2006/5/2 (Tue.) 08:14:38

今日から6月の体育祭にむけて、クラスでムカデ競争の練習が始まった。
一年生の恒例競技で、今朝は雨がぱらついてたから、教室前の廊下でやることになった。
そしたら佐伯のクラスも、練習を今朝から始めるらしい。

『こんにょ・・・。』『・・チャーリー・・ごめん・・忘れた。』『なんだと!』
佐伯と比呂が、二人にしかわからない会話で、火花を散らし口げんかしたあと、
それぞれクラスの輪に戻り、練習を始めたのだった。
 
『どけよ!』『あっちいけ!ばか!』『おい紺野、頭からネジおっこってんぞ。』『黙れ』

佐伯と比呂の頭弱そうな言い争いを聞きながら、1組と2組で廊下を奪い合うように、ひしめき合ってムカデ練習をする。
最初は、だるかったんだけど、やってるうちに楽しくなって、時間はあっという間に過ぎた。
30分のムカデ練習のあと、朝練組はそれぞれの部活に向かう。

バスケ部は学年ごとのストレッチだけだったから、そのまま廊下で一年だけでやった。
当社比3倍速でストレッチを終え、『じゃあ放課後』といい、教室に戻る。
俺は比呂の袖を引っ張って、音楽室の前まで連れて行った。音楽室の前は、人がほとんどいないから助かる。

昨日は俺は泣くばっかりで、比呂に何一つ謝れなかった。今日は謝らないと・・・。

『昨日はごめん。・・へんな宣言をしたりして。』
『え、いいよべつに。なんか理由があったんでしょ?』
『・・・うん。』
『じゃあしょうがないよ。いいよ。もう。』
謝罪は数秒ですんでしまった。そして俺は猛烈に葛藤をする。

告白すべきか。言わずにおくか。好きだといいたい。だけど・・・。

比呂はせかさない。俺がぐずぐず泣き出して、『あのさ・・。』を、何度繰り返しても、
比呂はちっともせかさなかった。
・・一瞬のうちに、俺は必死に二択の答えを自分に迫り、・・・・その結果、安定を選ぶ。

『ごめん・・・ごめんね・・。本当にごめんね・・。』
涙がどばーっとでた。

『え、ちょっと待って・・。泣くほどのことじゃないじゃん。』
『・・・。』
『まあ・・たしかに俺も結構ショックを受けたから・・謝ってもらえてすっきりした。』
『・・・・ひろ・・。』
『あんな宣言もう二度とするな。』


その反応が、どうにもうれしい。
『別に気にしてないよ。』とか言われちゃってたら、俺はほんと立ち直れなかっただろう。

比呂が俺の肩をばしばしとたたく。
『いこうぜ。時間あるから、コンビニいってなんか買おうよ。』
俺は涙を拭いながら、ほっとしたような後悔してるような、そんな複雑な感情に支配されていた。

教室に入って、財布を取って、職員室の前を通り過ぎたら
『お前らサニマにいくのかー!先生のタバコ買ってきて!』
って、加茂橋先生に呼び止められた。
比呂が先生から金と、タバコの銘柄かいた紙を渡される。
『店に電話して、ちゃんとわかるようにしとくから。あ、つりで飴でもかっていいから』
『飴ぇ?・・・先生、俺らガキの使いじゃねえんだけど。』
そんなことをいう比呂の腹を、先生がくすぐって比呂完敗。先生のおつかいを引き受けた。

『くすぐりゃすむと思いやがって!』
小学生みたいなボヤキを繰り返しながら、たらたらと歩く比呂の後ろを追った。
『パシリすんのは別にいいけどさー、生徒にタバコってどうなの?あの人。』
比呂がけらけらと笑うから、俺は黙って、こくりとうなずいた。

突然、歩くスピードをゆるめた比呂が俺の顔を覗き込む。
『・・菓子でも何でもおごってやるから、泣きやめよ。な。』
そういって笑った。
お前にはきっとわからないよね。だってお前は紺野比呂自身だから。
お前の優しさは、すごく普通っぽいけれど、他人のそれとはまるで別なんだよ。

少なくとも・・俺にとっては・・
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