムハンコのつくりかたってのがあった。 消しゴムはんこ・・・ あ、そうだ。これで、幸村先生オリジナルハンコつくろー!! 提出物みたあとに、ぽんっとおすやつ。 あ、そうだ。班問題、ポイントカードつくったら楽しくね?!! 写真解説多くて一番わかりやすそうなやつを、一冊手にとって、レジにむかった。 そしたら比呂をみつけたんだけど、 マンガを5冊くらいもってて、さらに脳トレ系の問題集をパラ見してた。 支払い終えて、声かけたら、比呂、『なんだー、自分で買っちゃったのー?』という。 そんなんでがっかりしないでよー。俺だって、働いているんだからね!えっへん! 『ちょっとまって、すぐに買って来るから。』 比呂は、マンガのほかに脳トレ雑誌2冊手に持ってレジに向かった。 帰り道、どうしても俺に何かを買い与えたかったらしい比呂は、 遠回りだったけどコンビニにいって、ソフトクリーム買ってくれた。 『ねえ比呂ー。』 『んー?』 『マギ何巻まで買った?』 『6巻。』 『ふーん。』 『でも、またちょうど面白いトコで終わったら明日までの時間がつらいなー。』 『比呂が一晩で5冊も読めるわけないじゃん!』 『・・・・万が一ってこともあるぜ?』 好きな人と歩きながら食べるソフトうめえ。 『・・脳トレ自分用?』 『ああ、これ?これは、秋山さん用。』 『なに?!』 『最近流行ってるから。秋山さんの脳を鍛えるのが。』 『秋山さん、もともと頭いいじゃん。』 『うん。でも、頭いいけど、回転遅いって、昔からハルカさんにいわれてて、 沼田さんが、面白がって、脳トレやらせてんの。将来のためにって。』 『へー。』 『でー、秋山さんに問題出すためのほかに、自分でもちょっと脳鍛えておかないと、 ほら、矛先がこっちに向いたときに、対抗したいじゃん。だから。』 『あははは。』 仲いいね。三兄弟と呼ばれるだけある★ 新人君もうちとけてきたみたいだし、そしたら4兄弟みたくなるのかなあ。 男ばっかで、ほんと中学生のノリだからねー。 またゆっくり、遊びに行きたいよ。 ソフトクリームも食べ終わったし。俺は、本屋の袋に包まれた 消しゴムはんこ本で比呂の背中にチョップした。 『えい!!』 |
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『やんのか?!』『やらない。』 無駄ループやめろ←俺が。 |
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