初雪 今朝。光が丘に初雪が降った。 粉雪がボタン雪みたくなっていってさ、超きれいでうれしくなって 早く比呂に会いたくて学校に急いだ。 駐輪場をみたら、比呂はまだいなくて俺は階段のぼって教室に行く。 途中で外を見ている麦に会った。 すごく悲しそうな顔で外を見てるから、『よ☆』て声かける。 『綺麗だねー。雪。』っていって、麦の肩に顔をのせたら、 寂しそうな顔で『そうだな。』って麦はいった。 比呂をそのまま廊下で待とうと思ったけど、いかにせん寒くって 教室に入って、小沢に抱きついて暖をとる。 さむいさむい。凍えてしまいますぞ。比呂ちゃん。早くきておくれー。 そんな風に思ってたのに、比呂はHRはじまっても、教室には来なかった。 坂口が俺の代わりに先生に聞いてくれる。 『てんてー。紺野比呂はどしたんですかー。』 先生は、顔を上げて一言 『遅刻らしいよー。家から電話あった。』 小沢が俺のほうを見て、口の動きだけで『どしたのかな? 』という。 ・・なんにも聞いてないよ。知らないし。俺はとたんに不安になった。 2時間目がはじまって、10分位した頃に比呂が来た。 『・・・おはよーござい・・・まーす。』 みんなで比呂を茶化しまくったんだけど、俺は何もいえやしない。 席に着くとき比呂が俺の頭をぽんっとたたいて、通り過ぎた。 ・・・・バカ比呂。 二時間目が終わって休み時間。俺は比呂のとこに駆け寄る。 そしたら麦が教室に来た。比呂は麦と目が合うと、寂しそうに笑う。 俺は、なんかそれをみて嫌な気分になった。 何それ・・・目と目で通じるみたいなかんじ。 比呂に抱きついて、俺はむくれる。 『夫婦喧嘩?』小沢がへへって笑った。 昼休み、みんなで廊下で飯を食った。俺はぴったりと比呂に寄り添った。 そん時に比呂の話を聞く。比呂は、コンビニ弁当を食いながら話してくれた。 『今朝、学校にいこうと思って、さや抱っこしてちょっと遊んでから、 玄関のほうにいったんだ。そのちょいまえに、おじちゃんがさ、外に新聞を取りに行って。 で、俺が玄関を開けようとしたら、外から玄関をおじちゃんがあけて、 俺突き飛ばされて家の中にぶっ倒れたの。いきなりだったから受身取れなくて。』 『・・・・。』 『おじちゃんが、泣きそうな顔して、大声で「カーテンしめて」っていうんだ。 何をいってるんだろうって思ったんだけど、おばちゃんが家中のカーテン閉めて 俺は玄関のとこで、おじちゃんに目をさ・・押さえ込まれてたの。』 『なにそれ・・・。』小沢がいうと、比呂は口角をペロッと舐めて、そんで話を続けた。 『雪を見せたくなかったみたい。俺の父親、初雪みたら、死んじゃったから。』 『は?』 『ただ降ってる雪に驚いて、そのまま死んじゃったんだ。その時おじちゃんもいたからさ。』 思わず黙る俺たち。俺はその話を知ってたけど・・・ でも、今日、降る雪を見たとき、そんなことを思い出したりはしなかった。 ・・・・・もしかして麦は・・ 麦はそれを知ってて・・・・それであんな悲しそうなかおをしてたのか? 麦がなんでそれをしってんだ?俺は、胸がズキンとした。 俺の隣で、坂口が比呂の話を聞いてシクシクしだした。 『や、泣くことじゃねえし。』そういうと、比呂は飯を食いだした。 『俺ね、今まで何度も雪はみてるのね。父さんが死んだときも、 初雪一緒に見てんだ。ただ俺は死ななくて、父さんは死んだ。 それをおじちゃんが気にしててさ。 今までも本当は俺に雪を見せたくなかったって、泣いちゃってさ。』 『・・・・・。』 『おばちゃんも泣くし、さやも泣くから、雪がやむまで家にいたんだよ。 カーテン開けて、雪をみまくって、「ほら、平気じゃん」っていっても あの人全然きかなくって。』 ・・・・・・負けた気がした。麦に。 俺・・・なにもそんなの、きづけなかったもん。 飯食った後、廊下のむこうから、じいちゃん先生が比呂に 『こんの〜・・・、ボイラー室の修理、手伝ってくれやー。』とか声をかけてきた。 比呂はそのまま立ち上がって、自分のロッカーに行くと 作業服の上と軍手をもって、先生のほうに走っていってしまった。 俺は麦をひっぱって、廊下の隅に行く。 『ねえ・・麦ってさ、比呂のお父さんの話、しってるの?』 そう聞くと麦は、コクンと頷いた。そして俺に寂しそうに笑う。 『比呂から聞いたわけじゃねえよ。あいつのおじちゃんが話してくれた』 『いつ?』 『一年の夏に、比呂が薬でぶっ倒れただろ?あのとき。』 『・・・そんな前から知ってたの?』 『ああ・・うん。』 ・・・・。 『みんなには何も言ってなかったじゃん。なんでいってくれなかったの?』 おれはつめよる。でも、麦は動じない。 『・・比呂のそういう話を、軽々しく誰かに言いたくなかった。ただそれだけだよ。』 『・・・・・・。』 こないだ、麦の家庭の話を、俺たちに話さなかった比呂のことを思い出す。 そしてそんな比呂と今日の麦の姿を重ねたら、悔しくなった。 俺と比呂は、恋人関係でむすびついているけど そんなものがなくても、比呂と麦は、ちゃんと強い絆で結ばれてる・・・。 昔、麦に対して抱いていた嫉妬心がよみがえってきた。 くやしい・・・。悔しい悔しい!!! 頭が痛くなったから、部活は休んだ。比呂が心配してくれたけど、無視をした。 雪なんか大嫌いになった。 昨日。みんなで飯食って楽しかったけど、そのときの麦の優しさが全部嘘に思えてきた。 俺より比呂のことを知ってて、心の底で笑ってたんだろ・・。くやしい・・・。 俺のほうが比呂をしってるよって、そんな風に思ってたんだろっ! 俺は家に帰ってすぐ比呂からもらったリングを外して庭にぶん投げた。 ・・・でも、すぐに外にいって、それを泥だらけになって探して拾った。 もー・・なおしたい・・。こういう性格。 麦の優しい気持ちも、比呂の俺への愛情も、わかってるのに・・・ 俺なんか消えろ。 2008/01/17(木) 17:34:23 |
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