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2008/1/16 (Wed.) 23:39:09 昨日・・比呂に告白をしようと思った。 幸村と付き合っているあいつが、とても幸せであることを知った上で、告白して、ふられようと思った。 約束もして、自分で退路を断った。 俺はバイトが休みだったから、一度家に戻り、着替えをした。そしたら、出て行ったはずの父親が家にいる。 母親と復縁するとか、ほざくから家を飛び出した。 待ち合わせまでは時間があったから、公園で一人途方に暮れる。 そしたら比呂から電話が来て、バイトが早く終わったという。 俺の声をきいて、何かを察したらしい比呂は 『お前どこだよ。』って俺に言う。『公園・・・。浅井の社宅のちかくの。』 そういうと比呂は『そこにいろよ。すぐいくから。』といいつつ、電話を切らない。 『切れよ電話。』『うるせえな、なんかしゃべれよ。』 『捕まるよ、携帯かけながらチャリのると。』『うるせえから、なんかしゃべれよ。』 『・・・うるせえなら、切ればいいじゃん。』『うるさい。』 ・・・そういうやりとりを延々と繰り広げて、10分もしないうちに比呂が来た。 『・・・・・どうした?』 ・・・・。 会っちゃったら何もいえねーよ。俺はもう・・・家にオヤジがいたことで、完全に混乱してた。 『家に・・おやじがいた。』『・・・・は?』 『・・・・。』『・・・・お前のお父さん?』 比呂が俺の手を握る。俺はからだが震えてた。 俺の父親は、家の貯金のほとんどを持って、愛人の女と逃げた最低男だ。 やっと家が落ち着いてきたときに、戻ってくる理由がわからない。 一方的に向こうが話をしてきたから、俺は聞くしかなかったんだけど 兄貴が説得したんだって。復縁しろって。そして戻ってきたみたいなんだ、あのバカオヤジ。 比呂に握られた手。俺はそれをじっとみる。 ・・・ずっとずっと大好きで・・俺は多分死ぬまでこいつの事を好きだ。 結婚できて、祝福されて、子供も出来て、そんな贅沢な幸せの中、 他所の女に浮気して、家族を捨てて出てった最低な父親。心の底から憎く思った。 『麦?』・・・・比呂の声が俺の名を呼ぶ。 顔を見たら、比呂は息をきらせていた。俺のために・・急いできてくれたのか? 比呂の隣に幸村はいない。それがすごくうれしかった。 比呂に事情を話した。比呂は黙って聞いてくれる。 俺は父親の悪口を言いまくった。比呂はその全部に、同意してくれた。 すごく救われた気がした。 比呂が、一緒になって俺のオヤジの悪口をいってくれたから。 あいつの事を許せない俺の心が救われた気がした。 ほっとしたら、すげえ涙がでてきた。 比呂は、俺と一緒に泣いてくれた。『お前が正しい。絶対。』っていって。 そんで、座っていたブランコからたちあがると、近くにあった滑り台を蹴飛ばして、話し始める。 『俺んちは、母親が最低だった。俺は何度も殺されかけたらしい。 記憶があちこちで飛んでて、大好きな父さんの記憶もところどころ消えてんだ。』 『・・・・。』 『俺の母親は死んだから、もう文句は言えねーけど、もしまだ生きてたとしたら 怒鳴り散らして文句言いまくったかもしれない。・・それか絶対会わないように逃げたかも。 ほんとに俺・・大嫌いだから。あの女のこと。』 『・・・・・。』 圧倒された。比呂の言葉の全部に。 救いようのナイ事ばっか言う比呂のことばに圧倒されて、思わず黙る俺。 比呂は、また俺の隣のブランコに座る。 『・・・でも・・お前の兄ちゃん、なんで説得したの?みーちゃんのために?おばちゃんのために?』 『・・・・わかんないけどな・・。』 『お前よりも長く、おやじみてきて、よっぽど苦労させられてきたんだろ?』 『・・・・うん。』 『・・・・俺はそういうの・・わかんねーけど・・。』 『・・・・・・。』 比呂が遠くを見る。そしていう。 『さっきの話・・・母親に文句言う前に、俺をあそこまで嫌った理由を聞いてみたいな。』 俺は比呂を見る。比呂は俺を見る。 『・・・・あいつはいないから、もうそれはできねえけど。なんであんなに俺が憎かったんだろ。あの女。』 悲しそうな目。・・比呂の目はいつでもなんか悲しそうだ。何かを一人で考えていて、遠くのほうばかり眺めている。 『・・・・麦は、麦が思うようにすればいいと思うよ。文句もいってやれ、一発ぶん殴ったっていいとおもう。 それぐらい辛い思いしてきたんだし、そうおもうのは当然の事じゃねえの?』 『・・・・・。』 『どっちにしたって・・お前が幸せなほうに俺はつく。』 『・・・・。』 『お前がおやじさんを受け入れるにしろ、否定するにしろ、 俺はとにかくお前が自分の幸せのために選んだほうを、支持するよ。』 『・・・・。』 『がんばれ。』 ・・・・。 『・・・ありが・・・とう』 思わず口から出た言葉が、あまりにガキっぽくて驚いた。 でもそれ以外に、今の俺の心境に当てはまる言葉がない気がしたんだ。 ここ数年の俺の苦しみを、こいつが全部肯定してくれたようにおもえたから。 父親を恨んでいることを、母親や親戚のみんなから、注意されてきた。 『気持ちはわかるが、大人になりなさい。』とみんなが口を揃えていった。 母親は自分が捨てられたのに、 『それでもあんたのお父さんなんだから、あまり悪く思わないようにしなさい。』 といった。 少なくとも比呂のように、『そんな男、許すな』なんて、いってくれる人はいなかった。 比呂は・・生涯に出会えるか出会えないかわからないくらいの親友だと、本当に思った。 こいつと双子でもなんでもないのが、不思議なくらいに、比呂は俺の心にぴったりとくる。 かわいい顔。かわいい声。そして、俺を思って、暴言を吐く比呂。思わず俺は、泣きながら微笑む。 ・・・あーあ。俺、比呂と結婚してえ。 俺の父親の事を文句言いまくった比呂は、そのうち少し冷静になって、 口数が減って、表情も曇って、しまいにはかわいいことを言い出した。 『俺・・お前の父ちゃんのこと・・・散々いって・・ごめんな?』 おもいっきり爆笑してしまった。こいつのこういうとこが、ほんとこまる。 『いいよ、別に。オヤジが悪いんだ。』 『ごめんな、お前のオヤジ』 『あははは。』 ・・・・ふふっ。バーカ比呂。 携帯に俺の妹から電話がかかってきて 『お兄ちゃん、どこにいってるの。』って泣いてるから家に帰ることにした。 告白は当分お預けだ。 比呂と笑顔で別れた。 その笑顔を心の中で何度も繰り返しながら、家に帰った。 父親はもういなかったけど、今度来たらちゃんと向き合おうと思う。 俺だってもう、人を愛する気持ちは知ってるから 納得いくまで、文句を言い続けてやろうと思う。 そう決意して、ベッドの上。枕に顔を埋めると比呂の笑顔ばかりが浮かんでくる。 幸村が隣にいない比呂。俺の事を考えてくれてる比呂。 ・・・・・俺の気持ちに気がついてくれねえかなあ。 |
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