2008/1/30 (Wed.) 23:46:23 母乳が止まってしまった。 1歳過ぎまでは絶対に、母乳で育てたかったのに。 さやの寝顔を見ていたら、悲しくなって涙が止まらなかった。 そんなとき、比呂がアルバイトから帰ってきた。 『ただいまー・・あれ?何した?』って声かけてくる。 『なんでもない。』って私が言うと 『なんでもないのに、泣くはずないだろ。どーしたんだよ。』って言われた。 『母乳が止まっちゃった・・。』私は素直にそういう。比呂はしばらく黙っていた。 比呂がきてくれて安心した私。これで心置きなく、落ち込むことができる。 『比呂・・・。 』 『なに?』 『やっぱり私、母親失格かなあ。』 自分の母親をなくした比呂に、そんなことを聞く私は最低な女だ。 『は?なんで?』そういいながら比呂は私の対面に座る。 『すぐくよくよしちゃうし、最近はさぼって布オムツやめちゃってるし、おっぱいとまっちゃったし。』 『・・・・・何をいってんだよー。もー。いつも頑張ってたと思うよ?俺は。』 この子の一言一言が嬉しい。 『・・・。』 『ほんとによく頑張ってたじゃん。くよくよすんなよー・・。もー・・。』 『・・・・・・。』 『さぼってなんかねーじゃん。寝る間も削ってサヤの世話してさー。』 『・・・そんなこと・・・。私は当たり前の事してただけ。』 そしたら比呂が、私を見た。 『全然当たり前じゃなかったとおもうよ?俺には絶対マネできねえもん。 っていうか、あんなに一生懸命で・・おばちゃん大丈夫かなっていつも思ってた。』 『・・・・。』 『俺たちは・・サヤのことも大事だけど、おばちゃんのコトだって、大事だよ。 乳がとまったのは、悲しいかもだけど・・でもそのおかげで、俺にも手伝いできるようになるしさ。』 『・・・・・手伝いはいつもしてもらってるじゃん!』 『俺には乳がでねえけど、その分ミルクで挽回するぜ!』 『ふふっ。』 思わず笑ってしまう。でも比呂はちょっとだけ笑顔をみせたあと また、いつものあの・・どこか寂しそうな顔で私を見て言うのだ。 『・・・乳がでなくなったんなら、おばちゃんゆっくり眠れるじゃん。 飲ませないと痛くなるとかさ・・・そういうのがなくなるわけだしさ。 夜中のミルクとかオムツとかは、俺も時々かわるからさ。 体の状況が一個変わったんならさ、俺らの関わり方も、変えていこう。』 『・・・・。』 『一生乳がでるわけじゃねえじゃん。ちょっと人より早かっただけだよ。』 『・・・・・。』 『おかげで俺は、その分、少し多めにサヤにミルクをあげられるわけだしさ。』 『・・・・。』 『・・・俺、卒業したら家を出るよ。』 『え?』 ・・・・・・・突然の事に言葉を失う私。そんな私に比呂がいった。 『おじちゃんにはまだ言ってないんだ。』『・・・・。』『内緒にしといてよ。・・・おかーさん。』 呆然とする私の前で、比呂が立ち上がって私を見た。 『もう一回、言ってみて。』私がそういうと、比呂がふっと笑って『おかあさん。』という。 どうしていいのかわからなくて・・・涙がぼろぼろと出てきた。 『どうして?』そういきくと、比呂は少し考えた後言う。 『俺がいつまでも、おばちゃんの事をおばちゃんって呼んでたら・・ サヤが間違えて覚えちゃうかもしれないし・・・兄弟で・・呼び方変えてたら変じゃん・・。』 『・・・・・。』 『・・・いや・・。そうじゃなくって。』 『・・・え?』 そこに主人が仕事から帰ってきた。私と比呂の様子をみて驚く。 『どうしたんだ?』と、比呂に声をかけてくる。 『おかえり。おとーさん。』そういわれて主人は、目を丸くした。 比呂が私のほうを見た。話の続きを始める。 『疲れちゃったんだ・・・。俺、何度も言い間違えそうになってた。 おじちゃんをお父さんってよびそうになったり、おばちゃんをおかあさんってよびそうになったり。 そのたびに、あっぶねーとかおもって。俺がそんな風に呼んじゃあだめだって。』 『・・・・。』 『・・・・うん。』 『でも・・やっぱそういうの・・おかしいじゃん。 同じ家にいるのに、おかあさんだったり、おばちゃんだったり、俺とサヤで呼び方変わったら・・。』 『『・・・・。』』 『混乱させたくないし・・普通の家庭で育ってほしいから、だから・・』 『・・・・・。』 『・・・・比呂・・。』 『・・や・・って言うか・・・俺が・・。』 比呂が主人の顔を見て、涙をいっぱい溜めた目で言った。 『俺が・・そう呼んでみたかった・・。』 死ぬまでに一度は、私たちのことを『お父さん』『お母さん』と呼んでみたかったという。 でも、ほんとの子供じゃない自分が、そういってもいいのかと考えると・・言葉にする勇気が出なかったのだと。 ばかね。私は、とっくにあんたのこと、息子だって思ってた。 思ってたから『比呂』と言う名前を、何度も呼び捨てで呼んできたんだよ? 私はその名前に関わっていない。 決めたのは比呂の本当の母親であり主人の浮気相手でもある人だった。 そんな女の産んだ子供を育てるなんてありえないと思ってた でも、初めて比呂を見た瞬間、そんな気持ちは吹き飛んだの。 この子も犠牲者なんだって。 私達は、沢山の困難を乗り越えてきた。実際乗り越えてきたのは比呂で、私はただ見守っていただけだ。 比呂は、なんか照れたように笑うと『今日、ちょっと疲れた。少し寝る。』といって二階に上がっていってしまった。 でもすぐにドタドタと階段を下りてきて、私に言う。 『つらかったらミルクかわるから。言って。言えよ?俺、起きてサヤにやるから。』 残された私と主人は、夫婦でしばらく呆然とすると こみ上げる喜びに思わずだきしめあってしまった。 |
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