2008/6/30(Mon)14:41:58

学校に行ったら、比呂が黒板に独りで落書きをして遊んでいた。
『おはよ〜』って声をかけたら、ぼんやり顔の比呂が『おはよ。』って返事をする。
俺は自分の机にバッグをおいて、比呂に駆け寄った。
『なにしてんの?楽しそうだにゃ〜☆。』『ああ。楽しいよ。お前もかく?』
比呂はそういいながら、俺にチョークを渡してきた。
手渡されたチョークを見つめた後、俺は視線を比呂にずらす。

『ユッキーのあれ・・人違いだったのかー?』

金曜日に他のクラスのヤツが来て、
『ピンクと女が飯食ってんのを何度か目撃したんだけど、あれ、アイツの彼女?』
とか聞いてきたんだ。そん時俺らは麦ちゃんと比呂と俺とで廊下で遊んでたんだけど。
比呂はそれ聞いてははって笑うと、『違うだろ。見間違えじゃない?』って即答した。
でも、そいつは首をかしげて、『でも、いっつも同じ子と一緒にいるんだけどな・・。』という。
そしたら比呂は、『ふ〜ん・・。』っていって、『じゃ、今度聞いてみる。』ってこたえた。
そのあと黙っちゃってたから、麦ちゃんがすっげえ気にかけててさ・・・。


『やっぱ本人だった。塾の友達と飯くってたんだって。』
比呂は黒板に絵を描きながら、さらっとそんなことをいう。
『塾の友達って・・・まさか前に色々あったあの女じゃな・・』
俺がそこまで言うと、比呂はぴしゃりと俺の言葉を断ち切った。
『友達だって。だから別に、あいつにやましいことはないから。』

・・・・こんにょさん・・。

俺は黒板にハゲってかいて、チョークを置いた。
で、比呂の腕を掴んで廊下にひっぱってって話をする。
『比呂は・・ユッキーと付き合ってて楽しいの?』
『・・・・・・・。』
『幸せなの?本当に。』
『・・・・うん。幸せだよ。俺は。』

・・・・・こらー・・・・。

『何を言い切ってんだよ。女と遊んでたんだよ?ピンクちゃんは。』
『・・・・。』
『あんなに年中比呂のことを疑ってるヤツが、どうして自分じゃそういうことが出来るわけ?』
『愉来。』

強く呼ばれて俺は黙る。比呂は穏やかな顔で俺を見ていた。

『・・那央に悪気はないからさ。』

・・・・・・。

『・・・ピンクさんに悪気がなくたって・・・比呂・・傷ついてるじゃん・・・。』
『・・・・。』
『傷ついてる人がいるんだから・・悪気とかそんなの関係ないじゃんっ。』
『・・・・・・・』
『いつまで許し損してくつもり?ユッキはいいやつだけど・・でも、鈍感すぎるよそういうとこ!』
『・・・・。』

比呂は黙って俺の話をきいていたけど、少し外を見た後、俺に視線を合わせてきた。
かすれた小さい声で、比呂はぽつりぽつりと話をし始める。

『那央は・・・・。那央はさ、中学のときにイジメにあってたじゃんね。』
『・・ああ・・。うん。きいた。その話は。』
『だから、嬉しいんだよ。人から好かれることがさ。』
『・・・・・・。』
『誘われたら断れないのは、あいつの優しいとこでさ・・周りに無視されてつらい思いをしてきたから・・
だから、自分に好意を持ってくれてる人の誘いを、断ることが出来なかったんじゃねえのかな。』
『・・・だけどっ・・・。』

実際。比呂の言い分はよくわかる。ユッキーは勝手なとこもあるけど、俺にはすごく優しいし、
筋の通ったとこもある。悪いやつには徹底的に冷酷だったり、比呂の前ではかわいいんだけど、
普段は無口でキリっとしてて・・ナンパなトコなんかはないし・・けど・・それとこれは話が違う。

理不尽だよ。比呂もバカすぎる。

けど、こんだけ比呂に言い切られちゃうと・・俺もう何にもいえない。
バカは応用が利かないから・・、感情だけが心の中をグルグルしてる状態。
モジモジして、もうこれ泣いちゃおうかな・・って思ってたら、比呂が笑った。

『俺もね、昨日、本人に文句言っちゃったんだ。そういうのヤメロって。』
『・・・・・え?まじで?』
『うん。だけど、きっと那央は繰り返すと思う。もうしないって・・言ってはいたけどね。』
『えー・・・・・。』
『でも・・そうなってもさ、アイツのことを見損なったりしないであげて欲しいんだ。』
『・・・・・。』
『那央も心の傷を抱えて、一生懸命頑張ってる。そういうの抱えながら、あいつなりに
ゆっくり頑張ってるところだからさ・・・。それに、那央が色々な子に優しくしてるのは、
事実悪いことじゃないとおもうし、俺の気持ちが絡んじゃうからヤメロって話になっちゃうだけでさ・・。』
『・・・・・。』
『・・・ごめんな・・。なんかいつも俺・・心配ばっかかけてるな。』
『比呂ちゃん・・・。』

目を上げたら、廊下の向こうから麦ちゃんとピンクさんが歩いてきた。
ユッキがすっごいすまなそうな顔で比呂に手を振る。
そんなユッキをみて、こんにょひろは笑顔で『おはよー。』って元気に声をかけてんの。

俺はそんな比呂の横顔を見ながら、恋愛って大変だなあって思った。
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