比呂と麦

昨日、比呂が麦と会うとか言ってて、俺も塾おわったら、合流しようかなって思ってたの。
でも、その前に、坂口が、俺を誘ってきたから、坂口と2人で飯食いにいった。
『お前が俺を誘うなんて、めずらしいよな。』って俺が言うと
坂口は、露骨に落ち込んで『・・だって、麦ちゃんに断られたから。』っていってしゅんとしてる・・・。

なにこいつ、謎。

『麦は比呂と会うっていってたよ。だったら俺らも合流する?』
『・・だめだよ。今日は、大事な話があるっていってたし。』
『・・・大事な話?』
『・・・内容は知らん。』

・・・・ふーん・・。

俺は、飯を口に入れて、もぐもぐごくんしたあと、坂口に言う。
『仕方ないよ。だって2人は親友だもん。お互いにしか打ち明けられないこともあるだろうし。 』
そしたら坂口が顔をあげる。
『信頼してんだね。麦ちゃんのことを。』
『・・は?俺が信頼してんのは、麦もだけど、それより比呂のことをだよ。』
『そのわりにはいつも、あいつを困らせてるじゃん。』
『・・・・。』

カチンときた。お前にそんなこと言われる筋合いない。
憮然として飯を食う俺。味なんかしない。つまんねーし帰りたい。
そしたら坂口が、箸をテーブルにおいて、飲み物飲んで、溜息をつく。

『麦ちゃんちの家庭事情しってる?』
『・・・は?』
『母子家庭っていうこと。』
『ああ、しってるけど。それが?』
『・・・・。』

俺のとげとげしい返事をきいて、坂口は黙ってしまった。あー、きまずい。お互い無言。
比呂や麦がいないから、誰もフォローしてくれない。浅井は広島だし。

飯を全部食い終わる頃、俺の携帯に電話があった。
相手は比呂だった。俺の声を聞いて、すぐに『・・おっまえ、またなんかあったの?』とかいってきた。
返事もせずに、目の前の坂口を見る。坂口は、テーブルに突っ伏してしまった。
『・・・・・。』
比呂の声聞いたら、なんか悲しくなっちゃって、一言でも喋ると泣きそうだ。
よく見たら坂口の肩も震えてる。

『どこにいんのー?いまからいくからー。それかお前がこい。駅前にいるから。』

電話をきって、俺は坂口の肩を叩く。坂口、泣いてる。俺も、泣いた。
泣きながらレジで金を払って、ほっとけないから、坂口と一緒に駅前にいった。
そしたら比呂が、寒そうに自転車に座ってて『・・・・・・ゆらまで泣いて、どうしたんだよ』
と、心配顔で俺たちの方に歩み寄ってきた。2人で比呂に抱きつく。

坂口!てめっ!比呂にだきつくんじゃねえ!

『どうしたんだよ、お前らはー。』そういって俺らの頭を撫でる比呂。
『麦ちゃんとの話は?』坂口にきかれて、比呂は『終わった。あいつは帰ったよ。』という。

『もう終わったの?』
『ああ、俺今日さ、バイト早くあがらせてもらえて。』
『・・・・・麦ちゃんのバイトは?』
『あいつは、今日は休み。だから待ち合わせ30分前倒ししてもらったんだ。』
『・・・・・そんなにすぐに終わる話だったの?』
『ああ・・うん。終わったけどな。とりあえず。』

ガン泣きした顔の2人に見つめられて、比呂はすっごくバツの悪いような顔して
『なんか・・ほら、お前らアレ好きだろ。アイスのなんちゃら。おごってやるから、いこう。』
っていって、近くのカフェに向かって歩き出す。
俺は心でガッツポーズした。・・比呂と一緒にカフェだー。わーい。

アイスメインのスペシャルパフェを2人分。比呂は、アイスコーヒーのブラック。
『ホットにすれば?』って俺がいうと、『話しすぎて、のどかわいた。』という。
坂口がクスンと鼻を鳴らす。なんでこいつまで、あんなに泣いたんだろう・・・。

比呂は坂口を見て、優しい声で言う。
『麦が、明日ゆらもいっしょに飯食いにいこうっていってたよ。』
・・坂口はそれをきいて、ぱっと明るい顔になった。すると比呂は言う。

『麦、家で色々あるみたいでさ・・。で、相談っていうかなんていうか。
お前らに隠すようなことでもないんだけど、ほら、俺んち家も特殊じゃん。
だから、とりあえず、俺に相談して来たみたい。』
『・・・・。』
『いつもさ、三人でツルんでんのに、ゆらだけ誘えなかったのを気にかけてた。
気持ちの整理がついたら、お前にも話すって。だから、あいつから話があるまで、まっててやって。』
『・・・・ああ・・うん。わかった。』

俺は、口の周りをアイスまみれにしながら比呂を見る。『・・俺には・・・なにもないの?』
比呂は、そんな俺を見て笑う。『お前にはあとで、俺から話す。』

・・・・うん。あとでね。

坂口が途端に元気になって、ずっとニコニコ笑ってる。
単純でいいよなー。坂口は。俺は駄目だ。複雑にしすぎちゃって。
比呂は俺らがパフェを食い終わるまで、ヒノエと小島の話をして笑わせてくれた。

最後には俺ら、笑い泣きしてた。
顎が痛くなるくらい笑いながら、比呂と麦がどんなふうに、どんなかおで
話をしたんだろう・・・って、少しだけ思った。

家に帰ってから比呂に電話する。

『今日はありがとう。』
『いやいや。それよかお前ら、何で泣いてたの。』
『・・・わかんない。坂口がいきなり泣いて、つられて俺も。』
『へえ〜・・。ゆらも涙腺弱いからなー。』
『うん。・・で、麦との話ってなんなの?』
『ああ。・・・なんていうかー・・親が再婚するみたいなの。』
『うん。』
『再婚っていうか、復縁?』
『え?』
『でてった父ちゃんが、もどってくるみたいなかんじのあれで。』
『・・・・・。』
『麦は、親の事ですげえ苦労した子だからさ、なんかこう・・・うん。』
『・・・そか。』
『ま、そういう感じの話。』
『・・わかった。』

ほんとはわかんない部分のほうが多いし、根掘り葉掘り聞きたい。
でも、比呂がそこで話を区切ったから、俺は彼の気持ちを尊重しよう。
家の事だから、比呂があんまり、あれこれ俺に言いたくないのはわかる。
麦の個人的な話だからね。しっかりと友達をかばえる比呂だから
俺は恋に落ちた。まっさかさまに。

比呂の声が明るくなる。
『で、さっきゆらにもいったけど、飯を食いに行こうってさ。』
『・・・でも比呂、バイトは?』
『俺も明日休みじゃん。店自体休みだし。』
『そっかー。そうだっけね。』
『部活後に飯みたいけど、お前塾は?』
『ないよ。』
『じゃあ、潤也とかにも一応こえかけて。久々にみんなでいこうってさ。』
『うん?了解!』


小沢はもちろんオッケー。最近、彼女についての不満があるらしく、
みんなに聞いてほしいみたいなんだ。それを、比呂にこっそりいったら
『なーにいってんだか、どうせノロケだろー。那央、あいてにすんな。』
だって。あははっ。そうかも。だって小沢ったら、すごいデレ顔ばっかしてるもん。
どんだけ幸せなのって話!


今は比呂の掃除待ちー。比呂が来たら一緒に部活に行く。
何を食べに行くのかなー。


楽しみだな〜。





2008/01/16(水) 14:05:01
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