2009/2/25 (Wed.) 23:02:50

『・・浅井・・・。』
『・・なに?』
『お前・・知ってるんだろ。麦と比呂のこと・・。』
『ああ・・。片想いのこと? 』
『ああ。』
『麦から聞いてるよ。お前にも話したんだろ?』
『うん。』
『・・・・。』

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広島から浅井が来た。
比呂が入院して・・すごくヤバイ状態だったんだけど
今はなんとか安定してる。意識は戻らないままだけど。

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『・・・なんであいつ・・。』
『ん・・・?』
『自分が行かなかったんだ?』
『・・・・・。』
『ユッキーじゃなくて・・自分が比呂のとこに行けばよかったじゃん・・。』
『・・・・・・。』

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麦の母親が看護婦で、そういう関係で病院の先生のことを麦は知ってて・・
比呂の容態が少し安定したんなら、誰かを会わせてあげられないかって・・必死になって頼み込んで・・

ユッキーはうろたえちゃってるし、俺らみんな・・麦が比呂のとこに行くと思ってたのに
いざ先生からオッケーでたら『幸村。入れるよ。』って・・麦がユッキーの肩をぽんって叩くんだ。
ユッキーが遠慮して・・麦に入れっていったんだけど、『ばか。ここはお前だろ。』っていってさ。
せっかく比呂に会えるチャンスを・・自分で作ってユッキーに譲った。

ユッキーが看護婦につれてかれてから俺は麦にいった。

『何でお前が行かなかったの。』
『会いたかったのはお前だろ。こんな時だぞ。なんでだよ。』

でも麦は、ふふって笑って
『誰でもいいだろ〜・・・。気持ちはみんな一緒なんだからさ〜・・。』
っていうんだ。

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『・・・ねえ・・。』
『・・・・・なに?』
『なんで麦・・自分でいかねえの・・・。』
『・・・・。』
『こんな時にさ・・遠慮してる場合じゃねえじゃん。』
『・・・・。』
『ユッキーだって・・すげえパニってるしさ・・。麦がユッキーにかわって比呂に会っても、誰も文句いわねえ状態じゃん。』
『・・・・・ああ・・。』
『・・・・。』

浅井は目を細めて遠くを見る。その先には麦。ロビーのイスに座り黙って頬杖をついている。
そんな麦を見ながら・・浅井が話すんだ。

『・・あいつが好きなのは・・比呂なんだよね。』
『・・・。』
『麦が大好きで・・一番大事なのは比呂なんだよ。』
『・・・知ってるよ・・・だからさ・・・だからっ・・。』
『そうじゃないんだよ。』
『・・・・・なにが? 』
『そうじゃないんだよ。だから・・。』
『・・・・。』
『あいつが好きなのは比呂で、大切なのも比呂だってこと。自分自身が大事なんじゃなくてさ。』
『・・・・・。』

俺は黙る。

『比呂を好きな自分のことが好きとか・・自分の気持ちが大事だったら・・
麦は誰にも遠慮なんかしないで比呂に会いにいったと思うよ。
でも、あいつが好きなのは比呂自身なんだ。大事でたまんないのが比呂なんだ。
だからユッキーに会いにいかせたんだよ。
最初からそのつもりで、医者の先生に掛け合ったんだとおもうよ。』
『・・・・・。』

俺は全身の力が抜ける。色々な悲しみが一気に押し寄せて涙が出た。

色々なことが悔しかった。

全員が悲しくて苦しんでいるこの状況が悔しくて
廊下の角に座り込んで・・何年ぶりだろう・・しゃくりあげて泣いた。
浅井が俺の背中を擦ってくれた。
『おぎや〜・・・。』『・・・・。』『大丈夫?』『・・ん。』

浅井が背中を擦ってくれたから、気分が少し落ち着いた。俺は息を吐き出して、涙をぬぐった。

『おぎやー・・。』
『・・・・。』
『俺、連絡もらってすぐに・・親に電話してそのまま駅にむかった。
比呂に何かあったときのために・・金用意しておいてたんだ。
比呂は・・普通の子と違うからまた何かあるかもしれないって・・
ないって信じたいけど・・でも・・用意だけはしておこうって・・さ。
だけどこっちにくるまでスゲエ長くてさ。新幹線がすごくノロく思えるんだ。
絶対死ぬなってそれだけ思って、駅に着いたら岸先生が迎えに来てくれててさ・・・
岸先生の顔見たらさ・・すげえ泣けてきちゃってさ・・
『大丈夫だよ。あいつは死なない。あんなに頑張ってきたんだ。これから幸せになるんだから。』
って・・先生が何度も言ってくれてさ。俺も・・・絶対そうだよって思ったんだけど
あー・・・やっぱり・・普通の状況じゃないんだって・・
嘘だろ夢であってくれよって・・そんなこと考えてるうちに病院着いてさ・・・
麦と目があったとき、あいつすぐに『比呂・・自分で死のうとしたわけじゃねえから。』っていったんだ。』

『・・・・。』

『俺・・『わかってるよ。』っていうだけで精一杯だった。』
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