
2006/7/7 (Fri.) 16:43:09
今日は1−2組は、一日選択授業だった。
一年は夏休み前、二年は冬休み前、三年は冬休み後に、各クラス一日かけての選択授業がある。
今日の選択授業は、家庭科と美術と音楽で、家庭科はパン作り、美術は茶碗作り、
そして、音楽は自分のテーマソング作詞作曲だった。
俺は、比呂が『パンくいてえ。』とかいうから、小沢と三人で家庭科の授業を選択。
そしたら他のやつらは誰も家庭科を選ばなくって、結局俺らは三人で一日パン作りする羽目に。
俺にとっては天国だけど。
『なーあー。小沢ちゃーん』
『なにー?こんにょちゃーん。』
『これって何のパン作るんだっけー。』
『ベーグルとーこっぺぱんだってさー。』
『まーじかー。おれ、ベーグル、めっちゃ好き。』
『俺も好きー』
二人の会話を聞きながら、思わずにやけるピンクな俺。比呂は話を続ける。
『昨日西やんとパンの注文表みながらさー、何作る?とか言ってたのに、あいつ音楽選びやがった。』
『あはは!!自分のテーマソングへの夢を捨てられなかったんだね。』
『俺との約束よりそんなもん選びやがって。あいつのテーマソングなんか秒でできる。』
そういうと比呂が、だるそうに歌い始めた。
♪コエンザイム過剰摂取 かのう姉妹の隠れファン
ベッド下の熟女本が 帰ると机においてあるー ♪
そこまで比呂が歌うと、ガラッとドアが開き先生が入ってきた。
『どうだー、お前らー。うまく作れそうかー。』
『うまくつくれそうか〜(←先生の口調を真似ながら)・・じゃねえよっ!!どこ行ってたー!せんせー。』
『メールだメール。援交相手の女子高生とな!』
『『『おおおおお!!』』』
『嘘に決まってんだろ。中坊か。』
『俺ら去年まで中学生だったから。』
『さっさと手を動かせ。特に紺野。』
『まじめにやってるじゃん!!!っていうか指導してよ。俺らは内職人員じゃねえんですけど!』
『だってパン作り知ってる先生なんか、一人もいないんだもん。しょうがねえじゃん。』
『本見てパン作りとか家でやるのと一緒じゃん!趣味でやってんじゃねえんだって!』
比呂と先生の会話を聞きながら、くすくす笑う小沢と俺。
『大体ここ、配線実習部屋じゃん!昨日配線のテストやったとこで、なんでパン生地こねてんの俺たち!』
『お!そうか!2組昨日テストだったのか。どうだった?上手にできた?』
『やめて下さいトラウマなんで。』
比呂の話を聞きながら笑う俺をみて、小沢が笑う。
俺に向かって、口の動きだけで『しあわせ?』と聞いてくる。
俺は思わず真っ赤になって、でも正直に、『うん』と頷いた。
俺の背後で、先生と、ぎゃあぎゃあ言い合ってる比呂が愛しい。
******
そんなこんなで、なんとか俺たちは、大量のパンを完成させた。
クラスに戻ると他のやつらが俺らの帰りををまっていた。
『ぱん、ちょう!』『すげえ!本物みてえ!』
そういって俺らに群がるクラスのやつら。
『幸村と小沢が作ったやつってどれ?』って言うから
俺と小沢は、手に持ったビニールにはいってるパンを、みんなに差し出す。
『・・・ちょっと待て。俺も作ってきたんだけど。』
『いらねえよ。テキトー紺野のパンなんて。』
『なんだと!!!!』
俺と小沢は目を合わせて笑った。比呂が一番作業が丁寧で、一番うまくできたのにねって。
そのあと比呂が、西やんのとこに行って、西やんの作ったテーマソングを聴いて爆笑していた。
『大丈夫。お前のセンスに時代がついていけてないだけだから。』
とか声かけてるあたり、きっと、西やんのテーマソングの出来は最悪なんだろう。
小沢が比呂に『お前が作ったパンちょうだい?』っていったら、
比呂はベーグルとコッペパンを二個ずつ自分用にとると、残り全部小沢にあげていた。
自分で持って帰るパン、おじちゃんたちにあげるんだって。
俺はそんな比呂をみていて、心がすげえ温かくなったよ。
焼き上げ直後に一個だけもらった比呂のコッペパンの味を思い出した。
すげえおいしかったなあ。好きなやつが一生懸命作ったパンを食べられて幸せ。
ぼんやりしてたら小沢が、比呂にもらったパンを俺に差し出す。
『お前どうせ、自分から比呂にいえないだろうとおもって。』
・・俺のために、小沢は比呂からパンをもらってくれたんだって。
『・・・ありがとう。』
本当にうれしいな。いびつなベーグルも、やけに短いコッペパンも。
小沢の優しさも、比呂の屈託のない笑い声も、全てが俺のそばにあって、
全てがとても愛しく思えて、幸せな気分でいっぱいだった。