夜の職員室。スマホの電源を入れる。 21時16分。 ・・・なんともいえない気分になる。 今日は俺の誕生日で、比呂のところに行く予定で、 寿司くいに連れて行ってくれるって、比呂が計画してくれてたから、 俺、ここ数日は、それを励みにがんばって来たんだけど、 職員会議のちょっと前に、生徒が喧嘩して一人が怪我して、 保護者を呼んで、ちょっともめて、 そのあと会議になったんだけど、問題ごとがあった後だから、 話し合いの時間も延びちゃって、さっきやっと会議が終わった。 会議の途中にちょっと抜けさせてもらって、比呂に電話したら、 『大変じゃん。大丈夫かよ。』って、俺を責めることなく心配してくれて、 挙句、『俺のことは気にしないでいいから。じゃあまたあとでー。』って言ってくれたんだ。 ・・・・・・今日の会議は、そんなに長引くようなものじゃなくって、 定例会議みたいなのだから、毎回1時間もかからないし、今回も絶対に早く終わるって思ってたから、 比呂と約束しちゃってたんだけど、ドタキャンみたくなっちゃった。 それでも比呂、『またあとで。』って言ってくれた。 生徒のせいでも、先生方のせいでもないけど、それでも胸の奥が痛い。 この後比呂に会えるだけで、それだけでうれしいはずなのに・・ 予定がちょっと狂っただけで、こんなに落ち込むとかバカ過ぎる俺。 ・・・・余計へこんだ。 ************************** 職員用の駐車場にいったら、野球部の連中が自転車で帰るところだった。 『幸村せんせー。』といって、近寄ってきたから、『おー。』といって、少し話をした。 部活は20時前に終わったらしいんだけど、そのあとレポートをやっていたらしい。 締め切りが、ちょうど俺の出した課題とかさなっちゃったから、大変になってるみたいだ。 『ごめんなー。』と俺が言うと、『先生わるくないっすよ。』とあわてる生徒たち。 『幸村先生、いつも他の先生の出す宿題の量考えながら、課題の締め切り調整してくれるし!』と 屈託なく笑ってくれた。でも今回は、かぶっちゃったし・・・ 駄目なときって、何やっても駄目だなあ・・・。 そいつらが、課題でわからなかった問題について、質問してきたから、 ちょっとヒントをだしてやったら、『クラスのやつらにラインでまわしてやろーぜ。』っていうから、 『そうしてやんな。もう遅いから早く帰れ。』って背中たたいてやった。 疲れたようなそぶりもみせず、俺にお辞儀をしながら笑顔で帰っていったやつらみてたら、 ちょっと泣きそうになったよ。本当に、がんばるなあってさ。 ・・・・俺にも高校時代があった。それは人生の転換期でもあった。 大事な親友を得たかけがえのない時間をすごしたし、そこでやっと、比呂と出会えた。 雨ちゃん先生、岸先生、じいちゃん先生、他にもたくさんの先生たちが、 俺らを支えてくれてたのを思い出す。 私生活が平穏でなくても、俺らの前では一定であろうとしてくれていた尊敬すべき人たち。 俺は車に乗って、ため息三回。 弱虫飛んでけ。もう俺は、そんな立場じゃない。 比呂に、今から学校出るってメールした。 車を発進させる。 |
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