2009/3/2 (Mon.) 17:39:49
卒業式の後。

生徒会のメンバーで、幸村君を呼び出した。花束やみんなからの寄せ書きやプレゼントを用意して・・。
ドアを開けて入ってきた幸村くんは、今日の門出にふさわしい晴れやかで穏やかな表情をしている。
なんだか・・すごく悲しくなってしまって僕もだし・・他のやつらも涙が出て言葉が出ない。

幸村君とは生徒会に入ってからの付き合いだったけど最初はすごく怖くって、
無愛想だしお世辞はないし何を考えてるのかわかんなかった。
でもそのあと・・一緒にいる時間が増えてくうちにだんだんと幸村君のことを知っていく。

決め事はまず僕らに話し合わせ、黙ってそのやりとりをきいていて、最後に簡潔に自分の意見を言う人だった。
部活の予算決めのときには、僕らを引き連れて全ての部をまわり、備品を調べたり活動状況を調べて、
きっちりと額を決めたあとは、誰にも文句は言わせなかった。

テスト前に僕らが生徒会室でテスト勉強をしているのを知ってからは、ちょっとの時間でも立ち寄ってくれて、
わからないところを丁寧に教えてくれる人だった。
僕らは幸村君が帰った後、教わったことを必死に思い出して、ノートに一字一句間違えないように書き留めた。

最初のうちは、話するのにも緊張して・・だけど僕たちは幸村くんに冷たくされてたわけじゃないんだ。
愛想笑いしない人に慣れていなかっただけで・・余分なことを言わない人に慣れていなかっただけで。

気がついたら悩み事とかも、話せるようになっていた。

幸村君のアドバイスは相変わらず、そっけなかったけど・・すごく的確だった。
ちゃんと僕らのことを考えて、幸村君は答えてくれていた。

幸村くんのことを・・ずっと会長って呼んでたんだけど
新しい会長が決まってからは、なんて呼んでいいのかわからなくて
『幸村くん。』って冗談で呼んだら『なんだよ。』って、ぶっきらぼうな返事をしてくれた。

自動販売機の前で偶然会ったりすると、幸村くんは『ちっ・・。』ってすっごく嫌そうな顔しながら
僕の友達の分もジュースを買ってくれた。
僕の友達は幸村くんのこと、すごく怖がってたから、めちゃくちゃびっくりしていたんだけど、
僕はそれが誇らしかった。

行事の挨拶もソツなくこなす。
書類まとめる時、めがねをかけて黙ってタイピングする姿。
窓の外をぼんやりとみる顔。人になにかを押し付けない。
決めたことは全部自分で責任を取る。

僕らの意見に対して厳しかったけど・・何かひとつのことが決まったとき、
僕らの意見がいつもしっかりと反映されていた。
ノートをきれいにとる人で、難しい言葉が使われているときは、余白にちゃんと意味まで書いてくれてあった。
生徒会日誌の出席者の名前を書くところ・・
自分の名前以外には、全部に『君』とつけて書いてくれてあって最初びっくりしたのはそれだった。

颯爽としていて、廊下ですれ違うときに挨拶すると、ニコリともしてくれないんだけど
すれ違いざまに背中をバシってたたいてくれて、それが僕はとてもうれしかった。

今日の答辞。

幸村君の言葉。

聞きながら僕は涙が出た。


僕はいつも、楽しくもないのに笑っていた。
必死になって人に合わせて、好きでもないものを好きだといった。
そうすることで安心をしていた。

幸村君に出会って・・幸村くんの生き方を見て・・僕は変わりたいなあと思う。

泣きながら色紙を渡そうとしたら手元がくるって床に落としてしまった。
そしたら幸村くんが、しゃがんで色紙を手に取り目を通す。
ふふって・・笑いながら色紙に目を通してくれて
顔を上げた幸村くんは、僕らみんなの顔を見て、にこっとわらってくれた。

『がんばれよ。』

僕たちは・・
僕たちは涙でぐしゃぐしゃになりながら
『はい』って返事をした。


先輩。

幸村会長。


どうもありがとうございました。
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