『ピンクナース』
今日、無事比呂が退院した。
14時頃退院とかいうから、部活の後すぐ行ったら久々の比呂の私服姿。
あー・・・。なんか、感無量だよ。
麦と浅井はバイトで、小沢はそんな状況に気を使ってくれて
夕方比呂のとこに直接行くとかいってて、
だから俺だけが、比呂の退院に立ち会うっつーかなんつーか
荷物持ちみたいなノリで、退院の手伝いをした。
おじちゃんとおばちゃんが、ナースのとこに挨拶に行って
その間俺らは病室で、ぼんやりジュース飲んで待っていた。
退院後の薬が出るらしくて、それが出るのを待ってたんだけど
そしたら、ドアががらりと開いて、昨日のピンクナースが入ってきた。
『あ・・ごめんね。お友達と一緒だったんだ。』
・・・は?なんでそんなこというの?この人。俺がいちゃまずかったんかい。
『ああ。はい。』
比呂はそっけない返事をする。するとピンクナースが比呂に
『これ、退院後の薬なんだけど、飲み方が入院中と違うの。』
といって、薬の袋を差し出した。
『へえ・・。なにが違うんですか?』
薬の飲み過ぎでみんなに心配かけた事を反省したらしい比呂は、
今度は絶対まちがえないようにと、真剣にナースの話をきいていた。
昨日、この女、比呂の手に携帯番号かいてさ・・・
もしかして・・一晩中、比呂の電話を待ってたのかな・・・・。
比呂に薬の説明を終えると、ナースはにこりと笑って言った。
『比呂君、もう薬の飲みすぎなんかで、ここにきちゃ駄目よ。』
比呂は、んはってわらって、『はい。』って言って頷いた。
ナースはゆっくりドアを閉めながら、もう一度比呂の顔を見て、
そんで、完全にパタンと閉じた。
・・・多分・・多分あの人、比呂のこと、好きになっちゃったんだろうなあ。
短い間の片思いか・・・。片思い仲間として、俺はかなり胸が痛む。
『なーあー、比呂。』
俺は薬をみている比呂に向かって、ぼんやりと声をかけた。
『?』
なに?って顔して比呂が俺のほうを向く。
『結局昨日、ナースと話したの?』
俺は心臓バクバク言わせながら比呂に、そう尋ねてみた。
『は?なんで?話さないよ。相手が誰だかわかんないのに。』
・・・だよな・・。
よかった。うん。よかったんだけど・・・だけどなんか・・・ なんかな・・・・。
同情じゃねえよ。そんなんじゃなくて・・ 同じピンクだからっていうか・・・
『相手が誰だかわかんないのに』なんて、比呂に簡単に言われちゃってさ・・・
携帯番号必死に書いたんだろうに俺らが邪魔したせいで
ピンクナースに悪い事しちゃったよなって・・・ ちょっと思った。
するとおじちゃん達が戻ってきて、『さあ、帰ろう。』って比呂に言う。
比呂は、こくりと頷くと、かばんを持って病室を出た。
ナースセンターを通り過ぎる時、『ありがとうございましたー。』と 比呂が声をかけてお辞儀した。
『元気でね。』『おめでとう』『もう絶対バカしちゃだめよ!』と 口々に言いわれ、比呂は笑った。
ピンクナースは奥のほうから、比呂のことをじっとみていた。
・・・俺もあんなふうにこいつの事を、みてるのかなあと思ったら、 妙に切ない気分になったよ。
あの人、今夜家に帰ったら、きっとすげえ泣くんだろうな。
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