2006/7/19 (Wed.) 23:16:44
学校が終わって、俺等はコンビニであれこれ買って病院にいった。
『案外、もう退院してたりしてね。』なんていいながら、豪雨の中、バスで病院に向かう。
イスが三つだけ空いていたから、俺と浅井と麦が座って、浅井のひざの上に小沢が座った。
病院に着く。比呂が入院してる5階でエレベーターを降りた。
そのあと病室に行くのが怖くて、四人でごにょごにょ道を譲り合った。
『お前・・先に行けよ・・。』『いやここはやっぱ麦が・・・。』
『もー!駄目駄目さんっ!! 』っといって、先頭を歩いたのは、俺の視野世界最小の小沢君だった。
情けないバスケ部トリオ。がくり。
病室につくとネームプレートに<紺野比呂>ってかいてあった。
『まだいるね。あいつ。』といって、今度は麦がドアを開けた。
『よー変態!体調どうだー!』といいながら病室に入ると、
看護婦に点滴を変えてもらってる比呂がにっこりと笑った。
顔色が、かなりよくなってて安心した。
看護婦が、『じゃあ、何かあったら呼んでね。比呂くん。』と、紺野に声をかけてったのが気になる。
名前で呼ぶなよな・・くそっつ!比呂はナースのほうをみて、無言でこくりと頷いた。
『・・どうしたんだよ・・包帯。』麦が比呂のデコの髪を上げる。
比呂は、きょとんとした顔で、麦をじ・・っとみたあと、にこりと笑った。
『内出血がへんなふうになったとかいって・・切って血を抜いた。』
と比呂はいう。
反応がいつもより鈍い。しょうがないか・・。昨日の今日だもんな・・。
『紺野ちゃん・・昼飯でた?』と浅井が言うと、比呂がこくんと頷いた。
『ぶろっこりが・・でたよ。』と比呂が言う。麦がオエーっとかリアクションしてた。
『横になんな。』といって、俺は比呂のそばに寄っていった。
『うん・・・・。』といって、比呂は枕に頭をうずめて横になる。
ぼんやりする比呂。俺等は買ってきた弁当をひろげる。
俺はから揚げ弁当買ったんだ。だから比呂にから揚げを小さく裂いて食べさせてやった。
比呂は、一口だけ食べると、『おいしい。』といって、目を閉じてしまった。
『ちょっと寝る?』麦がいう。比呂は麦をみてこくりと頷いた。
すこしすると、比呂んちのおばちゃんが病室に入ってきた。
全員一斉に立ち上がって、お辞儀をしたら笑われた。
『昨日はありがとう・・。ごめんなさいね。全然眠れなかったでしょう?』
そういいながら、俺らにイスを出してくれた。
『一週間くらい入院するの。退院は夏休みになっちゃうみたい。』
・・・・・え?
『紺野・・そんなに悪いんですか?』麦が真顔になる。
『うん・・・。ちょっとね・・。言葉がうまく出なくなってるみたいで・・。』
『それって・・・脳障害とかなんですか?』今度は小沢が聞く。
おばちゃんは、首を振った。『精神的なものみたいだから。』
眠ってるとはいえ、比呂がいる病室だ。それ以上、突っ込んで聞けなかった。
おばちゃんは、用事でそのあとすぐに病室を出た。
空気が重たかった。すげえ重たかった。
考えてみたら、いつも笑顔の中心には比呂がいたんだ。
その比呂が、こんなになっちゃった。引っ張りあげてくれる人間がいない。
比呂はちゃんと生きてるのに、なんだかまるで葬式みたいな感じだった。
ちょっとしたら、比呂がくしゃみをして目を覚ました。
そして、自分で起き上がると、眠そうな顔で『おはよ。』という。
おれらが意気消沈している姿を見て、比呂はずれたタイミングでふふっと笑う。そんでいうんだ。
『・・看護婦さん・・・白と水色とピンクがいる。』
病人に気を使わせてる不甲斐ない俺等。その一瞬で猛烈に反省した。
『まじでー?俺ここでピンクはみたことねえよ?』いち早く反応したのは麦だった。
『え?いるよ?みてないの?めちゃめちゃかわいいよ。』
比呂がニコニコ笑って話す。喋りが若干遅いけど、今度はちゃんと目が覚めてるみたい。
俺等は、比呂の小さな声がよく聞こえるように、ベッド周りに集まって
ナースの事で小一時間、話をして盛り上がった。
二時間ぐらい病室でウダウダしたあと、比呂を呼びにピンクナースがやってきた。
色々検査があるんだって。検査って・・なにするんだろう。
比呂はベッドから立ち上がると、少しだけふらっとよろけた。そんな比呂を麦が支える。
『わり。』比呂が言うと、『いい。気にするな。』と麦がこたえた。
『車椅子もってこようか?』とナースが言う。
比呂は首をふるふるとして『歩けます。』っていって歩き出す。
麦が、その比呂の腕をつかんで、俺らのほうを振り返る。
『俺、もうちょい付き添ってるわ。お前ら先に帰ってて。』
・・・・言われてしまった。
『ほんといろいろごめんな・・。どうもありがとう。』
比呂がいう。ごめんなんて言わなくていいよ。比呂は生きてくれたんだから。
ただ・・出来れば俺が比呂に付き添いたかった・・。
小沢と浅井と俺とで、病院前のバス停まで歩く。相変わらず落ち込み具合が露骨な俺。
でも今日は浅井もへたれ気味だ。『紺野ちゃん・・・大丈夫かな・・。』とかいいながら
いまだに涙目になってる浅井の背中をさすりながら小沢が、俺に話しかけてくれる。
『ここって、面会時間夜9時までなんだよね。』だって。
俺は泣きそうになってる浅井をみつめながら、塾帰りにまた比呂に会いに来ることを決めた。