2006/8/18 (Fri.) 10:49:56

朝、部活に行くと、紺野と麦が険悪な雰囲気で話をしていた。

遠めに見ている浅井に、事の成り行きを聞く。
『ねえ、何したのあの2人。』
『・・麦がさー・・紺野ちゃんに喧嘩ふっかけたんだよ。』
『なんで?』
『しらねー。なんか最近あいつ、イラついてたじゃん。寿司屋以来。』
『ああ。・・で、なんていって喧嘩ふっかけたの?』
『・・・・。』
『・・・・?』
『いきなり比呂の事、けっとばしたんだよ。』
『はあ?』
『最初俺と比呂が一緒にいてさ、2人で窓のとこにとまってたセミ捕まえて遊んでたんだ。
そしたらいきなり麦がさ、比呂の背中蹴っ飛ばしてきてさ。
俺も比呂も、ふざけてやってんのかと思ったんだけど、あいつの顔見たら真顔でさ。
で、それからあんなふうにしてる。』
『・・・なんだそれ・・・。』

体育館のすみのほうで、なにやら話をしている2人。
今日の部活は一年だけだ。先生も今日はこないから、麦が仕切んなきゃ部活にならない。
しばらく見守って、収まらなかったら、止めに入ろうって浅井と決めた。
その直後、ばきっという音がして、2人のほうを見たら、麦が比呂をぶん殴っていた。

俺は驚いて動けなかった。浅井が走っていって麦を止めた。
比呂は口角から血がでてたけど、殴り返す気配はない。

麦、どうしちゃったんだよ。ほんとあいつ、最近おかしい。

俺はちょっと冷静になって、比呂のほうに走っていった。
浅井が麦を抑えながら『もうお前帰れ。』といっている。
麦はすげえ怒り散らしていて、比呂に文句を言いまくっていた。
薬の事や、女の事・・・、そんなかんじの言ってもしょうがないような事を。

浅井が麦を連れて体育館を出て行こうとして、
比呂も相手にしなかったし喧嘩にならないですんだと、胸をなでおろしていたのもつかの間
『あんなブスに言いたい放題いわれやがって。』と言う麦の捨て台詞を聞いた瞬間、
比呂が、キレたのがわかった。比呂は麦のほうにあるいていくと、
浅井に『どけよ。』と短く言って、突き飛ばし、麦を、思い切りぶん殴った。

やばい。比呂がキレたらやばい。
麦も喧嘩は強そうだけど、比呂は強い上に喧嘩慣れしてる。
前に俺が比呂と喧嘩した時、比呂をぼこぼこにしたんだけど
比呂は急所や目立つ場所を外して、頭で考えながら、喧嘩の相手をしてくれてたんだ。
そういうのを知っている・・・比呂・・多分喧嘩は場数踏んでる。

・・・相手は麦だ。きっと本気でけんかしてしまう。

俺は比呂の腰に腕を回してしがみつく。でもすぐ振り落とされてしまう。
何度も何度も、比呂にしがみついたら、比呂に『どけっ。』って怒鳴りちらされた。

どくもんか。こんな喧嘩おかしい。
なんで他所の女のために比呂は、こんなに怒ってキレるんだ。
悔しい・・・それが悔しい・・・。
2人が殴りあって蹴りあう音が、痛くて痛くてたまらなかった。

その時、部員の一人が『よせよ比呂!!佐伯もうすぐ選抜の試合が・・。』と叫んだ。
その声にわれに帰った比呂の動きが止まる。
だけどタイミングが最悪だった。
麦が思い切り比呂の腹に、蹴りを入れようとしてたとこだったのだ。

受身を取るだろうと想定して蹴りを食らわした麦に加減などなく、
比呂はそれをまともにくらって、そのまま床に倒れ込んでしまった。

その姿を見て麦がやっと我に返り、床に倒れた比呂の名前を何度も呼ぶ。
浅井が、『救急車・・救急車よぼう・・。』といったときに、比呂が浅井の頭をはたいた。
一瞬意識なくしてた比呂は、げほっと咳をすると『大丈夫。』といった。
声になってないかすれ声。俺は、泣きながら比呂の腹をさすった。

麦がその場に座り込む。はあはあと呼吸が乱れだす。
比呂が麦の頭をばしっとたたき、床にぐったり倒れたまま浅井にいうんだ。

『か・・こきゅう・・じゃない?こいつ・・。』
浅井が麦を見る。麦の手は震えていて、普通じゃないってすぐわかった。

浅井が用務員室に走って、ビニール袋もらってきて
騒ぎ聞きつけた雨宮先生が、比呂と麦を見て大声で怒った。

保健室をあけてもらって、ベッドに寝かされた比呂と麦。
俺と浅井が付き添ったんだけど、比呂も麦も全然あやまらない。

雨宮先生が、ため息ついて麦と比呂に喧嘩の理由を問いかける。
でも2人とも、一切喋らない。

気まずい沈黙。先生のため息。

『ほんとに、おまえらは、がんこだなー。』と言う先生に、俺も浅井も大きく頷いた。

ほんと頑固だ。ガキみてえ。でも力はガキじゃねえんだから、殺し合いみたいな喧嘩をするなよ。



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