怖い。

昨日・・比呂にから揚げ作って・・そんで店にいった。歩いて。
そしたら比呂がスタッフルームからじゃなくて、ハルカさんの部屋から出てきたんだ。
どしたのかな?って思ったけど・・、俺がきょとんとしてたら比呂が笑ってくれて
『その服、初めて見る。買ったの?』っていうから、気づいてもらえたのがすごくうれしかった。

比呂が駅前の有料駐輪場にチャリをとめて、そこから歩いてラブホにいった。
やっぱやるのかな・・・って、ドキドキしてたんだけど、ちょっとそんな雰囲気じゃなくて。
ベッドに座った比呂の隣に俺も座ったら、比呂が俺を見て
『お前の・・悩みって・・もしかして進路の事?』ていうんだ。

体の真ん中がズキっとした。だって図星だったから。

『話したくなかったらいいよ。だけど、俺に何かいいづらくって
悩んでたりグルグルしてるんだったら、今いっちゃいな。大丈夫だから。』

・・・・1ミリの狂いもなく俺の心を言い当てた比呂。顔を見つめたら、
ぽけーっとした目で俺を見つめてる。力んだ心が解きほぐされた。言おうって決めた。

『京都の・・大学に行きたいなって思ってて・・
だけど、遠いじゃん?だから・・・比呂と離れないといけなくって。』

比呂はしばらくぼんやりした後、小さいかすれ声で『京都?』といった。
頷いたら、少し目を泳がせるような表情をする。比呂・・・すごく考えてる・・。どうしよう。
そして目が合う。・・・・なんだか逃げ出したい気分になった。

『ごめんねっ・・俺・・。』何故か口が勝手に謝る。
比呂はその声にビクっと驚くと、『なにが?』といって、首をかしげた。
『遠くに行くとかワガママいったから・・ごめん。』
『・・・なんだよ・・。将来の夢だろ?ワガママなんかじゃないよ。』
『・・・・だけど・・・わざわざ遠い大学選んで・・・。』
『別に・・俺を遠ざけたくてそういう大学を選んだわけじゃないんだろ?』
『そうだけどっ・・・だけどっ・・・実際受かったら遠くなるよ・・。』
『ああ・・うん。』
『・・・・別れる?・・俺たち・・・。』
『・・・・・・・。』
『だって・・教室が離れただけでもこんなに駄目なのに・・静岡と京都になっちゃったら・・』
『・・・・あー・・っていうかー・・。』
『・・・・・?』
『横浜と京都。俺、卒業したら引っ越すから。』
『・・・・・・。』


ええ〜〜っ??!!




なんか、全然思いつきもしなかったようなことを言われて、俺は放心状態になる。
比呂が俺の頭を少しだけ撫でて、それで話をし始めた。
『クロールの支店をー・・横浜あたりにつくるらしいの。そこの店長やらないかって言われて。
正社員になってー・・うん。しばらくは秋山さんも向こうに行って2人で店やって・・・
バイトとかが仕事覚えてくれるようになったらー・・俺だけ残って、店やってくことになった。』
『・・・・そんなの・・・聞いてないよ・・・?』
『うん。お前には話さなかったから。お前が色々悩んだように、やっぱ俺も距離が気になって。
だけど、一生店をやっていくかわかんないけど、今はあの仕事がすごく楽しいし・・
とーさんやかーさんには相談したんだ。それで、今日ハルカさんに返事して・・で、うん。正式に決まった。』

おじちゃんや・・おばちゃんには・・相談してたの・・・。俺は後回しだったの?
なんか悲しくなってきた。でもね、そしたら比呂が言うんだ。うつむいた俺を覗き込んで・・。

『那央・・。聞いて。俺がいいって言うまで、黙って俺の話を聞いて。
お前に相談しなかったのは、お前がどーでもいいからとか、そういうんじゃないんだ。』
・・うん・・。
『那央を・・那央の存在を意識しちゃうと、俺、身動き取れなくなっちゃうのね。
変な意味でとられると困るんだけど・・やっぱりお前は何より大事だから。』
・・・・うん。
『一緒にいたいのはあたりまえだし、暮らす場所だって近いに越したことはないよ。
でも、やっぱり・・それを第一に考えちゃったら、俺、駄目になる気がすんの。』
・・・・。
『那央が京都の大学に行くってきいて、なんか安心した。
お前も俺も、将来を考えた時に、まず自分の考えを優先できたじゃん?』

・・・・・・涙でそう・・。思わず言葉が口に出る。

『自分を優先させたってことは・・相手を優先できなかったってことじゃないの?』
涙が出た。だって・・だって・・・。・・・・だって・・。
比呂は、俺をみた。そして『違う。』と一言、強い口調ではっきり言った。

『優先なんかもう俺達はする必要がない。一緒に進めばいい、俺はそう思ってる。
周りとの関わりとか、将来の問題とか・・・優先事項があるとすればきっとそういうこと。
俺達は、目の前の困難を、一緒に考えて越えていくためにお互いがあると思ってる』

・・・・・・・比呂・・・。

『俺はお前が大事だよ。大好きだよ。でも、なんでか今度の事は俺自身で
進む道を決めたかった。お前が俺に話す前に、気持ちの整理をしようとしたことと
きっと同じことなんだと思うのね。その代わり真剣に考えた。ちゃんと就職して、生活力をつけたかったし。
だから、静岡を離れることになるけど、クロールの正社員になろうって決めた。』

・・・比呂の口から出る言葉が俺の心に、なんだかとても心地よく響いた。
大好きな人の、心の奥まで知ることが出来たようで嬉しかった。
でも・・なんだかほんとに、比呂ばかりが大人になっていってしまうようで悲しくて苦しくて・・ボロボロと泣いた・・。

京都と・・・横浜じゃ・・・やっぱ遠すぎるよ・・。
俺は学生で・・比呂は社会人で・・やっぱり何もかもが遠すぎる・・・。
そしたら比呂がね・・。少しだけ黙った後に・・小さな声でね・・・。言ったんだ。

『結婚しよ?』

俺・・・びっくりして、思わずむせて・・ゲホゲホ咳した後に、比呂を見たのね。
比呂・・・ゆっくりゆっくりと、俺に言ってくれたんだ。

『冗談じゃないよ。お前を喜ばすために言ってるわけでもないよ・・。今、本当に思ったんだ。』

・・・・け・・けっこん・・・?

『法律で認めてもらえないから・・気持ちだけのあれになっちゃうかもしれないけど・・
人を好きになって・・こんなに大事だ。だから、結婚したい。形がないから・・不安になると思うし・・・
思うけど・・だけど・・・前にもいったけど・・・一生の中で一番好きな人とすることが結婚だったら
・・・だったら・・別に・・・俺とお前の間で、そういう気持ちを確認しあえれば、それでいいと思うんだ。
だけど、お前が・・結婚してくれるって言ったら、俺はちゃんと覚悟をするよ。
お前を死ぬまで俺が守る・・そういうのを・・ちゃんと自覚する。
死ぬまでお前と別れないって・・そういう約束が出来たら・・・
俺は・・なんかやっぱ・・すごく安心するし・・・頑張れるし・・・・だから・・』
『するっ。』
『・・・・・・は?』
『する!結婚したい!しようよ。したいよ。』
『・・・・え?』
『今でもいいでしょ。しようよ!俺、結婚したい!したいよ。』
『ちょっと待て。』

比呂は泣きながらテンションのあがった俺を制して、びしっといった。
『そんなに簡単に返事するなよ。ちゃっと考えて。』

・・・・俺が黙ると・・比呂がぽつりポツリと話し出した。
『男同士で・・・結婚するって言ってるんだ・・。そんなに簡単に返事しないでくれよ。』
『・・・・。』
『俺は別にそういう言葉でお前を縛りたいわけじゃない・・だけど・・ただお前が好きって気持ちだけじゃ・・
お前の未来までもらうようなこと・・できないんだよ・・・だから・・。』
『・・・・・。』
『一回だけむしかえす。ごめんな。お前、女とヤったじゃん・・。』
『・・・・。』
『俺はあれですっかり見失ったんだ。』
『・・・・・。』
『俺。那央に告られてからずっと、俺に執着してきたお前見てきたから・・・
男が相手じゃないと駄目なのかなーって思ってて・・だからこそなんか・・
俺について来いっ!!って感じでー・・いられたんだと思うんだ・・・。』
『・・・・。』
『でも、お前が女でもいいってわかったら、付き合ってることすら罪悪感で・・
俺がいなければ、那央は女と付き合って・・ゆくゆくは子供も出来て・・って・・
そういう風になれるって思って・・・だけど・・・』
『・・・・。』
『だけど・・俺、駄目だったじゃん。お前に泣きついた。覚えてるだろ・・?』
『うん・・。』

泣きつかれてヨリを戻したわけじゃないけど・・・。

『・・・ほんとに大好きになっちゃったんだ・・。それまでも大好きだったけど・・
諦められないって自覚した・・・。俺には那央しかいないってわかった。』
『・・・・・・ひろ・・・。』

比呂はこほっと咳払いをする。そして照れ笑いした後、また真剣な顔になった。

『結婚は俺の願望。ただの夢。自分じゃ抱えきれなかったから、勝手に口走った。』
『・・・・・。』
『だけど・・お前を背負う覚悟はある。背負うって言ったら失礼かもしれないけど・・
一緒に歩いていくには、大変なことのほうが多いってわかった上で、
覚悟もしてる。それさっぴいても、お前と一緒に生きていけることのほうが、全然大事。
だから、お前も真剣に考えて欲しいの。』
『・・・・。』
『家族の人のこととかも・・全部を一生懸命考えて・・・。』
『・・・・。』
『・・返事して欲しい。いつまででも待つから。』
『・・・・・・・・ひろ・・・。』

そのあと比呂は言ったんだ。俺、一生忘れない。

『俺を喜ばそうとか、そんな簡単な気持ちでいい返事をするなよ。
お前が、俺と結婚するっていってくれたら、俺はもうお前に甘くないからな。
浮気なんかしたら露骨に文句言うしはったおすからな。
俺と一緒にいることが、お前の一番の幸せだって信じていきてくからな。 
身を引くとか絶対しないからな。そういう気を二度と使わないからな。』

・・・・・・・ばか・・。死ぬほど嬉しいよ。

すごくすごく時間をかけて話して・・ラブホではセックスはおろか、キスすらも俺達はしなかった。
『飯屋とかだと・・周りの人間の耳が気になって・・やっぱちゃんとはなせないし・・・
人目とかそういうのに邪魔されたくなかった。2人きりになりたかったから・・
だから・・ムードもなにもなかったとおもうけど・・ラブホにいった。ごめんな。』
話するためだけに、3時間で6000円も払った比呂。
もっと安いラブホとかあったのに・・エロくない内装を意識してくれたみたい。ありがとう。


今日は比呂は4時までバイトだったんだけど、俺が午後からずっと家の用事があって・・
7時から飯を食う。どんな顔して会えばいいのかな・・・。
ぷろぽーずの返事、したいよ・・。だって俺は、迷わないもんよ。
比呂の話、全部わかった。すごく納得して、ますます大好きになった。

でも・・・でも・・・それでもまだ返事はしないほうがいいのかな・・。
考えても考えても足りないくらい、とても大事なことだから。とりあえず今日。キスしたい。

ぎゅってしてほしい。あいしてるんだよ!!もー・・。

2008/04/12(土) 18:30:37
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