ラブ

今日。比呂のお見舞いにいったんだけど
そのあと、比呂んちのおじちゃんに声かけられて2人で一階まで降りた。
自動販売機でミルクティーをかってもらって、薄暗いロビーでソファに座る。

どきどきした。なんだろう・・。
麦とおじちゃんが、時々2人きりで話してるのは知ってたけど・・
何で俺・・?しかも比呂のいないところで声かけられて不安になる。

『すまないね。こんなところで。』
『あ・・。いえ。』
『・・・いつもありがとうね。あの子の事を支えてくれて。』
『あ・・はい・・。・・・・・・・・・・・え?』

あの子の事を・・支えてくれてって・・え?それ・・どういう意味?

おじちゃんが俺の顔を見たら、目には涙が浮かんでた。動揺する俺は言葉が出ない。
次の瞬間、おじちゃんにとんでもないことを言われた。

『君と付き合ってることを比呂から聞いたよ。』

目を見開いたまま完全に言葉を失う俺。
比呂が・・俺と付き合ってることをおじちゃんに・・言った?
なんで?そんな・・うそだろ・・なんで・・・
表情を取り繕うことさえ出来ない俺は、呆然としたままおじちゃんをみる。

おじちゃんはそんな俺に、頭を下げたんだ。

『辛い思いを沢山させたとおもう。ほんとうに・・悪かったね。
色々なことがあるたびに、真っ先に君に連絡をするべきだったのに
君と比呂が付き合ってるなんて知らなかったから・・
君はいつも他人経由で比呂の状態を聞いてたんだろうね。ほんとうにすまなかった。』
『・・え・・そんな・・。』

おじちゃんはロビーに置かれている観葉植物に視線を移しぼんやりと話をし始めた。

『・・・昨日・・・。あの子が目を覚まして・・検査を終えたあと
あの子が話してくれたんだ。このことは、家内は知らないんだけどね。』
『・・比呂が・・・自分から話したんですか?』
『うん。・・検査の後にね、担当医の先生から説明を受けたんだ。
一度完全に心肺停止になったことと、原因不明ってことをね。
前にも比呂は薬で心肺停止になったことがあったんだけど
今回は自分の父親と同じ状態だったからショックも大きかったんだろう。』
『・・・はい。』
『先生が病室をでていったあと、比呂が私に話をしだしたんだ。
幸村君の事を好きになって、一年生の冬から付き合ってるって。』
『・・・・・・・。』

おじちゃんは、俺の手に握られているミルクティーをそっととると
プルタブをあけて『飲みな。』っていってくれた。俺は『はい・・。』っていって一口ごくりと飲む。
甘くておいしい。なんか泣けてきた。

『比呂にいわれた事を・・そのまま君に言うよ。それで、おじさんの考えをいわせてもらうね。』
『・・・はい。』

『幸村の事が・・好きで、一年の冬から付き合ってる・・。
なんか迷惑かけてばっかだけど・・いつも那央は俺を支えてくれた。
俺が好きになったから・・付き合ってもらった。
別れ話に何度かなったけど・・いつも俺が引き止めて、ここまで付き合ってきてもらった。
俺は那央がすごく大切で・・交換日記とかもしたりして・・俺の机の中には・・
那央の写真や、あいつからもらった手紙とか沢山入ってる。

もし俺が・・病院からでる前に・・また変になって死んだら・・・
きっとおじちゃんたちはそれを見ることになるし・・そういうときに・・那央が・・那央が・・』
『・・・・。』
『・・・そこで比呂は泣いちゃってね。しばらく話せなかったんだけどね。』
『・・・・・はい・・。』

『だから僕がね。比呂にいったんだ。「そういうものを見て俺が幸村くんに対して
冷たい態度をとるとか、誤解をするだとか・・そういう事があると困るんだろ?」ってね。』
『・・・・・。』
『そしたら比呂はね・・うんって頷いて・・またゆっくりと話をしだしてね。』
『・・・はい。』

『俺が死んだら・・色々な人のことが心残りだけど・・でも一番心配なのが那央の事なんだ。
大好きな人だから・・幸せになって欲しいのに・・俺が死んだらあの子は絶対悲しむし・・
俺の後を追って死のうとするかもしれない・・。
でも俺は那央には生きててほしいの。だからもし・・もし俺が・・このまま死んだら
那央に俺の気持ちを伝えてほしいんだ・・・ってね。』
『・・・・・・・。』
『幸村くん。』
『・・・はい。』
『比呂は多分ちゃんと生きて退院をする。そしたら比呂は、僕に託した遺言を、君に話すことは無いだろう。
でも、あの子は必ずいつか死ぬ。君だってそうだし、僕だってそうだよね。』
『はい。』
『僕と比呂と君の三人のうち、年齢的に僕が一番先に死ぬだろう。その次に比呂が死んだとして、君が残されてしまったとしたら・・』
『・・・・・。』
『君に比呂の言葉は届かないからね。だから今いっておこうと思うんだ。』
『・・・・・・・。』

俺は涙を拭う。姿勢を正す。ミルクティーの缶をぎゅっと握る。そして、おじちゃんの顔をみた。

『もし・・俺が死んだら・・那央には俺の夢をかなえてほしい。俺は那央が大切だから、那央を幸せにしてあげたい。
だけど、死んだら那央には何もしてあげられない。今まで沢山してきた約束も、一つもかなえてあげられない。
だから・・頑張って幸せになってもらいたい。俺は那央の事を思いながら死ぬけど、
命が終わったら何も残らないから、天国なんかどこにもないし・・星になってお前を見守ることもしない。
だからまたちゃんと誰かを好きになれよ。無理にとは言わないけど・・。』
『・・・・・。』

するとおじちゃんは、自分の携帯電話を出した。
それでね・・・ぴぴってボタンおして、俺に聞かせてくれたんだ。
携帯に録音されてたのは比呂の声。かすれてるけど・・・比呂の声・・。

おじちゃん・・俺の机の中の・・那央からの手紙
もし俺が死んだら、俺と一緒に燃やして?宝物だから・・もっていきたい。

あと・・・

俺が死んだら交換日記・・捨てて欲しいんだ。大事なものだけど・・・
でも・・俺が死んだら・・捨てて欲しい。
那央がいつまでも思い出に縛られたらかわいそうだから・・。



携帯をパタン・・と閉じるおじちゃん。泣きじゃくる俺の背中を撫でてくれる。
『勝手なことばかり言ってるあの子を許してやってね。』といわれた。俺は頷くんだけど言葉が出ない。

おじちゃんは、俺に優しく言ってくれた。

『僕はね・・比呂の言ってることは、本当に勝手なことだと思った。
だけどね・・それでもあの子なりの精一杯の気持ちなんだろうね。
意識が戻ったばかりで、呂律がまわらなかったりしてるのに
それでも一生懸命僕に話していたからね。』
『・・・はい。』
『これから先のことは・・ちゃんと自分達で考えるからって・・
幸村君と自分とでちゃんと考えてやっていくからっていっていた。』
『・・・・・・。』
『自分達が付き合うことで、周りが迷惑するようだったら・・
そのときは2人で話し合って・・色々なことを決めるからって・・。』
『・・・・・。』
『だから・・俺たちは・・どっちか1人で・・2人の事を決めることはないから・・
ちゃんと2人で決めていくから・・俺、恥ずかしいこといいまくっちゃったけど・・
もしこのまま案外長生きしたら・・・そのときは・・那央のお父さん達にも
話をしないといけないし・・それまでに・・仕事もちゃんとしてられるように頑張るから
なんか・・おじちゃんには話をしちゃって悪かったけど・・・

那央には内緒にしといて。そういう話、俺が死ぬまでは。』
『・・・。』
『だって。』
『・・・・。』
『・・・内緒のつもりの話を・・してしまってごめん。
比呂はガンコなところがあるから・・君に大変な思いをさせてしまうかもしれないけど・・
これからも・・あの子の事を・・よろしくお願いします。』
『・・・・はい・・・・。』

俺の震える肩をぽんっとたたいて、となりにいてくれるのは
比呂を育ててきてくれた人。
その人が・・男の俺を・・比呂の恋人としてみとめてくれて・・・
比呂の言葉を俺に伝えてくれた・・・。

『どうもありがとうございます。』
頭を下げたら・・肩から重いものがすうっと抜けた気がした。
ずっと後ろめたかったから・・・関係がバレたら引き剥がされると思ったから・・・。

病院の駐輪場まで俺を送ってくれたおじちゃんが
一枚の写真を俺に差し出してきてくれたんだ。俺が笑ってる写真だった。
『比呂が・・写真たての中の写真をもってきてほしいっていうものでね。』
そういって笑う。俺もへへって照れ笑いした。

俺が遺言をきいてしまったことを、比呂には内緒にしてもらうように頼んだ。
こうやって話をしたことも、内緒にしていこうと約束をした。

小沢にも言わないでおこうと思った。

ただ、毎日・・比呂に心で言いたい。大事にしてくれてどうもありがとう。

2009/03/01(日) 00:33:26
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