足りない部分が俺で埋れば。 比呂の見舞いにいった。 いったら比呂は、停学中の課題を、ぼんやりしながらやっていた。 『よお。』っと部屋にはいっていったら『よ。』といって、比呂がにっこりした。 『笑っても平気?痛くない?』 『ああ、大丈夫。でもちょっと痛い。』 『ごめんね?俺のために。』 俺が謝ると、比呂が、はあ?って顔をする。 『もう何度目だよ、それいうの。別にお前のためってわけじゃねえよ。』 比呂が課題の上につっぷす。昨日巻いてた首の包帯が取れてて 赤黒いアザがくっきり見えた。 『那央ちゃん・・・』 『・・・なに?』 『課題が終わらないよ・・・。』 『・・・えー?』 俺がおどけて反応したら、比呂がへへって笑って話し始めた。 『反省文を10枚もかかないといけないんだけど』 『うん。』 『これといって反省をしていないから、一枚で終わる。』 『あはは。』 『だって俺悪くねえもん!!でも、色々壊したのは悪かったよなー・・。』 比呂が書いたという反省文をみたら、本当に原稿用紙一枚分しかなくて ・壊してすみません。 ・学校の中で喧嘩してすみませんでした。 という内容の事を、難しい言葉を使ってみたり、比喩を交えてみたりしながら 必死に必死に引き伸ばした、努力の結晶だった。うはは。 『あと9枚、頑張って。』 そういって、俺は人目がないのをいい事に、比呂にちゅ・・とした。比呂が、ふふっと笑う。 腫れが少しひいた比呂。傷だらけでもかっこよく見えるのは、恋愛フィルターのせいなんだろうか。 『那央。』真剣な声で呼ばれて、俺はドキっとする。 『なに?』 『・・・昨日・・。』 『・・・・。』 『隈井に何を言おうとしてた?』 『・・・え・・。』 『俺と喧嘩してる隈井に・・なんか言おうとしてたよな。』 『・・・・・。』 『言いたくなければ、別にいいんだけど。』 『俺っ・・・・。』 頭がしびれる。なんだろう・・・。昨日、隈井に言おうとしてた事・・・。それは・・・ 『・・見損なうなって・・・。』 『・・・・。』 『人の言いなりになって・・いじめなんかしてたお前に俺は負けないって・・。』 『・・・・。』 『お前なんか・・怖くねえって・・・・。』 ・・・あの時・・俺はなぜかすごく自信に満ちていた。 きっとそれは・・目の前で比呂が、隈井に対して本気でキれてくれてたからだと思う・・ 喧嘩なんかして欲しくない。して欲しくないけど、でも、 俺のために喧嘩してくれる比呂の存在がうれしかった。 比呂が俺のかわりになって、過去を清算してくれているようにも思えたし・・・ 血を流しても、喧嘩をやめない比呂の想いが・・・すごく嬉しかったんだ。 ・・・ゆっくりと時間をかけて、俺は比呂にそんな話をした。 『ごめんな。お前痛い目にあったのに・・自分の事しか考えてなくて。』 と俺がわびると、比呂が、はは〜っと笑ってベッドに寝転んだ。 『精算できた?過去を。』 『・・まだ・・何度も引っ張り出しちゃうと思うけど。』 『・・・引っ張り出す度に・・昨日の俺を思い出してよ。』 『・・・・・え? 』 『・・・・お前にとっての今は俺だかんね。過去は過去だから。』 『・・・・比呂。』 『や、そんな軽々しく言うつもりはないんだけど・・でも、やっぱ、俺も悲しいというかさ。』 『・・・・』 ・・俺がいじめられてたことが悲しいとか言うと思ったら違ってた。 『思い出にまだ敵わねーのかなーって。まだまだ駄目だな、俺!みてえな。』 『・・・ふふ。』 『俺、こう見えてわりと、繊細なんだよ。わかるだろ?どことなくそんな感じ。』 『わかんね。』 『わかれーー!!!!』 なーんでわかんねーの?!繊細さがにじみ出てるだろ?とか小声でぼやく比呂。 ああ、好きだなあって、本気で思った。 気持ちがどこかで、開放されて・・ふわっと飛んだ・・・・そんな気がした。 俺に自分の繊細さをアピールしているうちに 話がだんだんそれていって、ハルカさんのピラティスネタに 移ったあたりから、笑いが止まらない。 心の奥のほうで・・・小さい頃の比呂が・・・腹をすかせて薬をくってる・・ そんな様子が、ふっと浮かんで消えた。 今の幸せが、暗い過去を打ち消すことができるなら 俺、なんでもする。ほんと、なんでもする。 爆笑する俺を見て、比呂がつられて笑ってる。 うん。 これからもずっと、仲良くしようね。 2007/05/09(水) 23:28:44 |
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