比呂。 卒業式のあと、病院にいったら面会謝絶の札がかかってた。 俺は岸先生と一緒に代表で文集を置きに言ったんだ。 卒業式のテンションひきずってみんなで行ったら迷惑だし 卒業証書は比呂が退院したら、校長室で直接比呂に手渡すことになったって聞いたから とりあえず式の報告と、文集だけ・・うん。 岸先生がナースセンターにいって事情をきいてくれた。 すると、看護婦の人が比呂の病室の中に入っておじちゃんを呼んでくれた。 ロビーでおじちゃんの話を聞いた。 『精神状態が悪くなってしまいまして・・。』 ・・・俺は絶句する。昨日まで・・あんなにニコニコしてたのに・・・どうして・・。 『・・・・お父さんのことですか?』 岸先生がおじちゃんに聞くと、おじちゃんはうなずいた。 『自分が助かったことに罪悪感を感じ始めています。 遅かれ早かれそういう感情が生まれてくるのだと思っていたのですが、 今朝・・目を覚ましてから、ずっと泣いているんです。』 『・・・・紺野がですか。』 『はい。・・・『死なせてほしいと。』 『・・・・・。』 おじちゃんは・・本当に疲れ果てているようだった。岸先生も黙ってしまった。 死なせてほしい・・?俺がいるのに?俺を置いて・・? 『幸村。』岸先生によびかけられて、はっとする。 先生のほうを見ると、岸先生は俺を見ていた。 そして、今度はおじちゃんのほうを見て先生は話す。 『それで・・・治療か何かを始められたんですか?』 おじちゃんは首を横に振る。 『安定剤を飲ませて・・少しは落ち着いているんですが・・しくしくずっと泣いているんです。 考え込んで・・泣いて・・・外をみて・・空を見て・・泣いて・・その繰り返しで食事もとりません。 このままでは・・あの子が本当に死んでしまうようで・・。』 『・・・・・。』 『あの子の父親が亡くなったとき、言葉も交わせないまま 突然の別れになってしまって・・それが悔しくてたまりませんでした。 今回・・比呂の命が助かったこと・・とてもうれしかったのですが・・あの子自身は・・』 『・・・・・。 』 『単純に自分の命がつながったことを喜ぶようなことを言わないんです。』 『・・・・。』 『意識が戻った後・・担当医の方の説明を受けて・・ 真っ先にあの子がしたことは・・大事な人への遺言を私に託したことです。 ロビーに出る許可が出てすぐに、バイト先に電話して 書類の確認や、自分のロッカーに新しい仕事のマニュアルを入れてあることを伝えて そのころ私は違和感を感じ始めました。』 『・・・・・』 『まるで・・身辺整理をするかのように・・あの子がまだ足元がふらつくような状態で 仕事の電話をしたり・・手紙を一生懸命に書いたり・・ 自分の部屋のどこには何があって、それは誰から借りたものだから 取りにきたら返してあげて・・とか・・そんなことばかりを一生懸命に・・・ そして・・今朝・・突然・・『もういい。死にたい。』と・・・・。』 『・・・・・。』 岸先生はおじちゃんの話を黙って聞いていて・・ おじちゃんが黙り込んでしまったら、ゆっくりと・・こういった。 『・・・あいつが一人きりで倒れなくて本当によかったですよ。本当に。』 俺もおじちゃんも岸先生を見た。先生は、ロビーの床を見つめながら 『あの子が死にたがるのは仕方がありません。 それだけつらい思いをしながら、必死に必死に生きてきた。 今はただ・・あの子が・・寂しく一人で死ななくてよかったことだけを喜びましょう。 あの子が生きていることが・・僕たちの喜びなんですから・・ あの子が悩んでいることが・・どんなに重たく難しいことだとしても 大人として私たちは・・しっかりと支えていく覚悟をしましょう。』 『・・・・。』 『紺野さんは・・だれよりも・・あの子を大事にしてきたんですから・・ あの子の心はちゃんと見えているはずです。罪悪感なんか感じることはないんです。』 『・・・・。』 『あなたが自分を許せないことと・・紺野が自分を許せないことは・・・同じなんじゃないですか?』 『・・・・。』 『紺野が言っていることは・・・とても・・まともなことだと思います。』 ・・・・うん。 うん。 比呂は・・俺を残して死にたいわけじゃない。 俺のいる世の中に嫌気がさして死のうとしているわけじゃない。 違うんだ。そんなことを言ってるんじゃないんだ。 うん。 うん。 家に帰ったら・・テーブルの上にご馳走が並んでて 卒業式のときの話を母親が泣きながらしていた。 俺はなぜか・・涙が出なかった。比呂のことをきいても・・なんでか涙が出なかった。 ただただ愛しい気持ちが押し寄せる。必死に命と向き合う比呂を愛しく思う。 生きてきた道が違うから・・俺はぬくぬく育ってきたから・・ だからこそ比呂にしてあげられることが絶対あると思う。 知ってるものならあげられる。知らないものなら、もらってあげられる。 比呂が俺に求めているものもわかった。だから比呂にはずっとそばにいてほしい。 俺の幸せの構図には・・かならず比呂がいる。 比呂が自分のために生きられないなら 俺の夢をかなえるために生きてほしい。 比呂が生きてさえくれていれば・・俺、比呂のことを大切にできる。 愛情は・・あふれる愛情は誰からもらったっていいんだよ。 どの愛情も平等に尊い。 みんなが大事に思っているよ。 がんばれ。比呂。 2009/03/02(月) 23:01:01 |
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