荷造り。

京都に送る荷物をまとめた。服とか・・・うん。昨日はね。比呂とね・・ずっといたよ。俺。
ホワイトデーなのに仕事休みとってくれてね。っていうか・・うん・・。

っていうかね。

ずっと前から、その日は休むって言ってくれてたんだって。俺が大学に行く前の・・
最後の恋人行事だから・・去年から休みを取ってくれてあったんだって。
ハルカさんにそれ教えてもらえたの・・・比呂が意識不明だったときだったんだけどね。

おじちゃんの車借りてー・・ちょっと遠くの山の方にでかけてね。
午前中、天気悪かったんだけど、午後からすげえ晴れて
比呂が見せてくれたのは一面の菜の花畑だった。

『ちょっとまえにさー・・仕事でこっちきたの。山野草の卸やってる人がこのへんにいてさ。
そんときまだ咲いてなかったんだけど、そろそろかなーとおもって。那央と一緒に見にきたいと思ってたから。』

・・・・うん・・。すごいきれいだ。

山の中にぽっかり黄色の群生。周りに誰もいなかったから、ずっと手をつないでいられたよ。

もうすぐ比呂も横浜に行く。でも、俺よりあとに比呂は行く。見送ってくれるんだって。ちゃんと。
送っていくと・・つれて帰りたくなっちゃうから・・だから静岡で比呂は見送ってくれるんだって。

菜の花畑を見ながら、比呂がすごいうれしそうにね、言うんだ。
『なんか、見るもの全部すごくきれいに見える。
同じものを見てるはずなのに・・今は空も緑も全部きれいに見える。』
『・・・生まれ変わったのかな。比呂は。』俺は言った。

比呂は、ふふっとわらうと、俺の手をぎゅっと握った。
『や・・。生まれ変わってはいないと思うよ。気持ちは何も変わらないし。
いいことも、悪いことも、なんも変わってない気がするし。』
『・・・・・。』
『でも、・・目が覚めるとすごいうれしい。特にお前に会うとそう思う。』
『・・・・・俺に?』
『うん。・・・那央とはこれからもずっと一緒にいられたらいいなって本当に思うよ。』
『・・・・・・俺も思うよ。』
『・・・・がんばろーね。二人で。』
『うんっ。』


そのあと車で、バレンタインデーのときに行った駅の方に向かった。
駅の近くの駐車場に止めて、あの日たどった道をゆっくり歩いた。

『水玉』ってカフェに入って、コーヒーを飲んだ。俺はミルクティー。湯気まで愛しい。

窓の外を見る。たった一ヶ月違うだけなのに、周りの景色は違っていた。
木々や草花はしっかり春を感じ取ってる。
あの日、比呂に渡した手紙。思い出すだけでじんわりとする。
目を閉じると、『愛してるよ』っていう言葉が胸の奥でリピートされるんだ。

俺たちの・・日々の幸せは・・とても脆くて儚いものだ。
仲がいいとかそういうこと以前に、消え去る理由はいくらでもある。

でも、それでも君を想いたい。無力な俺だけど想いたい。君との未来を信じたい。

涙が出るよ。

好きになってよかったなあ。



2009/03/15(日) 23:04:39
NEXT