2008/2/21 (Thurs.) 23:55:14

バイト帰りの比呂をつかまえて、公園で一服する。

『慣れたかー。独身生活』比呂は俺をみると
『慣れるわきゃねーだろ。』といって、煙草を吸った。

いい加減、ストーカー疑惑がでそうなくらい比呂に付きまとう俺。
ここんとこ、毎日会ってる。俺のために割く時間が、比呂に出来たからなんだけどな。

『・・それにしても、よく別れられたな、お前ら。』
俺が言うと、比呂がふふっと笑った。

『ああ。まあね。やっぱどーにもなんねーことってあるわ』
『・・・弱音か?』
『・・・さあな。』
『泣くなら胸かすぞ。』
『男の乳なんかで泣けねーよ。』

・・・比呂は、結局、ユッキーと一度もヤらなかったのかなあ・・。
ま、別れた今は、絶対にあいつとヤってることはない。
比呂には悪いけど、そういう面でモヤモヤ悩まずにすむことは、俺にとっては、すごくあれだ。
うん・・。今のこいつは、とりあえず誰ともキスやセックスはしてない。

『なあ比呂・・。』
『・・・えー・・? 』
『今度、合コンでもしねえ?』

俺が必死に考えた言葉を、比呂が鼻でわらう。
『しねえよ。当分そういうのはいい。』
俺は『あ・・そ』と一言言って、煙草を吸って大きく吐いた。

『なーあ。麦ぃ。』
『んー?』
『お前、ユッキーにどこまで聞いた?』
『え?』
『成り行き。お前に話したっていってたからさ』
『ああ・・。お前こそ、どこまで聞いた?』

比呂が煙草を携帯灰皿でもみ消して、二本目の煙草に火をつける。

『・・さあなー・・。多分お前と同じような感じかな。エロ本の抜粋のような体験談だよ。』
『・・・・・じゃ、俺と同じだ。』
『あと、ラブファンタジーな。』
『・・・・・。』

比呂が俺を見る。
『わりい。お前、聞いてなかったら忘れて欲しいんだけど』
『なんだよ。言えよ。』

俺は比呂の携帯灰皿で自分の吸ってたタバコをもみ消し
二本目を取り出したら比呂が、すっとライターをさし出してきた。
俺は煙草を咥える。比呂が無言で俺の煙草に火をつけた。

『・・ユッキーがさ、女の子にさー・・生まれ変わったらなんとかっていわれたの、きいた?』
『ああ・・。うん。幸村が「いいよ」って返事したってあれだろ?』
『ああ。うん。』
『・・それがどうした?』

比呂は煙草を夜空に吐き出した。しばらく無言。遠くのほうで電車の音がする。

『・・俺は・・・輪廻信仰とか大嫌いなんだ。生まれ変わりなんか、絶対嫌でさ。
今の自分の人生が大好きだから、俺はこの人生で、終わりたいのね。ほんとに。』
『・・・お前らしい考え方だな。』
『・・・。』
『・・・で?』

少しだけ前に歩く比呂。俺は比呂の後姿を見守りながら煙草を吸い、そして吐く。

『・・で、どうした?』
『ああ・・。でね。』
『おう。』
比呂が振り返って俺を見て話し出す。

『・・・でも、幸村と一年付き合って、輪廻ももしかしたら悪くないなーとおもったんだ。』
『・・・・・。』
『もし、またあいつがいる世界に生まれることが出来るなら、俺は生まれ変わってもいいなって、思ったんだ。』
『・・・・。』
『あいつが人で、俺が犬でも、俺が石でも、俺が親戚の子供でも・・なんでもいい。
ただ、譲れない条件は、幸村がいること、それだけで。それなら生まれ変わってもいいって思ったんだ。』
『・・・。』
『お前、そういうのってわかる?』
『・・・・わかるよ。』

生まれ変わったら俺は、比呂を俺のものにして絶対離さない。

『・・・俺、そういう風に考えるようになるまで、スゲエ時間がかかったんだ。
それぐらい大事なことだとおもったんだ。生まれ変わったら〜・・・的な話って。』
『・・・・。』
『そういう約束は・・すごく大事なものだと思うんだ。ユッキーって乙女思考でさ。
とにかく俺の考え方に対しても、やれ浮気だなんだって、言いまくってたくらいじゃん?』
『ああ。・・・だな。』

・・・笑えねえな。そのオチが自分でしでかした浮気かよ、あのピンク。

『そういうあいつが、その女の子と、そういう約束しちゃったんだって思ったら、
もう、駄目だなっておもったんだ。あいつの心の中で、なんかが動いたんだなって。』
『・・・・・。』
『恋愛は勝ち負けじゃないと思ってたけど、・・勝ちはなくても、負けはあるね。』
『・・・・・。』

どーいう意味って聞こうと思ったとき、比呂が目を閉じて、溜息をついた。

『・・・なんか迷子にでもなったような気分だ。』


***

家に着くと小学生の妹が、ちょうどトイレに起きた様で
『怖いからついてきて!』って言われて、便所の前に座らされた。

心臓に矢が刺さって痛くて死にそうだ。なのにちっとも抜けやしない。
恋の矢ではない。きっとこれは、嫉妬の矢だ。一番タチがわるい。

何であそこまでした幸村を、比呂が大事に大事にしてるのか全然俺にはわからないし、
そこまで大事に思われている幸村が憎くてたまらない。

恋愛は不公平だ。理不尽だ。全然美しくない。

退屈しのぎでも、憂さ晴らしでも、なんでもいい、一度でいい。比呂を抱きたい。
あいつを俺のものにしたい。
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