スカイ ブルー スカイ

比呂の寝顔を携帯で撮って、待ち受けにしてる。今日も、いい天気だった。
何枚も何枚も、比呂の写真。携帯にいっぱいになるほど。笑顔や寝顔や後姿や・・・あとね

2人でつないだ手を・・ただそれだけを撮った写真。

比呂にわめき散らされたあの日・・浮気した俺に比呂が感情をぶつけてくれて
もう一度、一緒に歩いて行こうって、繋いだ手を・・比呂が携帯で撮った・・その写真。

こないだ、比呂が寝ている間に、俺、自分の携帯に送っておいたんだ。
・・今みてみたら、泣けてきたよ。好きな人の手・・。あー駄目だ・・。

*********

今日ね、あんまりゆっくり会えなくってさ。
部活だの塾だのバイトだのでさ、2人きりで会えたのは1時間足らずだったんだ。
比呂の夕飯休憩の時間・・。

6時から50分だけ。たった50分だけど、デートした。
比呂が気を使ってくれてね、カフェのテイクアウトでパンとコーヒー買ってさ
公園で食おうっていってくれたんだ。2人きりになれるようにね。
部活後にすぐバイトだったから、ゆっくり店とかで食いたかっただろうにさ・・。

いろいろな話をしたよ。店とかじゃないから、気兼ねなく。
『俺のどこが好き?』ってきいたら、ふふってわらって『何個まで?』っていう。
そんな風に聞き返してくるなんて思ってなかったから、俺、なんか照れちゃって
『いいよ・・何個でも・・。』っていう声が上ずって、超はずかしかった。
比呂は、そんな俺を見て微笑む。

『・・・そうだなー・・色々ありすぎて悩む。』
『えー?』
『結局お前の全部が好きって感じの答えになっちゃうと思うよ? 』
『えー?!』
『とりあえず今は、その猫舌だな。』
『え?』
『どんだけフーフーしてんだよ。飲めよコーヒー!』
『だって熱いんだもんよ!!!』


足を蹴飛ばしあって、そのあと少し黙ってコーヒーを飲んだ。
ふう・・。顔を横に向ける。比呂の顔。・・・・・・・・好き。
俺の視線に気づいた比呂が、俺のほうを見て、そして笑った。
『ねえ。』っていうから、俺は首をかしげた。なに?話があるの?

『お前さ、究極の選択とかって、どうこたえる?』
『は?』
『俺と家族とどっちが大事?とか、俺にいわれたら困るだろ?』
『うん。』
『だよなー。俺も困るもんな。』
『・・・・・・。 何でいきなりそんな話・・。』
『ああ・・。こないだ岸先生と語ってさー・・。』
『え?』

比呂は、コーヒーをぐいっと飲むと、遠くを見ながら話し始めた。

『あの人先月、彼女にさー生徒と私のどっちが大事?っていわれたんだって。』
『・・・・・。』
『家で彼女が作った飯をくってるときに、聞かれたんだって。突然ね。』
『うん・・。で、どう答えたのかな・・。』
『・・・そんなことを聞かれても困るっていったんだって。』
『・・・・・・。』
『でも、それを思い返して、反省してるとか言うの。大事なお前らを選べなかったことを
とても後悔してる・・とかいってさ。』
『ああ・・。』

比呂は、俺を見た。
『バカだよなー。あの人も。』
『え?』

・・・・・なんじゃそら。
岸先生の言ってることは、すごく立派なことだとおもうけど・・・。
比呂は、疑問符を頭の上にでかでか掲げてる俺の事なんか無視して話を続けた。

『国民の前で誓うわけじゃねえんだぜ?岸先生がどっちも大事にしてるのは
俺らも彼女さんもきっとわかってる。だから、どうだっていいんだよ』
『は?』
『生徒が大事っていっても、彼女が大事っていっても、どっちだっていいってこと。』
『ああ・・・そう?』
『うん。だからさ、彼女に聞かれたんだら、
「なにいってんだよ、お前にきまってるだろ?(低音)」っていってやりゃいいじゃんなー。』
『何故ゆえに低音・・』
『別にそんなの、俺らにとっちゃ、どうでもいいことじゃんか。「あ、そうなの」・・終わりみたいな』
『まあ、そうっちゃーそうだけど。』
『でも、彼女の場合は違うじゃん?』
『・・え?』

比呂は立ち上がって、煙草に火をつけた。煙を吐く。そして俺を見る。

『わかってんのに、それを聞く。岸先生の彼女って、もう大人の女の人じゃん。』
『・・・うん。』
『かわいいとおもわね?』
『は?。』

『そんなことを聞いてくる彼女、かわいいとおもわねえ?』
『・・・・・・・。』
『そんだけ不安になったってことだろ?教師の彼女が彼氏の気持ちを
ただ試すために、そんなことをいうとは思えねーのよ。』
『・・・・。』
『自分を選んでほしかったんだろうな〜。くっそ、かわいいな。』
『(・・さっきから、かわいいかわいい言い過ぎムカツク)』
『だから、俺、いってやったんだ。』
『は?』

『先生はー・・そんなこときいてくる彼女を間違ってるっていうけどーそうじゃないと思うよって。
両方大事なんだって、そういう天秤にかけられないとか・・それこそ間違いだと思うよって。
彼女のいってる『大事』は、先生が俺らを『大事』って思ってくれてるその『大事』とは違うんじゃねえのってさ。』
『・・・・・』
『岸先生は、俺らと結婚したいとか、そういう風に思ってるわけじゃねえでしょーって。』
『・・・・・・。』
『第一、岸先生が、彼女を選んだことを俺らが聞いたって『あ、そ』で終わりだぜ?って』
『ははは』
『だけど、彼女に対して「生徒が大事」っていったとしたら、きっと『あ、そ』じゃ終わらないだろ。』
『・・・・。』

うん・・。そうだね。

比呂が携帯灰皿で煙草もみ消して、俺の隣にまた座った。
だから俺、きいてみたんだ。『家族の人と、俺。どっちがだいじ?』

比呂は、笑っていってくれたよ。

『俺には那央が大事だよ。』

********

繋いだ手の写真を見ながら、俺は比呂の言葉を思い出していた。『俺には那央が大事だよ。』

その言葉で俺が、あいつの家族より立場が上になったとは思わなかった。
比呂は、俺の事もご家族の方たちも、両方大事にしているし
むしろ俺には、あいつの家族の人たちに、かなわない部分のほうが多いと思う。

だからこそ、すごくうれしかった。 口先だけでも、俺を即答で選んでくれたことが。
岸先生の彼女さんも、俺ら生徒と自分のことを、天秤にかけたわけじゃないんだ。

ただ単純に、自分を選んで欲しかったんだね。・・・・わかるよ、その恋心。

答えのわかっていることを、あえて聞くのには理由がある。
理由を生み出している原因を、取り払うのが男の役目だと比呂は言う。
その理由ってのは、きっとさみしさ。苦しみ。その類。

俺の頭上の空が、今日も抜けるように青く見えたのは
地面ばかりを見つめて歩くような精神状態を脱することが出来た俺が
比呂の肩越しに広がる青空を眺めることができたからだ。

比呂と繋いだ手。比呂の寝顔。いっぱいの写真。
小沢にたよらなくっても、自分で撮れる。好きな人の生活を
ぱしゃっと撮って、見つめては満たされる。

それでも、足りなくなったとしたら、俺もきっと言葉を求めてしまうんだろう。
明日はデート。早く会いたいな。会いたくって震えちゃう。

2008/03/09(日) 00:08:15
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