2006/11/19 (Sun.) 20:20:51

『浅井?今暇?俺、今から飯なんだけど、ラーメン食いにいかない?』

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夕飯あと風呂に入って、21時をまわった頃に紺野ちゃんから電話が来た。
夕飯くったけどラーメンぐらい超余裕な育ち盛りなんで、
俺は二つ返事で、待ち合わせのラーメン屋にいった。

小雨まじりの寒い光が丘。商店街からちょっと外れたとこのラーメン屋。
前に一緒に来たときに、俺がうまいうまいと絶賛したのを、
紺野ちゃんはきっと覚えてて、ここにしてくれたんだと思う。

店先の提灯の下で、紺野ちゃんはぼんやりと座ってた。
『紺野ちゃーーーーん!』『浅井くーーーーん』
お決まりの言葉をかわして、俺等はヘラヘラとしながら、店の戸をガラガラと開けた。
店内はわりと混んでいて、カウンターしか座れない。
でも、端っこのほうだったから、店員さんに気を使う必要なさそうだ。

『チャーシューめん』『おれも。』俺がチャーシュー頼んだら、紺野ちゃんも同じものを頼んだ。
めずらしいな、いつも変わったようなラーメンばっか食ってるのに。
店員さんから出された水を、ぐいっと飲んだら美味くって、
『おいしいよね、ここの水』といいながら紺野ちゃんを見たら、
俺に微笑み返す彼の表情がなんか暗い。なんかあったのかな?

ラーメンが来た。『うまそ。』紺野ちゃんの一言。
俺は割り箸をパシンと割ると、『なんかあった?』と、それとなくふった。
紺野ちゃんは、ちょっと間を置いてから、『なんもない』って一言いって
チャーシューを口にほおりこんだ。

俺は、ふふっと笑いかけたあと、どんぶりに視線を戻して、チャーシューを一枚箸ではさむ。
そしたら紺野ちゃんが、ぼーっとしながら話し始めた。

『浅井ぃ・・・。』俺はもぐもぐ口を動かしながら、体を紺野ちゃんの方に向けた。

『俺・・・・ウザくない?』
『は?』
あまりに意外な言葉だったから、チャーシューにむせて、死ぬ寸前だった。

『なんで?!なにが?』
『・・・俺、性格悪いじゃん。』
『は?どこが?どのあたりが?』
『駄目じゃん。俺って。全体的に。』
・・一瞬これはギャグかと思ったが、彼の顔を見たらマジ病みのもよう。俺は背中を擦る。

『なんかあったのー?』
『・・・。』
『・・・。』
『俺・・・・・』
紺野ちゃんは沈黙が苦手だから、こっちが黙ると話し出してくれる。
俺は黙って話を聞く。紺野ちゃんの横顔、まつげ長えなとか思いながら。

『俺、高校入ってから、ヤケに人から相談もちかけられてさ。』
『ああ・・、幸村とか?』
『うん。まあそうだね。ピンク・・うん。そうなんだけど。』
『うん。』
『あいつって、あれなんだよ。自分に自信が持てないみたくて』
『・・・。』
『俺はさ、そういう感覚がよくわかんなくてさ、・・4月からだから、半年以上そんな感じのことを、
相談持ちかけられては、強気なことを答えてたわけ。』
『うん。』

紺野ちゃんが俺のラーメン指差して『食って。のびちゃうし。』という。俺は、へへっと笑って麺を啜る。
紺野ちゃんも、チャーシューや、麺をほおばって、ごくんと飲み込むと、また話をしだす。

『でさ、俺、今日さあ・・バイトの休憩の時に、過去を振り返りつつ色々考えたわけ。』
『・・うん。』
『で、今まで俺がぴんくに言ってきた事を考えてさ、ふと思ったことがあって・・・。』
『なにを?』
『俺は・・自分に自信を持てるような人間なのかと。』
『・・・紺野ちゃーん・・。』

今まできっと、心の中で、あれこれ悩んでいたんだろう。紺野ちゃんは、一気に・・でも静かに話を続けた。

『大体俺は、ピンクに対して、あれこれいえるような人間か?・・って思ったら・・・
俺が一方的に友達だって思ってる奴らとかもさ、俺が絡んでくから仕方なく相手してくれてんのかな・・って・・・。』
『・・・俺はそんな風に思ってないよ。』
『・・じゃあ・浅井以外の人たち・・、浅井以外は、浅井本人じゃねえから、本心なんかわかんないじゃん』
『・・・。』

『つまりそういうさあ・・俺の陥った考え方ってのが、幸村の悩みの全てなんだ。
あいつの悩みってほとんどが疑心暗鬼からきててさ・・俺は、そういう幸村に、
それはもう偉そうにさ・・色々アドバイスめいたことしてたわけ。』
『・・・。』
『でもさ、確かにそれは、俺が一生懸命考えていった言葉だったんだけどさ・・
でもー・・、俺が言った言葉で、あいつを救えたとは到底思えないの。』
『・・・。』
『だからあいつ、いっつまでもさー、同じことでグダグダ悩むのかなーーって気がついて。』
『・・・。』
『つか、俺わりと、厳しい言い方とかもしてたわけ。』
『うん。』
『自分のそういうとこ、なおしたいんだけど。』
『・・・。』
『でも、厳しいこと言われるってわかってんのに、相談してくる幸村が謎で。』
『・・・。』

『そんな風に考えちゃったらさ・・・俺・・・・・今度は・・幸村が・・俺に気を使って、・・
俺に話しても解決しないってわかってるくせに相談してきてくれてんのかなっておもって・・。』
『・・・。』
『実はみんな、本当は俺のことなんか好きじゃないのに、優しさのあまり放っておけなくて、
そばにいてくれるのかなと思いだして・・・』
『・・・。』
『・・でも、今、浅井に話してたら、そんなの俺の思い過ごしだっておもった
だからー・・・なんでもねえや。あはは。』

・・あれま・・。紺野ちゃんなんだか自己完結した。

紺野ちゃんは笑った。んで、一気に喋って恥ずかしくなったのか、
そっぽを向いて、両手で顔をおおって、くすくす笑う。なんだよー。

『悩んじゃってたんだ。君は。』
『そう・・。なんか今日って雨じゃん?』
『うん。』
『で、バイト先のさ、休憩室の蛍光灯が、微妙にちらちらしててさ、で、帰ったら家に誰もいないわけ。』
『うん。』
『いつもじゃ平気なんだけど、今日はこんなだからさ・・、・・・誰もいないって思うとなんか・・あれでー。』
『ふふ。』

そして紺野ちゃんは、ニカって笑うと『ひとりで飯食うのさみしいから、いけにえを浅井にきめたわけ。』
あはは。いけにえ!白羽の矢がたっちゃったのかい!

そのあと俺等は、特に何を話すわけでもなく、ただ、ふふっと笑いながらラーメンを食った。
『相談に乗ってもらったから。』といって、ラーメンは紺野ちゃんがおごってくれた。

『ただ話を聞いただけなのに。』俺が言うと紺野ちゃんが
『だって俺、こういう話、できる相手、あんまいないから。』といって、財布をしまって、また笑った。

家に着いてすぐに、紺野ちゃんにメールした。そしたらすぐにレスが来て、文面見る限り元気そうだ。
俺はいっぱいになった腹を擦りながら、ベッドに寝転んだ。紺野ちゃんが言ってた話を思い出す。

俺は転校してばっかで、深く付き合った友達は、残念ながらあまりいない。
だからもしかしたら、俺のこと、とっくに忘れてる奴もいて
今、同じ学校のやつらだって、ほんとは俺を嫌ってるかもしれない。
確かに俺も自信がない。これといって自慢できるような性格でもないし。

ただそれでも、紺野ちゃんの友情だけは、しっかり信じることが出来る。
信じることができるんだよ。
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