Date 2006 ・ 10 ・ 08
枯れない花
バイトがあった。
俺が14時にバイトに行くと、比呂が店裏で仕入れた花を花器にうつしていた。
『よ!』といったら比呂は笑ってくれて、『今日は風が強いねー。』といった。
俺が近づいていくと、手に持っていた赤い花をひらひらさせて『髪、ぼさぼさだよ。』という。
『手伝うよ。』俺はそういい、仕入れた花をダンボールから取り出す。
比呂は、『・・ありがと。』といって俺から花を受け取り、器用に花器に差し込んでいった。
その時に店の方から、『枯れない花が欲しいんですけどねー』という声が聞こえてきた。
どうやら彼女に花をあげたいらしいんだけど、プロポーズのための花なので、
なるべく長持ちする花を選びたかったらしい。
恋愛だなー。ひゅー。『枯れない花』か。なるほど。かわいいこというな。
俺はそう思ってニヤニヤしながら、花の入ったダンボールを開けてたんだけど、
比呂があんまり静かだから、顔をあげて見たら、比呂が花を持ってぼんやりとしていた。
『どうしたの?』というと比呂は、俺をじっと見て、そんで視線を花に戻す。
『枯れるのがいやなら 最初から花なんて欲しがらなきゃいいんだ。』
まるで自分に言い聞かせてるような感じの言い方の比呂。
俺は、なんとなく『・・うん。』って頷いた。ちょっとだけなんか、意味もなく悲しかったけど。
ハロウィン関連の商品が意外と好評らしく、生花を店内に移した後、
こんどは雑貨とサボテンをアレンジして、ギフトセットを50セット作る作業に入った。
サボテンを扱う時の比呂は、軍手をして、袖をまくるんだけど、
その隙間から見える腕が好き。だから思わず手元に目が行く。
すると、通りかかったハルカさんが、『幸村、紺野ちゃんに教えてもらって。』といって通り過ぎた。
俺は『えーー?』とかテレながら、比呂のほうをちらっとみる。
比呂は立ち上がって裏の棚から、軍手とピンセットを出してきてくれた。
『トゲ、気をつけてね。』といって、比呂は自分の作業を続ける。
小さなサボテンを慎重に、雑貨の隙間に差し込む作業だ。
意外と神経使う仕事なので、お互いなんか無口になった。
比呂は時々、かったるそうに、目を閉じて肩を回したりしていた。
あんま・・・元気ないなあ・・。
ちょっとすると、店のほうから秋山さんが顔を出して、『紺野ー、休憩はいんな。』という。
比呂は、『はい。』と短くいうと、軍手を外して席を立った。
そして、俺を見ると『ひとりで大丈夫?』という。俺は無言で頷いた。
すると比呂は、左手で目をこすって『じゃ、休憩は入ります。』といい、二階に上がっていってしまった。
・・・どうしたんだろ・・。
俺は比呂が元気が無い理由をしらないから、漠然と・・・・ただただ不安。
ギフトセット作りも、何とか残り10セットになったので、
便所いくふりして、二階にあがってスタッフルームのドアを開けた。
比呂は、アイポッド爆音でエルレかけながら、眠っていた。
こんなにうるさい音で聴いてて、よく寝れるなって感心した。
寒そうに見えたから、比呂のロッカーを開けて、上着を肩にかけてやる。
そしたら比呂が目を開けた。俺は黙って比呂を見た。比呂も黙って俺を見た。
比呂はイヤホンを片方だけ外し、小さい声で俺に言った。
『ありがとう。』
俺が、顔をあかくしてると、比呂はまたイヤホンをはめなおし
目を閉じて、また眠ってしまった。実際眠ってるのかわからないけど。
どうしちゃったんだろうね、比呂。お前はまだ、何も俺に話をしてくれないけど。
涙が体中に溜まっているような感じに見えるよ。悲しみにあふれているように見えるよ。
俺は比呂の背中をさすりたかったけど、なんだかそれが出来なかった。
比呂に触れたら体が揺れて、その目から涙がこぼれてしまうような気がするから。
そして俺は、そういうときに・・・どうしていいのかわからないから。
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