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2008/10/25 (Sat.) 00:24:41 先日、光が丘工業の体育祭があるって知って・・気持ちを抑えきれず 佐藤君に会いにいった。・・ただ彼の姿を見たかったし、出来たら少しでも話がしたかった。 学校周辺には女子高生が沢山いて、その子達の口から佐藤君の名前が出て思わず驚く。 私はぐるっと周辺を歩いて、誰もいないフェンスごしに体育祭の様子を見た。 すると、三年生の200メートル走があって、走る姿をみてすぐに佐藤君に気づく。 沢山の友達に囲まれて、楽しそうに笑う彼をみて私は涙が止まらなかった。 よかった・・。佐藤君は幸せなんだ。 そんな彼の様子を見て、自分が彼にしてあげられることはもうナイって自覚をして 帰ろうと思ったとき、競技を終えた佐藤君と目があった。 佐藤君が駆け寄ってくれる。私は息の仕方も忘れる。 フェンス越しに見る佐藤君の姿。黙る私に佐藤君が話しかけてきた。 『こないだは・・なんか俺・・突き放すような言い方して・・。』 『・・・ううん。ごめんね?・・なんか・・もう一度会いたくて。』 『・・・・。』 涙が止まらない。『佐藤君。ほんとにゴメンね。私・・いつも・・勝手ばっかり・・。』 佐藤君は困ったような顔で私を見ると、遠くのテントを指差して、私に言う。 『あそこにピンクの髪の子がいるじゃん。』 『・・うん。』 『・・あれが俺の付き合ってる子。』 『・・・え・・・?でもあれ・・男の子。』 『うん。男。でも大好きなんだ。高1の冬から付き合ってる。』 驚きが露骨に顔に出た私を見て、佐藤君が笑った。 『先生は一回しか勝手はしなかった。その勝手だって・・多分俺の事考えて、そうしてくれたんじゃん。』 『・・・・』 『俺、すごい探したよ。』 『・・・え?』 『先生の実家があったとこまでいって・・公園とか・・』 『・・うそ・・。』 佐藤君は口の動きだけで『ほんと』といって私を見る。 『先生、実は結婚してんじゃねえの?』 『・・・・・。』 『わかるよ。・・ずっと会ってなかったけど・・でもわかるって。そういうのは。』 『・・・・・ごめん。』 佐藤君は、あやまるなよって、小声でつぶやいたあと、ゆっくり話を始める。 『・・俺・・あの頃・・ほんとごめんね。』 『・・・え?』 『俺のせいで教師やめたんだろ?』 『・・・違うよ。それはっ・・。』 佐藤君のせいじゃなくて・・私が失恋の重さに耐えられなかったからだよ・・・。 佐藤君は空を見上げる。男の子って・・たった数年で、こんなに変わっちゃうんだなあ・・。 『先生・・ちゃんと幸せになりなよ。そういうとなんか突き放してるように聞こえるかもしれないけど・・。』 『・・・・・・。』 『・・・俺はもう何もしてあげられないから・・えらそうなこといえないけど・・。』 『・・・・・・。』 胸が痛んだ。とっくに終わった恋だったはずなのに 面と向かって言われる言葉に、いやがおうにも気づかされてしまう。 これが現実だ。心の中で描いた淡い期待は全て幻想の中の幸せだった。 私の恋は、今ここで終わる。 私は、くちびるをギュット噛み締めて涙を拭った。 最後になるならせめて先生として・・・佐藤君のために・・なにか言葉を・・・。 見上げると佐藤君が私を見ている。大好きな目。大好きな仕草。表情。声。 もう私のものではない。ぬぐってもぬぐっても涙が溢れて、苦しかった。悲しかった。 そしたら佐藤君が私に、静かに話しかけてくれた。 『俺・・先生の事はずっと好きだよ。』 『・・・。』 『一番苦しかった時に・・たすけてもらって・・ ほんとに先生が大好きだった。今だって気持ちは変わらないよ。』 『・・・・。』 『大好きな人だから幸せになってもらいたい。俺も幸せになる。 先生の事はずっと忘れないし・・いつまでも大事におもってるよ。』 私は涙が止まらないけど必死に目を開けて佐藤君を見た きっと酷い顔になってるとおもう。 でも彼の言葉をしっかりと・・胸に刻んでおきたいから 表情も全てを心の中に刻んでおきたいからうつむかない。 『あれから・・ずっと考えてた・・あんなふうな態度とって後悔した・・ でも、俺もすごくびっくりしたっていうか・・会うなんて思わなかったから・・・』 『うん。』 『色々なことを考えたけど・・今考えたらどうでもいいことだった気がする。』 『え?』 『話せてよかった。やっぱ。』 『・・・・。』 『会えてよかった。俺。』 ・・・二度と付き合えない私に・・ 好きだとか・・大事だとか・・いうことないのに・・・ そういうと、佐藤君は、うんってうなずいたあとにいう。 『でも・・これが最後になるんだったら・・・このあと淋しい気持ちになるとしても・・ 色々考えて辛くなるとしても・・想いはちゃんと話しておきたい。 大事だから幸せになって欲しい。俺は先生との思い出があったから・・色々なことを乗り越えられた。 今はもう・・大事な人がいるけど・・でも、先生と付き合ってた頃は、先生が俺の全てだったよ。』 『・・・私にも・・佐藤君が全てだったよ・・・。』 佐藤君は・・目にいっぱい涙を溜めてほとんど声になっていないような小さな声で 『ありがとう。』といった。 これから先、どこかで会ったら声をかけていい?ってきいたら ピンクの髪の毛の子のことを指差して 『すげえやきもちやきなの。だから駄目。』って言われた。 『じゃあ・・佐藤くんが一人のときだったらいい?』 って聞いてみたんだけど『駄目』って即答された。 『一人のときもどんな時も、俺はあいつが大事なのにはかわんないから。』 私はその言葉を聞いて、どこかで気持ちが溶けていくような感覚を覚える。 『・・生まれ変わったら・・また付き合えるかなあ。』そういうと佐藤君は、首を振った。 『俺はうまれかわりたくなんかないの。今の俺のこの人生が好き。 おっくんの子供に生まれて、亜子先生とつきあってきた過去の全部が俺は好き。 だから生まれ変わらない。出来る努力はこの人生の中でする。 夢も希望も全部この人生の中で見る。だから先生は、だんなさんと幸せになって。』 ・・・・・・うん。 最後にキスしたいといったら『今の俺達がそれをしたら・・浮気じゃん。』って断られた。 その潔さがとても心地よかった。 こういう潔さで私はいつも彼に守られていた。 大事にされていたことは、過去の思い出かもしれないけど・・でもそれは真実だった。 今も私を・・好きだと言ってくれた。 家に帰ると主人がソファで転寝をしていた。頬を撫でると目を覚まして『おかえり』といってくれた。 いつも佐藤君と比較してばかりいた彼のことを初めてちゃんと彼としてみることができた気がした。 長くて苦しい恋の話は、あの日、終わった。 今は、淡くてとても幸せだった記憶が私の背中を優しく押してくれている。 |
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