空腹と愛情は最高の調味料

あー・・。

昨日はー・・比呂がご飯食べなくって憂鬱だった。
だからバイト先に、おにぎりと卵焼きもって迎えにいったんだけども。

奴は店裏の倉庫で寝ていて・・寝顔がかわいいから、起こすのもったいなくてさ。
ほら、最近気まずかったりして、まともに比呂の顔見れなかったから
長いまつげとか・・まっしろい歯とか・・前髪とか大好きな全部を、と見つめて、幸せになってた。

次の日(つまりは今日)学校だし、あんま遅くなるとあれだから、10分くらいしてから起こした。
そしたら比呂は起きたんだけど、俺を見たら、『・・なんだ・・。』とかいってまた寝ちゃったんだ。
夢かと思ったんだって。俺がいたから。ふふ。

今度こそちゃんと起こして、比呂はハルカさんに挨拶しに行って
そんで二人で帰ったんだけど、おにぎりについて言い出しづらく
いつもの別れ道にさしかかっちゃって、『じゃあ。』っていって、わかれようとしたとき
俺・・勇気を出して『あのっ・・。』って・・・。

『あの・・』ってなんだよ・・・。俺のあほ。
なんか片想いのときの心境を、激しく思い出してしまったーー。

あの頃もバイト一緒にやって、この道でいつも別れたんだけど・・
引き止める理由がなかったから、『じゃあ。』っていって、いつも別れてたんだよなー・・。

比呂が俺の声を聞いて振り返る。慌てて俺は比呂に言う。
『腹減らない?!もうちょっと時間あるから・・・公園とかいかね?』
体中の勇気を振り絞って、俺は比呂にそういった。
そしたら比呂が、きょとんとしたあと、笑って頷いてくれたんだ。

『コンビニ寄る?』っていわれたから『実は・・おにぎり作ってきたんだ。』と比呂に伝える。
『うそ!!なんで?!』って、本気で比呂が驚いてる。だから、俺は紙袋を差し出す。
急いでつくったから、卵焼きは焦げたし、おにぎりは歪だし具なんか入ってねえし・・・。
でもそれ見た比呂の腹が、ぐー・・ってなった。

『ごめん・・・・。』ほんと、ハズカシそうな顔してる比呂。かわいいなー。もー。

近くに海が見える公園があって、ベンチ側はいつもカップルでいっぱいだから
はずれの方まで自転車でいって、大きな岩に俺等は座った。
あったかいコーヒーを水筒にいれてきたんで、それを比呂に渡す。
一口飲んで『あち・・。』と言う比呂。でもすぐに俺に『あったまるー!』と笑った。
自信のなかったおにぎりも、焦げた卵焼きも、全部綺麗に食べてくれた比呂。
『ほんとに俺だけで食っていいの?』っていいながら、すっごい美味しそうに食べてくれた。

『俺さー・・昨日の昼、メシ食わなかったんだよ。後でお前と食おうと思ってたら、
修理時間かかっちゃってさー。先生にパン買ってもらったんだけど、なんか食う気にならなくてー。
一食抜くとさー、なんか変な感じに腹へってさ、もの食うタイミング、わかんなくなっちゃうんだー。』
『・・・比呂、ちょっと痩せたよ?』
『まじで?最近寝る前に腹筋やってるからかなー。』
『そうじゃないと思うよ。神経痩せじゃねえの?』
『は?俺が?なんでよ。』
『心当たりないの?』
『ない。』
『・・・・。』
『俺はいつでも幸せですよー。』


・・・・どうもありがとう。


ぴったり寄り添う俺の背中を、後ろからポンッと叩くと『ちょい、一服。』っていって、比呂が立ち上がり柵の方に行く。
柵の向こうには広がる海。星も月も綺麗だ。俺も隣にいこうとした。
そしたら比呂が煙草に火をつけながら『煙吸うとあれだから・・那央はそこに座ってな。』だって。

ちぇ。

比呂は柵にもたれながら、煙をふーって吐く。携帯灰皿出して灰を落とし、そしてまた吸う。そして吐く。

前にも俺、煙草はやめてっていったんだけど、絶対無理って言われたんだよな。
お父さんの形見の煙草を、吸いながら辛い時期を乗り越えてきたから
一生やめられないと思うって・・・。でも本数は減らすよって言ってくれた。
本数は減らしてくれてると思う。一緒にいるときは殆んど吸わないし
・・俺たちが一緒にいる時間は、確実に長くなってきてるからね。

比呂が煙草を左手に持ったまま、大きく伸びをする。

『腹もいっぱいになったしー・・よく寝たしー・・・遊びに行きたいねー、那央ちゃん。』
比呂はラグランの裾から、おなかをさすりつつ、そんなことを言う。

比呂のお腹。細いなあ。でも触るとすっごい硬いんだ。筋肉質ってかんじで。
あーあ・・。ほんとにこのままラブホにでもいって、比呂と抱き合いたいなあ。
俺が真っ赤になってると、比呂がふふってわらって、また柵にもたれかかってしまった。


比呂の後姿。

海側を見つめる顔は見えない。
どんな顔をしてるのかな・・。俺が見てないところで比呂は
どんな顔してるのかな・・・。すこしは・・すこしは・・
俺といることが彼の表情を穏やかにできてたら嬉しい。


煙草をもみ消して、灰皿に入れて、ケツポケットにしまった比呂が
俺に『きてみ。』っていう。
俺は比呂のとなりにたち、比呂が指差す柵の下のほうの、海岸をみたら
OLなのか女子大生なのか5人ぐらいで海を見てた。
楽しそうに、なんか話してるみたい。

俺はそれをみて、比呂の腕に自分の腕を回し、ぎゅっと抱きしめた。
いつも俺を抱きしめてくれる比呂の腕。
比呂はその人たちから目を離して、海の向こうに見える町なみを見つめる。


『椿平はさー・・海が見えないじゃんね。山に囲まれてるから。
でもさー、川が結構あちこちにあってさー。沢蟹とかとってよく遊んでさ。』
『さわがに?』
『うん。沢蟹。かわいいんだよ、ちいさくて。』
『へえ・・。』
『で、友達と沢蟹とりながらさー・・いつも、海行きたいねーていってたのね。』
『ふふ。』
『電車も少ないしさー・・中学の時って部活とか、親と一緒のとき以外
市外に出ちゃ駄目だったからー、子供らだけでいけなかったの。海。』
『うん。』
『俺は部活忙しかったし、連れてってくれる親もいないしー・・』
『・・・。』
『や、おじちゃんちはいたけど、予定があわないって言うか。』
『うん。』
『・・・・だけど今はこんなにいつでも見れるじゃんね。』
『うん。』
『富士山も、相変わらず毎日大きいし。』
『ははっ・・。』
『プールもでかいのがあるしさー・・光が丘ってー。』
『うん。』
『・・・色々なとこに行こうね。一緒に。』


・・・・うん。


泣きそうになったから、言葉に出さないで、俺はこくんと頷いた。
比呂は携帯を取り出して、時間を見て、そんでまたしまう。

『11時だねー。帰ろう。』
比呂はそういうと、俺にちゅっとしてくれた。
煙草の味。キュンとくる。

俺は比呂にぎゅっとしがみついた。

帰り道、比呂は椿平の川の話をずっとしてくれていた。
何で、その話をおもいだしたのかっていうと、
川で食べた友達のお母さんがつくったおにぎりが
すごくおいしかったからなんだって。

ふふっ。

比呂が、また坂口と麦と、なんかやってる。
休み時間10分しかねえのに、あっほだなー。ま、いっか〜。

2007/05/31(木) 09:28:3
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