2008/5/5 (Mon.) 23:54:49
山梨から帰ると、比呂が庭の手入れをしていた。
新しい苗が植えてある。青い花が咲く苗だという。

家に入ると玄関に、見慣れないサボテンが置いてあった。
仕事で世話をしているうちに、情がうつってしまったといって
自分で買い取ってきたようだ。
あの子らしい、綺麗な緑色のサボテンだった。

『たまには飯おごるよ。』
比呂がさやを抱きながら言う。
私は思わず涙が出そうになる。
妻が『高級なてんぷらが食べたい!』といって笑った。

比呂が知り合いの方に教えていただいたらしい
日本料理屋にいった。
『おじちゃん酒のむっしょ?近いから歩こう。』
比呂が言う。

妻と私、そしてさやを抱く比呂。
四人でゆっくりと店まで歩いた。
とても素敵な店で、天婦羅もちゃんと『高級』だった(笑)。

妻は照れ隠しで高級な天婦羅といったのに
実際そんな料理が出てきてしまい、
箸がなかなか進まない。

そんな彼女を見て比呂がいう。
『残さず食えよ。ちなみに次はかーさんのおごれ。』
『残さないわよー。っていうか、私、次に何おごらされるの?』
笑って文句言う妻に彼は、ははっと笑ってこう言った。
『高級な何か。』

丁寧に作られた料理を、美味しく食べて
『ここはやっぱり俺が払うよ。』と私が言うと
『なにいってんの。俺のお・ご・り☆』
といって、比呂が私にウィンクをしてきた。

音羽とまるで同じ仕草。胸が痛む。
先に店を出て、そのことを妻に言うと、
妻が私につっかかってきた。
『比呂は私達の子よ。そんなこといわないでっ。』

支払いを済ませた比呂がでてきて
『お待たせさんー。ほらおいでー。』
と、さやを妻から受け取る。

家路につく私達。
さやをあやしながら私達の前を比呂が歩いていく。
妻が私の手を握ってきて
『さっきは言い方悪くてごめんなさい。』
と、小さな声で私に詫びた。

『いや。君の気持ちはわかってるから。』
妻の手を握り返して私は笑う。
先をいく比呂は、さやと2人、きゃっきゃと笑って話を続けている。


いつのまにか大きくなって
こんなにいい子に育ってくれて
高校を卒業したら君は
家を出て遠くにいってしまうね。
仕事も決まり、自分の貯金で免許も取るという。

まだ高校生の君が、遊びたい盛りの君が
しっかり足元を見据えながら、貯金をしてきたことが心に刺さるよ。
おじちゃんは、何もお前にしてあげてこれなかったね。
だけど、それでも君に『おとうさん』といってもらえる。

おじちゃんは比呂に、なにかかえせるかな?
君にもらった幸せの半分も、きっと返せないと思う。
それでも君を、大事に大事に思ってるよ。
おじちゃんにとってはね
比呂は初めての子供なんだ。

それは永遠に変わらないんだよ。
NEXT