ごめんなさい

バイト上がりを狙って比呂に会いにいこうと思ったんだけど・・
携帯に電話してもでないから、店に直接いったんだ。
そしたら4時ごろ早退させたっていうんだ。カフェのほうにハルカさんがきてて。

顔色が悪かったんだって。2時からバイトに入ってたんだけど、最初はすごい普通で・・
でも3時半に休憩があって・・、そんときにさ・・・比呂、休憩室のソファの上で
横になってたみたいなんだけど・・お腹抱えて、痛そうな顔しながら寝てたんだって・・。
だから、ハルカさん・・比呂が無理してんのを察して、そんで帰してくれたみたい・・。

・・みんな・・そうやって比呂のことを気遣ってくれてるのに・・
肝心な俺は、何も比呂を思いやれてない・・

迷ったけど、家に押しかけた。

家のチャイムを押したら、さやくんを抱っこしたおばちゃんが俺を出迎えてくれて・・
『比呂は寝てるけど、部屋はいっちゃっていいと思う。』って俺を家に上げてくれたんだ。

『ユッキー君、そろそろ比呂も喉が渇くだろうから、飲み物頼んでいい?』といって
おばちゃんが、ジュースやら菓子を用意してくれた。
俺はお辞儀をしてそれを受け取り、二階に上がって比呂の部屋のドアを開けた。

脱ぎ捨てた上着。すっごい適当にしめられたカーテン。
携帯も床にぶん投げられてた。机の上に・・見慣れない薬。
ちゃんと病院の薬だから、もしかして胃薬なのかな・・・。
俺は比呂が起きないように、そっとカーテンを閉めた。
そして比呂のお腹を、そっと擦った。

比呂が目を開ける。・・・目が合った。卑怯だとおもったけど、涙は止められなかった。
『ごめんね・・・。』そういうと、比呂は寝起きで半分ボケたような動作で
それでも俺を撫でてくれた。

溜息つく。お互い。比呂はだまってる。顔色、あんまよくない。
俺・・・すごく悩んだんだけど・・比呂に打ち明けた。麦や坂口に相談したことを。

『・・今日・・比呂が帰った後・・麦と坂口と飯食いに行って
あいつらに・・相談したんだ・・。比呂を怒らせちゃったって事。』
『・・・・・・は?』
『・・・俺・・まだそのとき・・なんもわかってなくて・・お前とヤったこと・・いっちゃった・・・。ごめん。』
『・・・・・・・・。』
『・・麦と・・坂口に、色々言われて・・そんで俺が悪かったって心から思った。
ごめんね・・・。もう言わないから・・・だから・・仲直りして欲しい。』

比呂は・・ぼんやりとしたまま、しばらく何も言わなかった。
5分くらいたったころ、重い口を比呂が開く。

『麦や・・坂口にまで言われたら・・俺もう・・なんもいうことねえよ。
・・って言うかお前・・・そんなに簡単に人の気持ちを扱わないでくれない?』
『・・・・・・』
『・・・もう言わないから仲直りとか・・そういう言い方、スゲエむかつくんだけど。』
『・・・・・。』
『小沢に色々話された挙句・・麦や坂口にまでベラベラ喋られたことは・・
俺にとっては・・これから色々考えなきゃならないことなんだし・・
お前に謝られようと何されようと・・俺の立場的には何一つ・・
解決なんかしてくれやしねーんだけど。』
『・・・・・・。』

ズキっときた。比呂が起き上がる。

『俺・・・前からお前に色々言ってたよな。されて嫌なこととか、言われて嫌なこと。』
『うん・・。』
『俺、あんだけ真剣に話してきたのに・・なんで一番されたくない事から、
どんどんお前はしていくわけ?』
『・・・・・・。』
『そのたびに、許せ許せって言われるけど・・許すとかそういう問題じゃないよ。
浮気のときもそう・・お前は許してもらえて終わりと思ってるかもしんないけど
俺はそんなに単純じゃないよ。だって普通そうだろ・・。』
『・・・・・。』
『謝って終わるのは、俺とお前の2人だけでなんか喧嘩した時。
他の人間が関わっちゃったら、そうはいかない。それくらい理解しろよ。
浮気のときは、相手の女の子。今度は小沢と麦と愉来。
関わった奴の心を切り離して考えるなよ。』
『・・・・・。』

比呂は、溜息をついた。泣きじゃくってる俺に何を言っても
駄目だ・・とか諦めてるのかもしれない。
比呂が黙っちゃったから、俺、必死に堪えながら、自分の気持ちをいった。

『だって・・誰かに言って・・俺たちの事、知っていてほしかったんだもん。
2人の間だけの思い出に・・証人をつけたかったんだ・・。
こんなに愛し合ってるのに・・人ごみで手を繋ぐこともできない。
人から見えないとこでじゃれあってても・・何も証拠が残らないじゃん。』
『・・・・・・・・。』
『比呂はっ・・そういう感覚がないからっ・・だからそんなに冷静でいられるんだ。
家族の誰にも自慢できない。学校でもあんまりいちゃつけない。
いつも俺たちがラブラブなのは、2人きりの時だけ。
俺の夢か幻想の世界の出来事なんじゃないかって・・いつか消えるんじゃねぇかって・・
不安になるんだもんよ・・・。怖いんだもんよっ。』

比呂は・・唇をかみ締めた。目を閉じる。・・オデコのとこ、汗かいてる。
きっとお腹が痛いんだろうな・・。でも俺には言わない。お腹に手をあてることすらしない。
ふうっと深呼吸をした比呂が俺を見た。・・・さみしそうな目。そして俺にいった。

『・・じゃあもうやめるか?』

・・・・・俺は、とっさに比呂にしがみついて泣いた。
比呂は俺の背中を擦ったあと、俺の頭をぽんっとたたく。

『那央、俺の携帯とって。』

俺は比呂に言われるがままに、携帯電話を拾って渡す。
比呂は、俺から携帯を受け取ると、誰かに電話をかけ始めた。

『・・・もしもーし。俺ー。ごめんな。今日、那央がへんなこといっただろ。
・・うん・・うん・・・。そう。ちょっと色々あってさ。
俺らはなんもしてねえし、これからもする予定ないからさ。
うん・・・うん・・。そう。ごめんな。
ああ、うん。大丈夫。・・うん。わかった。じゃあな。またあした。』

・・・・比呂は一旦電話を切ると、また誰かに電話をかけて
同じような内容の事をいい、電話を切った。そして俺を見た。

『麦と愉来に電話した。話はきいてたからわかるよな。』
『・・・・・嘘ついたの?』
『・・・・・・・。』
『やってないって嘘ついたの?』
『・・・・・・・。』
『友達を・・だますの?』

そのとき、比呂がテーブルを蹴飛ばして俺を睨んだ。
『嘘ついたり、ごまかすのが嫌だったから、俺はあいつらにそういう話をしないできたんだろっ。』

・・・・・。

・・・・・・・ごめんなさい。


俺はバカだ・・・。比呂たちが延々と俺に言ってきたことにやっと気がついて・・
自分に失望した。ほんとに心から思った。・・俺のした事は最低だ・・・。
涙が止まらない目で比呂をみつめる。
『どうしよう・・・・・。』俺は比呂に泣きついた。

そしたら比呂が俺の右手を、自分の腹にそっと触れさせる。
『・・・どうするかー・・・。ほんとまいったな・・・俺、胃が痛い・・。那央、さすってくれる?』
『うん。』
比呂はベッドに横になった。俺は比呂の腹を一生懸命擦った。
そしたら比呂が両手で顔を覆いながら話すんだ。

『やっぱねー・・・・。やっぱむずかしいな・・。
俺は全然お前ほど、男同士の付き合いを窮屈だとは思ってねえの。
ただ、お前がいて笑ってくれれば、それだけでちゃんと満たされる。
どうせその程度の気持ちしかないんだろっていわれたら、
返す言葉がねえんだけど・・でもな、そういうのはやっぱ、
もともとの考え方の違いだと思うんだよね・・。』
『・・・・・。』
『実際お前の言ってる事だって・・考えてる事だって理解できる。
だけど・・だけど、それでもやっぱ浮気されたくなかったし、友達にエロ話されたくなかった』
『・・・・・・』
『お前は俺にはどんだけ我侭言ってもいい。俺に対して不満があるなら、
小沢に相談にのってもらってもいいとおもう。だけど、俺たち2人の大事なことを・・
勝手に誰かに喋るとか・・もう絶対やめてほしいんだ。』
『・・・・・。』
『普通のおデートとかのはなしとかなら、別にとやかく言うつもりない。
ただ、お前にしか見せてない顔を、無神経に他所で明かされるのは絶対嫌だ。
だからもう絶対いわないで。まじで。』

結局俺・・許されて・・・そのあと、ゆっくりキスをした。

『もうしないって言ってたじゃん・・。』うっとりしながら俺が言うと、比呂は、俺を抱きしめながら言うの。
『実際したって「してない」っていう。俺はそのたび、嘘をつくことになるけど・・
こんなことになったんだから、何百回嘘つくことになっても仕方ねえし。
将来、俺たちがどうなっても、俺は友達には「してない」って言い切る。この嘘は一生つき通す。』
『・・・・・俺、嘘つききる自信ない・・。誰かに聞かれたらどうすればいい?』
『お前が誰かにきかれたら「そういう事は比呂にきいて?」っていいな。そうすれば俺が答えるから。』
『・・・うん・・。』
『・・それと・・・。』


そのあと比呂がいったこと。

お前が潤也に、色々と打ち明けたことを俺、とがめたけど
考えてみたら潤也はお前の親友だから・・俺が口出すことじゃなかった。
だけど、俺にとっても潤也は友達だっていうことは、絶対忘れないで欲しい・・・・って。

そして、もしこの先、また似たような事を潤也に話して
相談にのってもらうような事があるなら・・
そのときには絶対に、俺にわからないように2人の秘密にしろ・・・だって。


・・全部の言葉を絶対に忘れないようにしようと思う。
本当に・・・ごめんなさい・・・


2008/03/11(火) 23:46:41
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