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2008/10/7 (Tue.) 17:09:00 10/3。静岡から荷物が届く。比呂からだった。宅急便用紙の内容物記入欄のところに 『われものちゅうい』『10/4になってからあけること』って、かいてあった。比呂の字。 俺は、そのデカい段ボールを机の上に乗せて、とりあえず飯くって風呂に入った。 10/4日付が変わったから荷物をあける。 子供の頃の宝物ボックスみたいに、いろいろなものが出てくる。ビビッド系ピンクボーダーの長袖と葡萄みたいな色のTシャツに ポケモンカードに浦安単行本に・・サッカーボールにCD。ショッカーマニアっていうよくわかんないおもちゃに ペヤングに・・たごのつきのお菓子に比呂が書いたらしき俺の似顔絵とか・・・ あと、手紙が入ってた。 北欧系の封筒を開けると、中の便箋にはびっしりと文字が書いてあって、それを読んで、俺なりに解釈して、比呂に電話した。 電話にでた比呂は小さな声で『おめでとー・・。たんじょうび。』という。 俺はなんだかココアでも飲んだときみたいに心があったかくなって、へへっとわらった。 『ありがとー。』 比呂の手紙の内容・・。ひろが好きだった亜子先生に偶然再会してしまったらしく、 自分を追い詰めて苦しんでいる比呂が痛々しかったし、悲しかった。 俺は入学してから、亜子先生の話を時々聞いた。 『先生に会いたい』って言いながら比呂が泣いたこともあった。 ユッキーと比呂が付き合うことになったとき、俺は真っ先に比呂に聞いた。 『亜子先生はどうすんの? 』って。『諦められるのか?』って。そんとき比呂はしばらく黙り込んだあと 俺に言ったよ。『放っておけない。好きになっちゃったんだ。』 亜子先生を忘れることなんか比呂には絶対できやしない。 そういう気持ちを抱えながらする恋愛に俺は最初賛成できなかった。 ユッキーの事を嫌いなわけじゃない。 俺は比呂がどれだけ亜子先生を好きだったのかしってたからさ・・・。 『・・・先生・・元気そうだった?』 『・・・わかんね。俺・・パニってたし。』 『でも、よかったな。顔みれてさ。』 『・・・・・。』 『やりなおすの?』 『・・・・・。』 『あんだけ大好きだった亜子先生だろー。』 『・・・・』 『だんなからうばっちゃえばいいじゃん。』 『・・・・・・。』 『・・・・ユッキーを切れないんかー?』 『・・・・・・。』 心の中で幸村にごめん。今は比呂のことだけを考えさせて。 『比呂ー・・。』 『・・・・なに?』 『今でも好きなんだろ?先生の言動考えたら 亜子先生は今もお前を好きだよ。』 『・・・・・。』 『なあ。悩むことないじゃん。これでまた亜子先生がどっかいっちゃったら、お前今度こそ二度と会えないよ』 『・・・・。』 『比呂のいいとこは優しいトコだけど、お前その優しさのせいで自分を苦しめてばっかいるだろ。 ちゃんと自分のことを考えなよ。』 『・・・・・。』 比呂の返事がない。きっとすごく比呂は考えているんだろう。 胸がジン・・とする。比呂のことを考えると、たまに俺は泣きたくなったりするんだ。 『比呂〜・・。 』 『・・・・。』 『ちゃんと幸せになろーぜー。』 『・・・・。』 空を見たらちょっと前まで曇ってた空がキレイに晴れていた。星が見える。あーあ・・。 流れ星にのって静岡まで飛びたいよ。超不安。比呂がどーにかなりそうな気がして怖い。 だんだん泣きたい気分になってきて、俺も黙ってたら、 電話の向こうで短く咳をした比呂がゆっくりと話し始めた。 『・・ありがとう・・・。俺・・誰にも相談できねえの。 岸先生にもいえねえの。未練があるとかそういうんじゃなくて・・ なんかよくわかんない気持ちなのね。・・・好きには好きなんだけど・・・ でも那央を好きっていうのとは違うんだよね・・ っていうか・・那央に対する気持ちが特別っていうかさ・・・。』 『・・比呂・・・』 『・・俺、亜子先生への気持ちが冷めたことって一瞬もなかったんだよ。 だけど・・俺・・やっぱ亜子先生を選べねえの・・や、俺に選ぶ権利っぽいものはないんだけど・・』 『・・何いってんだよ。』 『・・・だから・・・。』 『・・・・。』 『那央にバレてもいいとおもう・・・ちゃんとわかってもらえる自信があんの。 でもいうことであいつを苦しめたくないし・・那央は俺が亜子先生と会ったって知ったら、一生それで苦しむ気がすんの。』 『・・・・・。』 『俺、那央がかわいいんだ。亜子先生のことは大好きだし・・もし・・やり直すようなことがあったら・・ 今度こそ幸せにしてあげたいよ・・だけどさ・・』 『・・・・。』 比呂は電話の向こうで溜息をついた。 小さな声がかすれだして、言葉につまりながらゆっくり話す比呂。俺は目を閉じる。 『俺、那央が泣くのが駄目なの。俺の前で泣くのはいいんだけど・・ あいつがしくしく泣くようなことがあるってことが耐えらんねーの・・。』 『・・・・。』 『今ある幸せを壊すなんてできない。那央を裏切るなんて俺にはできないし・・ 那央が悲しい思いをするだけの別れなんか絶対したくない。』 『・・いいの?それで・・。』 『・・・・。』 『あんだけ好きだったのに・・いいのかよ。』 『・・・・・。』 『比呂っ・・。』 ・・・お前はお前の事だけ考えてちゃんと選べっていってんだよっ・・・ 電話の向こうで・・比呂がすすり泣きをする。 『・・・あんな・・・。』 『・・・・。』 『あんな思いを・・那央にさせたくないよ・・。』 『・・・・・。』 『・・俺・・先生に恋人いるのかとか聞かれたとき・・・いるっていって・・・結婚したいとおもってるって・・ そんときの先生の顔思い出すと・・・死にたくなる・・正直後悔してる・・。 あんなに大事な人に・・あんな顔させるようなことした自分が・・すごい情けねーし・・・・。』 『・・・。』 『だけど、今一緒にいる那央を大事にしたいって気持ちだって愛じゃん。』 『・・・・・。』 『・・・・。』 『・・・・・。』 ・・・ばーか・・。ばかひろ・・・・。 『泣かせたくないから別れないとか・・そういうんじゃない・・2人とも俺には同じくらい大事だけど・・ 那央と俺には2人で1から育ててきた気持ちのつながりがあるよ・・。 亜子先生に飽きたんじゃないし・・好きで好きでたまんないよ。会いたくてたまんないけど・・ 俺が亜子先生を選ばないんじゃなくて・・選べないとかでもなくて・・そうじゃねーの・・そうじゃなくて・・・』 『・・・・。』 『・・・互いを思いあってそうしたことだったとしても俺と先生は別れるって形で終わったんだ。 終わってもいない那央との大事な幸せと天秤にかけたって意味ねえし。』 ・・・・。俺はベランダに座り込んだ。・・・・・うん。 ・・・うん。 『そうだな・・たしかにそうだ。』 『・・でも・・』 『ん?』 『正直言うと・・混乱しきってる。寄りもどすとかそういうのとは全然ちがうとこで・・俺パニってんの。ほんとに』 『・・・そりゃそうだろ。いきなり会うなんて。俺ですらビックリして心臓とまるかとおもったよ。』 『・・・・だよねー・・・・。』 『・・・でもほんとにいいの? 』 『・・・・なーにーが−・・。』 『未練あるんじゃないの?あっちはおまえに。』 『・・・・でも・・俺をフったのは先生だよ。』 『・・・。』 『別れるのが一番いいって思ったのは先生の方なんだから、先生にとってはそれが一番よかったんじゃねえのかな・・・。』 『・・・・でもさ・・。 』 『瑞希〜・・・。』 『・・・・。 』 『・・・変な風にとらないでよ?』 『・・・・。』 『俺・・やっぱさ・・その・・好きな気持ちが変わらないっていうのとはベッコの問題で・・ すげえつらいっていうかそういうのがあって・・・』 『・・・・・。』 『亜子先生に別れを決めさせるくらい・・あの人を追い詰めてたヤツらのことを許せないっていうかさ・・』 『・・・・。』 『俺が子供だったからみんなが気遣って、そういうことをしたんだろうけどさ・・』 『・・・うん。』 『あの頃の俺に、どれだけあの人が大事だったのかも知らないで・・ 余計なことを・・しかもあの人を追い詰める形でしてきたことに腹立ってて・・。』 『・・・・。』 『だけど・・今更何もできねーんだけどさ・・。』 『・・・・・。』 『亜子先生には彼氏か旦那がいるみたいな気がするし・・俺にも那央がいるからあれだけど・・・』 『・・・』 『でもあんまりに亜子先生が・・・疲れたような顔をしてたからさ・・』 『・・・・。』 『・・・・。』 『・・・・。』 『ま・・いっか・・・。ごめん。』 『ははっ。なんだよ。』 そのあと比呂は、一旦電話を切るとかいって、すぐにこっちにかけなおしてきた。 電話代きにしてんのね。かけなおした後の比呂の電話は超ながかった。 学校の話をして、俺を死ぬほど笑わせた。ただいつもと違って最後の最後まで 今日はユッキーとのノロケ話はきけなかったんだけど。 比呂は・・本当にいいのかな・・。ユッキーといることも幸せなことだろうけど・・ 浮気されたり・・色々なことがあったのに、どうしてそこまで強く幸村をおもい続けられるんだろう。 でも、幸村のかわいい性格や、どれだけ比呂のことを好きなのかって気持ちは俺も知ってる。 だから本当をいうと、安心したんだ。比呂が幸村との幸せを守り通そうとしていることが。 星空を見る。 ぼんやりぼけてたら、麦の顔が目に浮かんだ。沢山の感情のうえに、今日も現実は続く。 俺は比呂が一番幸せな形で日々が流れることが、何よりの望みだ。 |
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