2008/7/16(Wed)17:13:08 職員室前で空を見てたら、紺野がふらふらと歩いてきて 『どうしたー?』って聞いたら、『なんでもない。』って言って笑う。 だけど通り過ぎることはなく、俺の横で立ち止まると、 窓枠にひじをついて、ぼんやりと空を眺め始めた。 『雨降りそうだな。』俺が言うと、『もうすぐ降るよ。』と、紺野が言う。 『なんでわかるの?』聞き返したら、『冷たい風が吹き始めたから。』と紺野はいった。 『・・・佐伯が元気なかったけど・・・。』 『あー・・うん。俺、心配かけるようなことした。』 昇降口の方で誰かが、『かさもってねーよー!』と大声で騒いでいる。 『心配かけた?』 『うん・・。昼休みに夢見ちゃって・・。』 『・・・・・・・。』 『・・・前に・・付き合ってた人のことを夢で見た。超リアルで動揺しちゃって・・』 『うん。』 『俺、全然意識してなかったのに、そういう夢をみちゃったんだけど、それって浮気になんの?』 『は?なんで?』 『や、なんとなく・・。』 冷たい風。雲がどんどん厚くなってあたりは暗くなる。紺野は何かを考えている。 俺は黙って空をじっと眺める。 『・・先生・・・。』 『ん?』 『前に好きだった人のことを今も嫌いじゃないって・・それって浮気になっちゃうのかな・・。』 『・・さあなー・・。俺、付き合った子と別れたことないし・・わかんねーなー。』 『・・・・ふーん。』 『・・・・・・。』 曇り空を眺める俺の視界を、数羽の鳥が横切っていく。 夢に見てしまった過去の人は、きっと中学時代の彼女のことなんだろう。 年上のその彼女が好きでたまらなかった紺野だから・・ 忘れられるはずなんかない。 というか・・ 好きになった人を嫌いになるって感覚は俺にもわからない。 何かがあって別れたとしても、ずっと好きでいる気持ちは男の特性なんだろうか。 大事にしたい。守りたい。本気で好きになった人に対しては 関係がたとえ切れてしまっても、気持ちが枯れることはきっとない。 紺野は、とても純粋に誰かを好きになれるやつで、 だけど自分が生まれるきっかけになった行為が複雑な背景をもったものだから、 どこかで自分自身の恋心に、疑いを抱いている面がある。 生きていくには難しい環境で、思春期の紺野が必死に答えをみつけようと 歩み進んでいる姿を俺は、ただ応援することしか出来ない。 紺野はしばらく俺と一緒にいて、そのうち自分の中で何か答えを打ち出したようで 『・・ありがと、先生。俺、いくわ。』そういって、俺に頭を下げたあと廊下を走っていった。 『気をつけて帰れよー。』俺が言うと、『はーい。』っていって振り返る。 『さよーならー。』と手を振って、紺野は廊下の角を曲がっていった。 ぽつんと俺は廊下に取り残される。外は暗い。窓の外を見た。 真っ黒な雲。まだ雨は降らない。 俺はそんな空をぼんやりと眺めながら、彼女に会いたいなあ・・とおもった。 |
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