『明日退院!』

比呂が、明日退院することになった。 ほんとは今月いっぱいとかいう予定だったんだけど
家で安静にしてるなら、帰ってもいいといわれたらしい。

心停止状態になったということを知ってしまった俺等は 退院決定の話を聞いたとき、
正直『大丈夫か?』とおもった。 だけど、嬉しそうな比呂の顔を見たら、なにひとついえやしなかったよ。

ということで、比呂は退院が繰り上がった分、今日は一日みっちり、国語の補習をベッド上で受ける。
残り3日でやる予定を、1日に詰め込むハードさだ。
俺らがちょろちょろしても邪魔なんで、勉強終わる頃まで、それぞれ自分らで暇をつぶす。
そんで、夕飯時期に各自弁当を買って病室に行き、 勢いよくドアを開けたら、
ベッド周りのカーテンが閉まってて、ナースがバっと、立ち上がる影がみえた。
立ち上がるって・・一体何してたの?

カーテンが揺れて、中からピンクナースが出てきた。 顔とか赤いし、なんなんだよ。
『すみません。採血終わりました。』とか言いながら出て行ったけど、手ぶらでどうやって採血したんだ?

麦が険しい顔つきになって、ベッド周りのカーテンをババっとひらく。
するとそりゃあ幸せそうな顔で、寝こけてる紺野比呂16歳。
麦は無言で比呂のデコを、バチンとひっぱたいた。
しかし比呂は本気で熟睡してたようで、それにも負けずに眠っている。
そしたら麦が比呂のことを、すげえ乱暴に揺り起こした。
さすがの比呂もビックリして起きる。
『おっ前・・今、ナースとなにしてたんだよ!』

比呂は頭の上にでっかいはてなマーク浮かべた状態で絶句してる。。

そりゃそうだ。


あきらかに熟睡してた紺野にいきなり、目を覚ませっていう方がどうかしてる。
浅井が麦と比呂の間に入って『どうしたんだよ、お前はー!』と麦を制し、比呂の身なりを整えてやった。
比呂はされるがままでぼんやりしてる。放っておいたらまた寝ちゃいそう。

麦は何故か怒っていた。

『今なにやってたんだよ!』『・・・・は?・・今?…今・・寝てた・・』
『看護師となにやってたんだよ!』『カンゴシ?』
『ナースがいただろ!何やってたんだよ!』『しらねえよ!ったく、なんなんだよ!』
寝ぼけながらも怒る紺野。ごもっともだ。

『あれ?』
そこまでまったく存在感のなかった小沢が、何かに気がつく。
『こんにょ・・・左手。』『え?』
比呂が左手をじ・・とみると、そこには携帯番号がかいてあった。

『・・・・なにこれ・・・』といって、紺野が本気でびびりだす。
何度も言うけどこいつはさ、ほんの数分前まで熟睡してた。
だから混乱の極みに達しているわけで、なんか・・まじで・・かわいそうなやつ。

携帯番号を見た途端、麦が『あの女っ・・』とかいいながら部屋から出て行こうとする。
浅井が無言で麦を止める。麦が浅井を突き飛ばそうとした。

でも浅井はそんな麦の両腕をがしっと掴む。
『やめろよ、麦。どうしたんだよ。なんかお前おかしいよ。』
珍しく真顔な浅井のようすに、病室の中がシーンとした。

その時、ベッドのとこのスピーカーから、気の抜けたようなピンポンパンポンがなって、
《夕食の準備ができました。患者さん、及びに付き添いの方は・・》と 夕飯とりにこいコールが流れた。

小沢が比呂ににこっと笑って『とってくる。みんなイスに座れよ』といって部屋を出て行った。
俺は麦の肩を叩いて、『座ろうよ。』って声をかけた。
麦はすっかり機嫌が悪くなってて、俺らの言葉に返事もしない。

比呂も当然機嫌最悪で、病院生活最後の夜がこれじゃあ台無しだよと思った。

小沢が、小走りで部屋に戻ってくる。
『朗報〜!!』といいながら比呂に病院食を見せると そこは面白いほどのオレンジの世界。

にんじんてんこ盛りワールド!!!


『なんで?!!!やだ!!無理っ・・・たすけて・・・!!!』

子供みたいな比呂をみて、麦がやっと噴出して笑った。
俺も遠慮なく大笑いしたし、小沢も浅井もにっこりわらう。

浅井と麦がから揚げ弁当買ってきてたから、から揚げとにんじんを交換してもらって
比呂も何とか最後の晩餐を、ご機嫌モードで食べることができた。

そして食後のミーティングだ。

ピンクナースへの怒りで麦が、我失ったのはびびったが
俺だってじゅうぶんびっくりした・・し、心の底から嫉妬した。
比呂がもてるのはわかってんだけど、リアルタイムでそういうの見ちゃうと 対応に困る。

『どーすんだよ。』また不機嫌になってる麦がいう。
『どーすんのって・・なんでお前が怒るんだよ。』比呂がイラっとした顔で言う。
『俺的には憧れの展開だね。』浅井がへらへら笑っていう。
『ドラマみたいだよねー。ほんと。』小沢がそういって俺を見た。
俺は・・・俺は・・・なんにもいえないで、比呂のことをじっとみていた。

そしたら比呂と目が合って、そんで比呂のほうが視線を外す。
んでおもむろに立ち上がると、部屋についてる洗面所で ためらいなく手を洗ったんだ。

水道止めると比呂が、麦のほうに手のひらをばっとひらく。
『なんでこんなもんひとつで、怒られなきゃなんねえんだよ。』
そういうと、麦の背中で濡れた手を拭いた。

すると麦が『なにすんだよ!』って比呂にいう。
『お前こそ寝てる人間ぶん殴って、なにやってんだよ!反省しろっ』
比呂のごもっともなご意見に、麦はしぶしぶ『悪かった』といった。

死に掛けたり・・たすかったり・・先生と語り合ったり・・
友達にやきもちなんかやかれたり、比呂は本当に大変だ。
そんな比呂を見ていて、麦もなにげに精神的に不安定になってるから、
なんかそういうのが爆発しちゃったんだろうね。

麦が比呂に謝るのを見て、浅井と小沢が笑い出した。
んでなんかみんなおかしくて、比呂と麦はきっと照れ隠しで
へらへらとみんなで笑った。 なんか、すげえくすぐったい気分だった。

『番号消して、惜しかったじゃん。』
浅井がにやりとして言うと、比呂は笑いながらこういったんだ。

『いい。直接話聞きにいくから。』

『『『『おい。(光が丘四重奏)』』』』





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