2006/11/25 (Sat.) 23:51:40
比呂に電話で誘われて、今夜は紺野家におとまり。
体調悪そうだったんだけど、風邪薬飲んだら元気になった。
『外に遊びに行こうよ』と言われたけど
『風邪は引き始めが肝心だよ。今日は家にいよう。』と言い聞かせて、
比呂のために買ってきたファンタを、コップに注ぎ、比呂に渡した。
比呂は、黙ってそれを飲んだ。すると少しだけ肩をすくめる。
炭酸がノドにしみたらしい。配慮のできない自分にひいた。
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『ねえ・・。』
俺は横になった比呂に話しかける。
比呂は少し眠くなったのか、返事はしないで、体を俺のほうに向けた。
眠そうな顔だなあ・・。ふふ。目が両方、とろんとしてる。
『ねえ、今日の女、あのあとどうしたの?』
俺は聞いた。もちろん最初は嫉妬の嵐で、その話題に触れたくなかったけど
今目の前で、眠いのガマンして、俺の話を聞こうとしてる比呂を見たら
なんか普通に・・比呂の今日の出来事をしりたいなっていう・・
そんな幸せな理由で、女の話を聞くことが出来た。
『ああ・・。あのあとね・・けほっ・・。んと・・飯食いにいって、で、話してたら
俺またなんか、いけないことをいってしまって。』
『いけないこと?』
『うん。・・でー・・それで、あの子が飲んでたちゃーかけられて、
そんで終わり。あとはなんもナシ。』
・・ちゃー・・をかけられた?
『いけないことってなに?』
『・・・・。』
『いいたくなきゃいいよ。』
『いやべつに。ただ、セックスに愛はイラねーっていっただけで。』
どきりとした。比呂の口から『セックス』なんていう直接的な言葉でたの・・
初めてだとおもうんだけど・・・え?
比呂は、こらえきれないようで、目を閉じた。睫が長い。
俺はさっきの比呂の一言と、それをいったときの比呂のかすれ声が、頭から何からに反響しちゃって大変だ。
すると比呂のからだが、ガクっとなって、そんでぱっと目を開けた。
『・・俺、今寝てた?』
『寝てた・・って、たった何秒とかの話だよ?』
『うそ・・。夢見た俺。』
『なんの?』
『階段踏み外した夢。』
・・ふふ。よくあるよね、そういうの。
俺が微笑んだら、比呂はそんな俺の顔を見て話をはじめる。
『幸村はさ・・・、綺麗だよね。』
『え?』
ドキッとする俺。比呂が俺の方に手を伸ばす。
そして、俺の髪を少し梳くと、指先でもてあそびながら、ぼんやりはなす。
『髪の毛の色がさあ・・綺麗だなーっていつも思う。
俺、ピンクって好きじゃなかったんだ。桜が大嫌いだったから』
『さくら?』
意外な言葉。俺、桜嫌いな人、はじめてみた。
『桜は咲いてきれいだけど、散るだろ。あっさり散るじゃん。』
『うん。』
『そういうのが、好きじゃないっていうか、苦手なんだ。』
『ああ・・ゴミになるから?』
比呂は俺のほうを見て、ふふっと笑うと、
『まあ、とにかく・・桜苦手でピンク苦手なんだけど・・』と話を続けた。
『でもさ、入学式の時、幸村にドアのとこで初めて会ったじゃん。』
『・・・。』
覚えててくれたんだ。照れくさくて、とっさに目をそらす。
すると比呂は、少しだけ間をあけたあと
かすれて消えそうな声で、俺に向かってこういった。
『あの時、すげえ綺麗だなって思ったんだ。お前を。』
比呂の指先が、パタンと俺の枕におちて、俺は比呂に視線を戻す。
比呂は、目を閉じていて、すうすうと寝息を立て始めていた。
ふふっ・・・。寝ちゃったよ。かわいいな・・・。髪を撫でてももう起きない。
いつも低体温の比呂・・・今日は頬が少し温かかった。
微熱が出ているのかもしれない。
・・・愛はイラねー・・か。
いつもは『キス』と言う単語を言うのにも照れてしまう比呂は
『キス』を『ちゅう』といい
『セックス』にいたっては『エッチ』とすらもいえなかったりする。
それが今日は、あんなはっきりと言い切ったもんな。
なんかあったかな・・・。
俺は、ぼんやりとしながら、比呂の髪を撫で続ける。
たとえば。
たとえばこうやって、比呂のそばにいる人間が、俺でなければいけないってことはない。
セックスに愛はイラねーなんて、言ってるような比呂だから、特別な彼女もいないんだろう。
だからこそ、テキトーな女とやたらに寝たりするんだろうけど。
もしかしたら、他のやつにも『玄関の鍵かけて』『くすり買って来て』と
言おうとしてたのかもしれない。多分きっとそうなんだろうけど。
たまたまみんなが留守だったから、俺にチャンスがまわってきたのかもしれない。
だけど・・だけど現に俺は今、眠る比呂の真横で
寝顔を見て、髪を撫で、しようと思えばなんだって・・・出来る距離で比呂をみつめている。
うぬぼれだって言われたって、むしろ開き直れるくらいの勢いで、俺はいうよ。
今日だけは、やっぱり、こいつのそばにいる人間は、俺じゃなきゃ駄目だったんだって。
布団から出ている比呂の肩が、寒そうだったから布団をかけなおしてやって、
俺の髪を撫でていた右手を、そっと持ち上げて、布団にいれてやった。
布団に入れる直前に、少しだけ頬ずりして、チュッとしてしまったけど、比呂は全然おきなかった。
普通王子様は、お姫様のちゅうで、目を覚まさないといけないんだぞ?
比呂は時々寝息にまぎれてコホンと軽く咳をした。
でも一晩寝れば治りそうだ。俺は比呂の頬をまた撫でた。
そしたらなんか、俺も眠くなって、うとうとしだした意識の一部で
ああ鍵ちゃんと閉めたかな・・なんて思いつつ比呂の右手を握り締めるのだ。