ジョッキいっぱいのファンタ 比呂の誕生日。 俺は午後に待ち合わせして、ラブホにいったあと、飯を食いにいった。 何が食いたいか聞いたら、比呂が「やきそば」とかいうから 駅近くのビルにあるお好み焼きやにいって、お好み焼きと、焼きそばを食った。 比呂と出会った当初、俺、お好み焼きとか焼きソバを作るのが絶望的に下手でさあ・・・ 失敗するのが怖くって、いつも比呂に作ってもらってたんだ。 そんな自分の意気地のなさに、鬱の連鎖が起こっては、随分比呂に救ってもらった。 まじで、今ある幸せは、比呂のおかげで手に入れたもののように思える。 上手に作れた焼きソバを比呂が、うまそうに食ってくれた。 ラブホ代も飯代も、俺に払わせてくれた比呂。 俺のプライドを守ってくれて、どうもありがとう。 腹がいっぱいになった俺等は、麦たちに駅前で合流。 麦と小沢と4人でカラオケやにいくと、あいつら受付通り過ぎて部屋の方にいっちゃうんだ。 『ちょ・・受付・・・。』 『いいのいいの。先に他のやつらが行ってるから。』 『?』 2人のあとについていったら、パーティールームに到着した。 ドア開けたら一斉にクラッカーが鳴って。 『おめでとうーー!こにょひろーー!』って、大合唱。びっくりした。 見回したら、坂口に、小島に塩ちゃんに、ヒノエ・・・時田・・ 斉藤、橋本、楠本・・・あ・・・・ 隈井・・・・。 比呂が隈井にむかって、文句を言う。 『なーんだお前!俺は一生許さないからな!』 その、文句の一部が、声裏返って、周りのみんなが爆笑する。 『許さないからな!』『ゆるさないからなあっ!!!』 塩ちゃんとかヒノエが、真似して受ける。 ・・・・ふふ。なんだろ。なんか、すげえ笑える。 なんか、借り物みたいな隈井のことが、おかしくてたまらなかった。 嫌味でいってんじゃねえよ?本気でそう思ったんだ。 時田と隈井と俺と斉藤は、同中出身。 斉藤は馬鹿だからイジメについて、当時全然気づいてなかったみたいだけどね。 『比呂とユッキーに謝りたいって、クマが電話してきたからさ、つれてきたの。いきなりでわるいけど。』 時田がそういって、隈井の肩をぽんっとたたく。 そしたらヒノエが 『いいよいいよ!クマの気持ちはよくわかった、もう謝らないでいいよ。』 とかいいだす。 は? 『ああ、俺なんか、さっきの話聞いて、涙が数滴こぼれたもんな。』 ・・・塩ちゃん・・。 『大体先に手を出したのって比呂だろ?この場を借りて謝れ。な。』 麦が、比呂の背中を叩く。 比呂は釈然としない顔、でもなんか・・その場の空気に耐え切れずに ぼそっとつぶやいた。 『隈井くん・・ごめん。』 『君』付けしてるし!!俺らがくる前に、なんか隈井の、話をみんなで聞いたんだって。 俺はよく知らないけど、隈井も色々あったみたい。 それを聞いてすっかり同情した坂口たちが最終的に 『隈井、自分を責めるな、アレもこれも全て、紺野がわるいんだから!』 とか言い出したらしく・・で、まあそんな展開になったわけなんだけどさ。 正直、いい気分はしなかったよ。 坂口らは隈井にいじめられてないからそういうことがいえるんだ。 でもなんかさ・・・なんか・・あれなんだよ・・。 この場では・・やっぱ・・こういうな態度とるしかなかったんだろうなって。みんなが。 比呂が責められるんならシャレになる。いつものふざけの延長みたいな。 だけど、『隈井が悪い』といってしまったら、少なくともこの場では、 洒落ですまないだろうし・・隈井自身を深く傷つけてしまうから。きっと。 『謝りたい』と相談された時田も相当悩んだと思う。 比呂の誕生日を祝う為に、ここに集まってきたのに、 大喧嘩の相手が突然はいってきて、坂口たちも戸惑ったと思うし それでも比呂を誘って呼んだ麦は、思うとこがあって、そうしたんだろう。 ・・・比呂に謝られた隈井は、ちょっとだけ顔色が悪かった。 そのあと、みんなで歌いまくった。ケロロ軍曹のテーマとか、 そんなのばっか歌いまくった。あほ。 いつの間にか麦がいないなって思ってたら、更に坂口も消えて 『?』と思いながら、歌っていたら、 皿いっぱいのから揚げと、全員分のジョッキファンタが運ばれてきた。 わあ・・・・。 『それではここでー、紺野比呂君の17回目の誕生日を祝して乾杯をとりおこないたいと思いまます』 『噛んだ。』 『噛んだな。』 『と言うわけでかんぱーい。』 『かんぱーい!!!』 ・・・いっせいにみんなでジョッキいっぱいのファンタを飲む。 一気飲みした比呂のあいたジョッキに、みんなで少しずつ自分の飲みのこしのファンタをいれてあげてる。 『俺は飲み残し処理場かっ!!』って比呂は怒ってたけど、隈井が同じように、比呂のジョッキに、 自分のファンタをいれようとしたら、『あ、ありがとう。』って、なんかお礼言ってた。 俺はそれを見たとき別に、嫌な気分はしなかった。 そして、隈井がちょっとわらって、顔色がすっとよくなった。 2時間でお開きになって、そのあと比呂と2人で帰った。 俺が自転車に乗せて送るっていったのに、結局比呂が自転車をこいだ。 『・・・ねえ比呂・・。』 『・・・んー?・・』 『隈井の事・・許したの?』 『・・・・・。』 『・・・・・。』 『・・なんでそんなこと聞く。』 『・・なんとなく・・。』 比呂の腰にまわした俺の腕を、ポンッと叩くと比呂が言う。 『許さない。許せるわけねーだろ。ドンだけ那央を苦しめたんだって文句言ってはっ倒したいよ。今でも。』 『・・・・。』 『でも・・それは・・中学の頃の隈井のことはね。』 『・・・・。』 『今は別に、どーでもいい。っていうか、謝ってくれたのは大きいだろ。』 『・・・。』 『あいつは自分が駄目だったことを認めた。中学のときのお前に非がなかったって証拠じゃん。それ。』 『・・・・。』 『那央。』 『え?』 自転車がキュっととまる。比呂は俺の方を振り返らない。 『沢山のヤツがお前をいじめてくるしめたかもしれない。』 『・・・。』 『でも、今まで曖昧だった原因が、なんとなくだけどわかったじゃん。』 『・・・うん。』 『その頃の事を後悔して苦しんでるやつは、きっとまだいる。』 『・・・・。』 『単純なことじゃないし、簡単に許せることじゃない。時間が経っても お前がされた事は、酷くて最低なことのまま変わらないし 時間が経てば笑い話になるとか・・そういう類のものでもない。』 『・・・。』 『でも、そんな思い出引きずってたら、一番救われないのはお前じゃん?』 『・・・・』 『つらくて苦しいのはお前じゃん。』 『・・・・・。』 『忘れるのは無理だろうけど、思い出してまで苦しまないようにしていけたらいいな。』 『・・・・・・うん。』 自転車は、また走り出す。比呂の背中にうずめた俺の頬。 ぬくもりは伝わった。この幸せだけを俺は見ていけばいい。 『まー・・でも那央をいじめてた頃の隈井のことは、死んでもゆるさねえけどな〜。』 自転車は坂道をゆっくりと下る。 ・・・・俺は比呂にぎゅっと抱きついた。 俺は今日一日、比呂をめいっぱい祝ったけど 一番幸せものだったのは、結局俺だったのかもしれないね。 2007/05/14(月) 00:00:30 |
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