『比呂。』

塾帰りに比呂の病室に寄った。 夜の8時。比呂は眠っていた。 点滴はまだ続いてる。
『比呂。』と小さな声で名前を呼ぶと 、比呂はゆっくり目を開けた。

『ああ・・。』 比呂がぼんやりとした顔で笑う。
こいつのこういう時の顔は、妙にさみしそうに見えて泣きたくなる。

『どう?体は楽になったかい?』
俺は比呂の手を握ってきく。 比呂は、無言でこくりと頷くと『だいじょぶ。』と短くこたえた。

俺な・・。なんかな・・。今回の事ですげえ思ったことがあるんだ。
比呂が死ぬかもしれないって聞いたじゃん。・・比呂は助かったし、ちゃんと生きてくれてるけど
そしたらね・・言葉だけじゃ・・もう全然足りないんだよ・・・

不安が埋まらないんだ。

だから、手を握ったり抱きしめて、体があることを確認してしまう。
比呂の体があって、それがあたたかいことを確認して やっと俺は安心できるんだ。

そんな哲学チックなことを、一人考えて感動してたら、
すうすうという音がきこえて、比呂を見たら案の定眠っていた。

点滴に睡眠薬でもはいってんのかな? 今日のこいつは、やたらとよく眠る。

頬にちゅっとする。手の甲にちゅっとする。 頬を撫でる。 比呂の胸に頭をのせて目を閉じる。

そのうち面会終了時間がきてしまったから、俺は眠る比呂を残して病室を後にし、家に帰った。

兄ちゃんの部屋に顔を出して、比呂の様子を伝えると
兄ちゃんは『よかったな。』と俺に優しく言ってくれた。




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